3450.経済理論が超えるべき試練



世界経済が苦境期に経済理論は革新的な発展を遂げることになる。
今不況期にも経済理論が揺り戻りを受けて、ケインズ学派が力を持
ってきているが、しかし、そのケインズ学説だけでも現在の苦境か
ら抜け出せない。特に日本は1990年以降の長期のゼロ成長で大
きな試練にさらされている。この苦境から脱出する理論が必要にな
っている。        津田より

0.はじめに
 1929年から始まった大恐慌で、それまでのアダム・スミスから始
まる古典派経済学では、この大恐慌から抜け出す解決方法が見つか
らなかった。この時、有効需要「供給量が需要量(投資および消費
)によって制約される」という原理をケインズが発見して、有効需
要の政策的なコントロールによって、完全雇用GDPを達成し『豊富の
中の貧困』という逆説を克服することを目的とした、総需要管理政
策(ケインズ政策)が生まれた。

総需要管理政策は、不況時には財政支出の増大・減税・金融緩和な
どにより有効需要を増やし、生産と雇用は拡大させ、反面、好景気
でインフレが加速した際には政府支出の削減・増税・金融引締めに
よる有効需要を削減させるものであった。

しかし現実には民主主義的な政治過程の中で、好況時の引締めが政
治的に不人気な政策となることが明らかとなり、先進資本主義国に
おいて、長期的に政府の財政赤字が累積的に増大するという問題が
発生した。

1970年のオイルショックに端を発するスタグフレーション(インフ
レとデフレの同時進行)、それに続く1970年代の高インフレ発生な
どの諸問題の一因としての責任を問われることとなった。

ケインズ学説ではインフレを理論化していないことが判明し、その
批判から理論化したハイエクやシガゴ学派のフリードマンが唱えた
マネタリズムや供給サイドの改善を主張するサプライサイド経済学
が出てくる。

サプライサイド経済学は、供給側(サプライサイド)の活動に着目し
たマクロ経済学の一派で、供給力を強化することで経済成長を達成
できると主張する。企業減税、規制緩和、小さな政府化により供給
力を増大するとした。しかし、バブル崩壊後経済では非現実的であ
る。やはり、供給より需要の方が重要になっている。

マネタリズムは政府の財政政策によってではなく通貨供給量と利子
率によって景気循環が決定されるとした。戦後のリベラリズムに基
づくケインズ経済学を、貨幣理論を盾に古典派から批判する理論で
ある。

ケインズ政策をとる政府が実施する財政政策は、財政支出による一
時的な所得の増加と乗数効果によって景気を調整しようとするが、
フリードマンは恒常所得仮説で、一時的な所得の増加は消費ではな
く貯蓄に廻るので需要を増やさないとして、中央銀行による金融政
策の復権を求めた。また、「財政政策は長期的には無効だ」という
彼の理論は、その後の歴史によって証明された。

そして、マンキューのマクロ経済学では経済を短期分析から長期分
析へと、これまでの「古典派」と「ケインズ派」という2つの学派
の見解を1つの時間軸上においてまとめた。

しかし、スタグフレーションに悩むレーガン政権以降に新自由主義
の経済学としてフリードマン経済学が登場してきたが、このバブル
崩壊後経済学の見直しで、ケインズ学派の復権が行われている。こ
れに伴いオバマ政権の経済政策はニュー・ケインズ政策とも言える
状況になっている。この現象として、政府の財政政策が復権してい
る。

しかし、フリードマンと同じシガゴ学派のバローは、財政支出の乗
数は第2次大戦時でも0.8しかなくて、経済抑制に働いたという
ように財政支出に反対しているが、少なくとも費用便益分析を行い
効果の低い公共投資は避けるべきであると提案している。

金融緩和政策をFRBが行い、それと同時にオバマ政権が財政支出によ
る景気刺激策を実施してケインズ経済学とフリードマンのマネタリ
ズム経済学の相乗効果を得ようとしている。しかし、このような政
策全体がドルの供給過剰状態を生み、投機で資源バブルが起きて、
新興国や資源国で資産バブルが起こってしまっている。

