3456.鳩山政権について



鳩山政権について

                           日比野

1.オバマ・鳩山会談

「ah…会談の途中だけどカメラが入って来ちゃったね。ミニスター
ハトヤマには言っていなかったけど、途中でカメラが入って来るこ
とになっていたんだ。ハローエブリバディ記者諸君。会談はもう終
了したから我々に何でも質問してくれ。」

バラク・オバマ大統領 於:9/24 日米首脳会談


9月24日に行なわれた、日米首脳会談で、会談途中にテレビカメ
ラが入ってきて、会談が打ち切りになるという、普通なら有り得な
いことが起きた。

ネット界隈では、あまりにも日本を馬鹿にしている、とか、鳩山首
相はオバマ大統領に相手にされていない、とか喧々囂々なのだけれ
ど、これは、以前、オバマ大統領との初の電話会談で、鳩山首相が
民間の通訳を使っていたことに対する、強烈な意趣返しのように思
える。

会談内容が公開されるような状況で、まともな会談なんてできる訳
がない。貴方のやったことは、こういうことなのだ、日本はアメリ
カと誠意を持って会談する気があるのか、と問いかけているように
思えてならない。

ただ、逆にいえば、それだけ、日本と真面目に交渉したがっている
ともいえる。本当に相手にしていないのであれば、そもそも会談な
んか持つ必要はない。なんだかんだ言って、会談日程を延期し続け
て、放ったらかしにすればいいだけのこと。意味の無い相手と会談
するほど大統領は暇じゃない。

アメリカは、なんとか日本や中国に米国債を買ってもらいたい。明
に暗にそうした要求をする。首脳会談なんて、そうした要求をする
絶好のチャンス。それなのに、情報リークの危険がある民間通訳を
使ってくることからして、話し合いを拒否しているのか、と受け止
めている可能性がある。だから、テレビカメラを会談途中で入れさ
せて警告した、と見る。

やはり、それだけ、アメリカは困っている。素なのか深謀遠慮だか
分からないけれど、民間通訳を入れることで、アメリカの要求をか
わす、というか、要求そのものを出させないというやり方で揺さぶ
るのは、鳩山政権ならでは。自民党政権だとここまではやらないだ
ろうし、親米スタンスを取っている手前、やりたくてもやれない。

会談をオープンにしてしまうことで、会談そのものを無効にするや
り方は、どこか、昨年の小沢・シーファー駐日大使会談を彷彿とさ
せる。

日本が民主党政権になって、アメリカから離れる姿勢を見せること
で、却ってというか、漸くというか、アメリカに日本の重要性を再
認識させたと言っていいように思われる。
 


2.世界の時間を止めた鳩

「他国のような通貨安政策には反対で、円もそう対応すると申し上
げた」 藤井外務大臣 於:ピッツバーグ G20金融サミット


藤井財務大臣は、ガイトナー米財務長官との会談後で、こう述べた。

今年の春に、民主党の中川正春衆院議員の政権を獲ったら、米国債
の購入を控える発言をして物議を醸した。

藤井財務大臣は、もしかしたら、本当にこれ以上、米国債は買わな
いけれど、その代わり今まで買った分の米国債は、円高で目減りし
ても構わないと、G20サミットでの、不均衡是正合意を持って、
バーター的な取引をしたのかもしれない。

でないと、わざわざ円高に対して、政府が介入しない、とまで言う
必要がない。1ドル90円どころか50円でも、好きなようにして
くれて構わない、とまで言ったかどうかは分からないけれど、この
発言以降、驚くほどの円高になる可能性はある。とはいえ、急激な
円高までは容認できないようで、28日になると円高の具合が急激
すぎる、として介入を示唆してはいる。

ともあれ、はっきり言って、大きな流れでは、アメリカ覇権の終焉
は避けられない。

世界から見れば、例えば、中国が米国債を買わないとか過激な発言
をしたところで、また、駆け引きをやっているな、と思うだけだろ
うけれど、もし、日本が米国債を買わない、と明言したならば、世
界は駆け引きだとは受け取らない。

なにせ、アメリカと同盟を結んでいて、戦後60年ずっとアメリカ
の要求を呑んできて、基本方針は対米従属だった。傍目からはそう
見られている。その日本が、アメリカ国債を買わない、といったら
、本当にアメリカは見捨てられ衰退するのだな、と世界が受け止め
る可能性が高い。

ただ、世界は、こうした日本のスタンスの変化が、どの党が政権に
ついても関係のない、長期国家戦略に基づくものなのか、それとも
、鳩山政権に限った、ただのブラフなのかが判別できずに慎重にな
っているものと思われる。

