3435.「生物と無生物のあいだ」に描かれたデジタル原理



「生物と無生物のあいだ」に描かれたデジタル原理
From得丸公明    

皆様

「生物と無生物のあいだ」を読みました。

DNAの発見から、二重らせん構造発見にいたる現代科学史のドラマと、著者の実
験へのチャレンジが非常に面白かったです。 原子(100億分の1m)や細胞の大
きさ(10万分の1m)が具体的に書かれているから、イメージもしやすいですね。

本書の目的からは外れていないこともないと思うので、著者が論じていないデジ
タル情報理論の側面だけひと言。

−1− デジタル原理
p58で触れられているの「DNAの構成単位」であるA,G,T,Cと「その連なり」とい
う「原理」が、「デジタル原理」です。

および直後に述べられている、20種類の多彩なアミノ酸が「タンパク質の文字列
をつむぎだすことができる。これがタンパク質の多様性・複雑性をもたらす」と
いうところ、これもデジタル原理をひらたく言い換えたものです。

さらに、p174でいう「アミノ酸が2つ連結しただけでも、その結果できうる
順列の可能性は、20x20で400通りもある」というのも、デジタル原理の説明です。

ここでいう順列は、いわゆる重複順列で、同じ記号を何度使ってもよい順列です。
(20x19x18というようにならず、20x20x20、、、となる)

デジタル原理という言葉を著者は知らなかったわけではないのでしょうが、その
言葉を使っても読者にわかりやすくなるわけではないと思われたのでしょう。

−2− 前方誤り訂正機能(Forward Error Correction)
これは著者が最後の14章・15章で書いていることと関係しますが、デジタル原理
の特徴は、ひとつひとつの構成単位が意味をもつので、それが絶対に誤りなく伝
わる必要があるということです。

だから、逆に、万一まちがった情報が伝えられたときに、その誤りを受け手側が
送り手に確かめることなく識別して訂正する「前方誤り訂正(Forward Error
Correction)」(前方というのは受け手という意味です)機能が必須であり、絶
対にそれが備わっているのです。そうでないとデジタルシステムは機能しないの
です。

我々の携帯電話にも、地上波デジタルテレビにも、無線LANにも、この前方誤り
訂正符号検出・訂正回路は組み込まれており、それはこれらの機器のカタログ上
は、「畳み込み符号、リードソロモン符号、ターボプロダクト符号、低密度パリ
ティーチェック符号」などとしてかかれています。

もちろん生物には生理的な誤り訂正符号回路やメカニズムが備わっており、だか
ら著者の実験は失敗してしまったというわけです。

とくまる

> P271からエピローグあたりで
> ”機械には時間がない。生物には時間がある。その内部には常に不可逆的
な時間の流れがあり、その流れに沿って折りたたまれ、一度、折りたたんだ
ら2度と解くことのできないものとして生物はある。” と結論付けていま
す。更に、”動的な平衡は、それ自体、いずれの瞬間でも危ういまでのバラ
ンスをとりつつ折りたたまれているが、平衡を乱すような操作的な介入を行
った場合、この動的な仕組みが滑らかで、やわらかいがゆえに操作を一時的
に吸収するため大きく変化していないように見える。”との表現があります。

福岡さんは何がいいたいのでしょうね。
よくわかりません。

アナログ的表現というより、あいまいで、非科学的といったほうがいいのか
もしれません。

もう少し具体的な事例を出して論じているところを読んで議論したほうがよ
いかも。

DNAの鎖は折りたたんでも、もとにもどりますし。


「世界の名著 現代の科学2」にフォン・ノイマンとマッカローが1948年のヒ
クソンシンポジウムで行なった講演が紹介されています。
非常におもしろいし、もしかしたら、いまだに彼らの指摘を乗り越えた研究は
行なわれていないのではないかと思わせるほど進んだ考察です。

たとえば生物は、デジタルとアナログをきわめてうまく組合わせてつかってい
ます。
その一つの例が、スレスホールド(threshold)というスイッチです。
これは、0か1かを一つの信号で決めるのではなく、たとえば1の信号が
1000以上集まったら、1だと認めようといったスイッチで、アナログな集
積があってデジタルな結論が出されます。

とくまる
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テレビ朝日「地球物語」 2つの残念
From得丸公明    

皆様、

「奇跡の地球物語」ごらんになったかた、いかがでしたか。

ヒトの赤ちゃんが「はかない」、「か弱い」存在であるというところに着目した
のは、よかったですね。
英語でhelplessという単語は辞書だと「無力な」、「頼りない」という語があて
られていますが、「か弱い」のほうが赤ちゃんにはぴったりくる日本語だと思い
ました。

母胎内にいる10ヶ月の間に、生命進化の38億年をたどるという話も、よかったと
思いました。母乳がいかに子どもにとって大事なものであり、それが母親も健康
にするというお話もよかったですね。

最後のところ、ロボットにヒトの判断能力を身につけさせるために赤ちゃんを研
究対象にしている話がありましたが、そんじょそこらのロボットじゃあ無理では
ないでしょうか。まあ、これはご愛嬌。

番組の中で、赤ちゃんが700万年前に「か弱く」なったという説明がありました
が、これは何をもってそういっているのかわかりませんでした。700万年前とい
えばチンパンジーとの種分化のとき。およそすべての原人類がみんなヒトの赤
ちゃんと同じように育っていたのか、これは大きな疑問です。 

というのも、1年間、か弱い存在でいることによって、母胎内にいるときと同じ
スピードで脳が大きくなるので、400ccで生まれて、1歳で800cc、7歳で大人
と同じ1400ccになるというのが、ヒトの個体発生の特徴であり、このような脳
の大きさをもっていた原人はいなかったからです。

つまりか弱い存在でいるのは、脳の成長にとっては、妊娠期間を10ヶ月から22ヶ
月に延長した意味があるのです。

この点がおさえられてなかったのは残念です。

また、番組の中で何度も「命の戦略」という言葉が使われましたが、生命に目的
論を持ち込んではいけないというのが西原先生やラマルクのいっていることです。

生命は、いつも、無心。その場その場で最適の適応をとっていく。状況主義、環
境決定論です。

赤ちゃんを無力に産もうと思っても、そういう環境にいなければ産んでもすぐに
死んでしまうか、肉食獣に食べられてしまいます。(ヒョウがヒヒの赤ちゃんを
食べなかった話が番組の中でありました。これはなかなか感動的な話でしたが)

「命の戦略」という言葉は、決定的に間違って使われたと思います。いい番組
だっただけに残念です。

とくまる



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