金融緩和政策も流動性の罠(金融緩和により利子率が一定水準以下
に低下した場合、投機的動機に基づく貨幣需要が無限大となり、通
常の金融政策が効力を失うこと。)になり、景気刺激策にならない
というクルーグマンの理論から、ケインズ政策もフリードマン政策
も、ともに効かないということになっている。

このため、金融緩和政策だけでは刺激効果ないことで、米FRBは
大量のMBCという不良債権を買い取り、貨幣を市場に供給するし
かない状態になっている。しかし、これでも国内の景気回復には結
びつかず、海外や資源に資金が流れている。

このため、バブル崩壊後経済の全体を統一的に説明でき、この苦境
から抜け出す経済理論が必要になっているのだ。

1.貨幣機能の不全
 現在の経済状態は、金融経済が実体経済の3倍以上もあり金融経
済に振り回されている。金融経済で問題なのは、投機する対象が需
要とは関係なくバブルになり、このバブルが需要と関係ないので、
突然崩壊してしまい、その対象に投資していた正常資産もダメージ
を負ってしまう。A.シュライファーはバブルの生成については理
論化しているが、マクロ経済学としての理論ではない。

貨幣には、2つの機能がある。1として、商品との交換機能であり
、2として資産として蓄える機能である。現時点、1の機能より
2の機能部分が非常に大きくなっている。このため、2が1を混乱
させる状態になっている。

もう1つの問題は人間疎外の問題である。社会が貧困者などを理論
に組み込まれていないために、金融資産はどんどんエリートに流れ
て、2の機能が強化されて、1の機能が貧弱になることが加速して
いる。貨幣の流動性が落ちていく。

この2つに対して、ゲゼルは負の利子を付けたマネーを考案して、
1の機能を強化し、2の機能がないマネーを考案した。

人間疎外の問題では、ダグラスがベーシックインカムを発案して基
礎所得を保障する仕組みを提案し、フリードマンは負の所得税とい
う提案をしている。

しかし、部分の説明であり、全体の説明が十分できていない。それ
は貨幣が2つの機能を持ち、2の資産蓄積機能の投機としての増殖
が市場に与える影響と、それに対応する対応策が経済論理では十分
現象を説明できないことで、その対応策を構築できていないことに
よる。

2.貿易理論の矛盾
 国民が豊かになると、生産量の拡大が必要なくなる。イノベーシ
ョンでの新しい製品ができることはあっても、現状の製品は拡大再
生産が必要ないので、利潤がいらないためにコスト競争になる。コ
スト削減競争になり、また為替レートの低い海外製品が進入してき
て、価格競争になる。

クルーグマンは、規模による収穫逓増(生産規模が2倍になると生
産がさらに効率的になり、生産量が2倍以上になるという法則)を
持ち込み、産業発生の初期条件に差がない国同士で比較優位が生じ
て、貿易が起きることを上手くモデル化することに成功したが、一
方が新興国である場合については理論化できていない。

自由貿易を行うと、為替レートを下げて貿易した方が得になるよう
な仕組みである。この恩恵を受けているのが現状では中国になって
いる。中国は意図的に人民元を切り下げて、全分野の産業で競争力
を持ち、他国の産業を潰している。この一番の影響を受けているの
が米国である。

自由貿易は正しいという前提でWTOやガットが成立しているが、
この前提は、各国の住み分けができていると全員が豊かになるとい
うことであるが、そのような状態に国際政治が絡んでならないし、
為替操作により、どうも成り立たないようである。

このため、先進諸国と新興国での管理貿易にシフトすることが必要
になっているようだ。このための論理構築が必要になっているよう
な気がする。

3.基軸通貨の理論
 ドル基軸通貨が戦後では当然のようになっていたが、どうもドル
の通貨安定策が米国経済の不安定に引きずられて失敗したようであ
る。ドルの安定がないと、貿易などの多国間での取引に差損が出る
ために、安定した貿易ができなくなる。