エイリアンであるが故に、意図が読めず、身動きが取れない。結果
として世界各国の時間を止めている。

世界から見たら、日本の新首相の語ることは「友愛」ばかりで、現
実味がない。だから、その裏に真の意図がある筈だ、と勝手に誤解
しているのではないか。もし、そうだとすると、日本の真の意図を
なんとかして読み取って、その上で対応を考えようとする筈。

だから、例えば、首相の発言ではなくて、閣僚の動きや発言を見れ
ば、その意図が分かるかもと睨めば、注意深く鳩山政権を観察する
ことになるだろうと思われる。ところが、その鳩山政権の閣僚達の
発言はてんでバラバラで、混乱するだけ。統一された意図なんて、
とても読み取れない。

ならばと、今度は、日本の国内メディアを調査して見ても、鳩山政
権を素晴らしいと持ち上げるだけで、どこが素晴らしいのか、ちっ
とも報道されやしない。素晴らしいと持ち上げるのは、夫婦でスー
パーに買い物に行ったから庶民宰相だ、とか、奥さんが夢で金星に
いったのいかないのとか、どうでもいいことばかりで、肝心なこと
は、さっぱりわからない。

だから、世界から見たら、この間の日食と同じで、日本が世界から
消えたように見えているのではないか。もしかしたら、日本は天岩
戸隠れしたのかもしれない、と。
 


3.太陽ぱくぱく「狂ったフリ作戦」

藤井財務相は、ガイトナー米財務長官との会談で、内需拡大を約束
したけれど、円高での内需拡大は、普通は輸入品の増加を伴う。

円高が続けば、海外からの輸入品が安くなる。だから、内需が増え
る傾向になることは確か。だけど、その増える内需が、期待される
程に増えるかどうかは、また別の話。

もしかしたら、日本が、アメリカや中国の代わりに、世界中からモ
ノを買って、消費する役目を担うところまで狙っているのかもしれ
ないけれど、今のままでは多分無理。

アメリカの2008年の貿易額は、輸出額が1兆3011億1000万ドル、輸入
額が2兆1659億8000万ドルで、8648億7000万ドルの貿易赤字。

対する日本の2008年の貿易額は、輸出額が7864億3000万ドル、輸入
額が7625億9200万ドルで、238億3800万ドルの貿易黒字。

アメリカは、貿易赤字の額だけ、輸入超過であって、その額は、日
本の全輸出額を超えている。だから、もしアメリカが財政均衡に走
って、輸入超過をぐっと減らして、輸出入の差し引きゼロくらいに
まで、つまり貿易赤字がゼロになるまで圧縮したとしたら、日本全
部の輸出額相当分の需要が、世界から無くなることになる。

アメリカが衰退することは仕方ないことだとしても、もしアメリカ
が、世界からモノを買えないくらい衰退してしまったら、今の世界
経済を維持するためには、誰かがアメリカの肩代わりをしなくちゃ
いけなくなる。

もし、日本がアメリカの肩代わりをしようと思ったら、家庭や全て
の産業で、輸入量を今の倍くらいにまでしないといけない。そんな
ことが出来るのか。

万が一、本当にそうするのなら、いろいろとやるべきことがある。
まず、日本の消費者の意識を変えないといけない。倹約を美徳とす
る国民を、消費を美徳に変えさせて、じゃんじゃんお金を使う風土
にしないといけない。日本人にそう仕向けることは、簡単にできる
ことじゃないだろうし、第一、モノを買うといっても、品質に煩い
日本人の好みに合う品物が、国内は兎も角、海外にそんなにあるの
か、という疑問もある。

今の世界経済は世界中で連環してる。アメリカが財政赤字を垂れ流
して、世界中からモノを買ってくれていたから、世界経済が回って
いた。いくらドルが世界機軸通貨だから、ドルは刷り放題なんだと
いっても、その分の担保は要るから、国債をじゃんじゃん発行する
。それを日本と中国が買って支えていた。

これまでは、日本人が自分でどんどんお金を使えないものだから、
アメリカに預けて、代わりに使ってもらうことで、世界中にお金が
循環していた。

日本(と中国)が米国債を買わないと、アメリカは持たないし、必
然的に世界は支えられない。それは当のアメリカ自身も認めている。

それに日本は、未来を拓くための最先端技術を沢山持っている。環
境技術なんかは特にそう。だから、世界中の、どの国もどの国も、
今の日本は味方につけたい筈。

だけど日本は狂ってしまった。それを作戦でやっているかどうか判
らないけれど、世界からはそう見られるようになると思う。

世界が混迷の時代に入ろうとするときに、自分から先に狂ってしま
うことで、外からの干渉や禍(わざわい)を避けようとしているのか
と勘ぐられているかもしれない。

「狂ったフリ作戦」という美しき誤解が、世界の時間を止めている。

日本は、狂ったフリをすることで、しばらく世界から引きこもる選
択をしたのか否かは、もうしばらくすれば明らかになるだろう。

だけど、もちろん狂ってしまっているから、自分も無傷ではいられ
ない。莫大な国富が失われるかもしれないし、国内外の利権構造も
、相当変わってくるものと思われる。


 
4.友愛の裏で核武装

「いろいろなことを考え出すと、事実関係を明らかにする手が緩み
がちになる。…基本的にはトップ。(歴代)首相、外相だ。」

岡田外相 毎日新聞などとのインタビューにて


核搭載米艦船の寄港などを巡る日米密約の調査を外務省に命じたこ
とに関して、岡田外相は、官僚の責任は問わない方針を示した。

核密約調査の対象は次の4つ。


・60年日米安保条約改定時の核持ち込みに関する密約
・朝鮮半島有事の際の戦闘作戦行動についての密約
・72年の沖縄返還時の有事の際の核持ち込みに関する密約
・米軍基地跡地の原状回復費の肩代わりに関する密約

これらについて調査して、11月末をめどに調査結果を報告するよ
うに指示している。

これらの密約は、アメリカの公開文書で明らかになっているという
から、真面目に調査すれば、細かな内容の差異はあるにせよ、密約
そのものはあったという結果になるのだろう。

では、なぜ、そんな調査を今頃するのか。

単なる勘繰りにしか過ぎないのだけれど、この核密約調査と日本の
核武装がリンクしている可能性があるのではないか。

というのも、日本に核が持ち込まれていたのだ、という事実が明ら
かになった場合、当時の政権の責任を問う声も上がるだろうけれど
、最終的には、これからどうするのか、という議論に行きつくこと
になるから。

これまでも国民が感じていたように、なんだかんだ言っても、日本
の安全はアメリカの核に守られていたのだ、と自覚したあと、どう
いう世論が形成されてゆくのか。

もしも、アメリカの核の傘はもはやアテにならない、と世論が思っ
たら、日本は独自で核武装する必要がある、と流れてもなんらおか
しくない。

4月の北朝鮮のミサイル発射後の世論調査では、核武装容認が20
%に迫り、自民党坂本氏の「日本も『核を保有する』と言ってもい
いのでは」発言にもさしたる非難も起こらなかった。

だから、世論が「核武装すべし」に流れた場合、どこかのタイミン
グで核武装をぶち上げることも、理屈の上ではあり得る。

勿論、今の民主党内部や連立を組んでいる社民党を考えると、とて
もとてもそんなことはあり得る筈がない、としか思えないのだけれ
ど、外国もそう思ってくれるとは限らない。

鳩山首相が友愛を説く裏で、JAXAはH2Bロケットを打ち上げ
た。ペイロード(宇宙に運べる質量) 重量が8トンもあるロケット
を、日本が手にした事実を見せつけた。

また、麻生前政権下で決めた、陸自の与那国島への配備について、
隣国を刺激するから撤回する、と言ったかと思えば、今度は防衛省
の予算を減額しない、という。

隣国から見れば、これは裏で何かやるに違いない、と思うだろう。
先の岡田外相発言と合わせて、本格的に核武装するのではないか、
と疑ってもおかしくない。
 


5.友愛社会の理想的前提

「個人でできることは、個人で解決する。個人で解決できないこと
は、家庭が助ける。家庭で解決できないことは、地域社会やNPO
が助ける。

これらのレベルで解決できないときに初めて行政がかかわることに
なる。そして基礎自治体で処理できることは、すべて基礎自治体で
やる。

基礎自治体ができないことだけを広域自治体がやる。広域自治体で
もできないこと、たとえば外交、防衛、マクロ経済政策の決定など
、を中央政府が担当する。

そして次の段階として、通貨の発行権など国家主権の一部も、EU
のような国際機構に移譲する……。」

祖父・一郎に学んだ「友愛」という戦いの旗印 鳩山由紀夫 Voice+ 2009年9月号
 

今は、閣僚が好き勝手にも見える発言をして、混乱を招いている鳩
山政権。だけど、いつまでも世間は待ってくれない。

遠からず、鳩山首相の指導力が問われることになると思われる。

鳩山首相は「友愛」を掲げているけれど、この「友愛」を国家戦略
に据えた場合、注意すべきことがある。それは、友愛自身は、必ず
しも成長戦略を必要としないということと、他者が全て善人である
、という前提に立っていること。

他人や自分を尊重するのに、富はあってもいいけれど、別に無くて
も構わない。金持ちでもそうでなくても、互いに尊重することだけ
は等しく出来る。民主党の政策に成長戦略がないと言われるのも、
意外とこのあたりに原因があるのかもしれない。

友愛を実現するだけなら、別に経済成長しなくたっていい。だから
、緊縮財政路線を取っても平気。

だけど、現世(うつしよ)では、個人のほんのささやかな望みを叶え
るのでさえ、お金が要る。だから、個人の尊厳を尊重するのに経済
成長を必要とはしなくても、個人の自由を尊重するためには、お金
は必要になる。