 この代わりとしてSDRなどの国際機関の管理通貨がよいのか、
それともバスケット制の通貨がよいのか、そして、基軸通貨該当国
または組織はどのような運営をするべきであるのかということが重
要になっている。国家運営モデルとでもいうものが必要になってい
るようだ。

4.デフレ克服とインフレ抑制の両立
 日本は、デフレスパイラルに直面している。しかし、その対応策
を政府も日銀の両者共に打とうとしていないし、財政も金融も政策
を裏付ける理論がない状態である。そして、デフレ抑制と景気刺激
策として、米FRBはドルの供給過剰で世界的なバブル形成をし、
インフレ懸念が起こっている。どちらも有効な政策が提案できない
ことで、その解決方法が経済理論で提案できないでいる。

需要の拡大が財政支出でしか起きない先進諸国の状況も見えてきて
いる。消費がGDPの米国で70%、日本で60%になり、その部
分の需要がないとデフレになるが、財政支出をどう景気刺激策に結
ぶか、バローの理論では公共事業はやめた方が良いという。

消費喚起策の購買促進の補助金が唯一成功しているが、この効果も
長期には続かない。そこで金融緩和で貨幣を供給しても海外に流れ
るだけで、国内に貨幣が循環しないことも米国の事例で分かってき
ている。

このため、世界的な視点で問題を考える必要になっている。世界視
野の経済理論が待たれているし、国際秩序の提案ができることにな
る。このような経済理論が必要になっている。

5.さいごに
 環境問題が提案されて、その解決には大きな経済負担と新しい経
済ができる可能性があるが、それを実施することで日本の富が拡大
することができるような方策が必要になっている。この方策を見つ
ける必要が出ている。その政策を裏付ける理論的な支柱が必要であ
る。

フリードマンは、「現実の、あるいは仮想の(perceived)危機のみ
が真の変化を生み出す」と主張し、社会危機を扇動せねば改革はで
きないというが現時点、そのような危機的な状況にある。

というように経済理論は新しい展開が待たれている。フリードマン
経済学を超える経済学の理論が待たれていることである。
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ロバート・ジョセフ・バロー
提供: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(Robert Joseph Barro, 1944年9月28日 - )はアメリカの古典自由
主義者、マクロ経済学者、ハーバード大学教授。 IDEAS/RePEcによ
るともっとも影響力がある経済学者となっている。景気循環論、経
済成長論、新古典派総合、公共政策の分野で貢献がある。

カリフォルニア工科大学を1965年に卒業し(物理学士)、ハーバード
大学で1970年に経済学のPh.Dを取得。1974年の国債が影響力を持た
ないという論文で脚光を浴びた。現在の国債の増加は将来の増税を
見越して遺産が増えるために経済に対しての影響を持たないとする
ものである。これはブラインダー・ソローの結果に対する応答であ
り、そこでは所得効果によって政府の借用が保証されるというもの
であった。彼の結果はリカードの等価定理を拡張したものである。

また1976年の論文も有名である。そこでは、合理的な個人を仮定し
ても、情報の不完全性がある場合に貨幣が実物経済へ影響を与える
ことを示した。それは金融政策の変更への対応ではなく、不確実性
への対応からくることがポイントとなっている。このようにして、
新古典派の枠組みでも貨幣の役割を考察することができるとした。
なおロバート・ルーカスも同種の問題を扱っている。

1983年には非対称情報の議論を中央銀行の役割に当てはめ、インフ
レに闘うにはインフレターゲットを設定して失業問題には対応しな
いことが重要だと示した。。

1990年代の彼の業績は経済成長に関してのものである。内生的成長
論を唱え、イノベーションと成長の関係を重視した。

またPublic Choiceに政治経済学的な考察を載せることもあった。最
近では、宗教が経済にもたらす影響を分析している。
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ポール・クルーグマン
提供: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(Paul Robin Krugman, 1953年2月28日 - )は、アメリカの経済学
者、コラムニスト。現在、プリンストン大学教授、ロンドン・スク
ール・オブ・エコノミクス教授を兼任。1991年にジョン・ベーツ・
クラーク賞を受賞し、2008年にはノーベル経済学賞を受賞した。

国際貿易理論に規模による収穫逓増を持ち込み、産業発生の初期条
件に差がない国同士で比較優位が生じて、貿易が起きることを上手
くモデル化することに成功した。これは、自動車産業など同種の製
品を作る産業が、アメリカやヨーロッパ、日本にそれぞれ存在して
、互いに輸出しあっている現実を、上手く説明するものであった。

国際貿易理論を国内の産業の分布に当てはめ、地域間の貿易をモデ
ル化し、ハリウッドやデトロイトなど特定の産業が集約した都市が
、初期の小さな揺らぎから、都市として成長して自己組織化する、
都市成長のモデルも作り上げた。

また、変動為替相場では、投機家の思惑が自己成就的な相場の変動
を作り出し、変動為替相場が本質的に不安定であることを示した。

1980年代のバブル不況後の日本の経済をニュー・ケインジアン的な
モデルを使ってモデル化し、流動性の罠に落ちていることを指摘し
、デフレーション不況に対する日本政府や日本銀行の対応の遅さを
繰り返し批判してきたが、2007年以降の金融危機には、かつて自分
の主張を受け入れなかった日本の政策当局と同じことしか出来ない
アメリカ当局を目の当たりにして「同じような状況に直面し我々も
同じことをしている、彼らに謝らなければならない」と自虐的に嘆
いてみせた。
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N・グレゴリー・マンキュー
提供: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
(Nicholas Gregory Mankiw, 1958年2月3日 - )は、ウクライナ系
米国人の経済学者。ハーバード大学経済学部教授。

マクロ経済学の歴史において常に「古典派」と「ケインズ派」のど
ちらが正しいのかが論じられてきた。

ここで、マンキューの大きな貢献のひとつは、この相反する2つの経
済観をひとつに結び付けたことであるといえる。自著である『マク
ロ経済学』において、マンキューはそのような学派区分を避け、
「長期分析」と「短期分析」という期間区分でマクロ経済を捉える
ことを提案したのである。

つまり、「長期分析」とは、経済成長などの5年か10年以上先の長期
的な経済トレンドを分析することであり、この場合「古典派」の見
方が通用し、一方半年から1、2年の景気循環、短期的な経済パフォ
ーマンスを論じるであるのなら「短期分析」、つまり「ケインズ派
」の見方が通用する、とマンキューはいうのである。

このように、経済を短期分析から長期分析へと、これまでの「古典
派」と「ケインズ派」という2つの学派の見解を1つの時間軸上にお
いてまとめたのは、マンキューが初めてである。これまでの「古典
派」と「ケインズ派」という2区分であると、マクロ経済学において
全く相反する考え方が共存しているように見えたが、時間軸上にお
いて「短期」と「長期」という2区分に分けてマクロ経済を分析する
というと収まりがいいように考えられる。

多少乱暴にまとめると、マクロ経済を見る上で、短期的には消費・
投資支出などの「需要」が問題になり、長期的には生産、つまり「
供給」が問題になるということである。マンキュー自身も言ってい
ることであるが、現実の経済問題に、このような2分法がよく当ては
まると言う。実際、すでに日本の多くの大学では、マクロ経済を短
期、長期分析という形式で見ていくことが採用されている。一般的
には、短期的には「ケインズ=ヒックス・モデル(IS-LM分析)」が
使われ総需要の分析が試みられ、長期的には「ソロー・スワンモデ
ル」が経済成長のメカニズムを明らかにするように使われる。

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