もしも、そのお金がないがために、誰かの自由が制限されていると
するのなら、どうするか。

冒頭に引用した、鳩山首相の論考に従えば、個人で解決できないこ
とは、家庭や地域が助ける、それでも無理な場合は、最後には政府
が手助けするということだから、とどのつまり、個人に「ばらまく
」ということ。そんな結論に帰着してもおかしくない。

だから、友愛な社会では、経済成長は必ずしも必要としないけれど
、結果平等の声だけは大きくなる可能性が高い。

また、友愛社会には、個人が困ったら、周りが助けてくれることが
前提になっている点も注意が必要。

確かに家族や親類縁者くらいまでなら助けてくれるかもしれないけ
れど、それに甘えて何もしなかったら、鼻つまみ者扱いされる。ま
してや他人ならどうなのか。それにこの友愛論理は国家間にまで適
用しているから、日本の周りの国家全てが性善説で動いていること
が前提になる。そこまでいくと、正直ちょっと現実離れしている。

もしも、友愛が国家戦略になって、更に、友愛原理主義にまでなっ
てしまうと、そうした、現実離れした理想を前提とした国家運営を
行ってしまう可能性すらある。

それを考えると、やはり国家レベルでの改革ではなくて、本当に身
の回りの小さなところからの改革から着手すべきではないかと思う。



6.加速するその痛みから
 
今のままでいけば、年末に向かって世相は益々暗さを増す。痛みは
加速する。太陽は天の岩戸に隠れ、世界から光が無くなってゆく。

「友愛」には、経済成長は必ずしも必要としないから、友愛と言い
続ける限り所謂、「ブレた」ことにはならない。それは、友愛とい
う言葉自体が実に曖昧なものだから。

もちろん、鳩山首相自身には、明解な「友愛」の定義があるのだろ
う。だけど、それは国民みんなにきちんと説明しないと理解されな
い。それは、友愛でなくても何でも同じこと。

どちらかといえば、鳩山首相のコメントはその場限りを取り繕うた
めのものが多く、前にコメントしたことと、後でコメントしたこと
と矛盾することが多い。それが故に、そんな説明をどんなにしたと
ころで理解してもらうことは難しい。それ以前に自他共に宇宙人だ
、と認めているから、何をか況や。

だから、鳩山首相の言う「友愛」と、国民ひとりひとりが考える「
友愛」の定義が本当に一致しているかどうかは分からない。

11月2日の、衆議院での代表質問で、加藤紘一氏が「友愛」の定
義について、各大臣に問い質していたけれど、その答えには幅があ
った。

それだけ、ひとりひとりの理解に違いのある「友愛」を看板に掲げ
ている、鳩山政権の政策は、ぶっちゃけていえば、何でもアリに近
いものがある。

今、民主党政権が推し進めようとしている、マニフェストを軸にし
た政策は、言葉は悪いけれど、「友愛」の名の下に行われる、これ
までの日本の仕組みの破壊。

脱・官僚も然り。インド洋給油停止や普天間に象徴される、日米同
盟の在り方の見直しも然り。

鳩山政権は、日本国民にとって、朝、太陽が東の空から昇るように
、今まで当たり前だと思っていて、意識することすらなかった、日
本のインフラや社会制度を根本から破壊することによって、無理矢
理にでも国民の目を覚まさせようとしているように見える。鳩山政
権が、それを自覚しているかどうかは別として、結果的にそうなる
だろう。

世界を見れば、政治的に腐敗している国なんていくらでもある。

NGOのTPI(トランスペアレンシー・インターナショナル)は、
国内外の汚職・腐敗の根絶をめざして1995年から毎年、政治家と公
務員の腐敗の程度を国際比較し、国別に10点満点で評価した「腐敗
認識指数ランキング(Corruption Perception Index)」なるものを
発表している。

それによると、日本の腐敗度はアメリカに並んで18位、G8諸国
の中位。世界レベルでは全然マシ。

官憲が威張っていて、賄賂をいちいち渡さないと直ぐ虐められるよ
うな国だって一杯ある。それに日本がどんなに経済的苦境に陥った
としても、そこまでモラルが落ちるとも思えない。

だから、天の岩戸が開くまで、一度トコトンまで落ち込むことによ
って、始めて国民の目が覚めるという強引な手段も、日本だからこ
そ使えるのかもしれない。

鳩山政権が、自民党が歩いてきた道を振り返る事しかできないなら
、やることは、今ここで全てを壊すこと。

暗闇に落ちる街並みの中、人はどこまで立ち向かえるのか。

加速するその痛みから 愛する人をきっと守れることを信じて。
 
(了)



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