3409.小沢の描く政界再編シナリオ



■小沢の描く政界再編シナリオ −来夏自民殲滅後に起こる事−



◆自民党の歴史的役割の終焉◆

8月30日の衆院総選挙で自民党が大敗したのは、何も麻生太郎の薄っぺらさのため
だけではない。

自民党が小泉改革を否定するのか肯定するのかを総括出来なかった事が、敗北の主要
因である。

総括出来なかったがために、打ち出す政策が規制緩和や小さな政府志向と、従来型の
官僚依存体質や大きな政府志向を足して2で割る方向性曖昧なものになった。



先進諸国を見渡せば、今後内政に於いては極端な新自由主義も社会主義も選択する事
は不可能であり、取り得る政策の範囲は「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」を
構造的に組み上げて行く事に限られる。

今回の民主党の勝因は、曲がりなりにもそこに軸足を置いた事に基底がある。



今後の自民党の政策選択肢は、@一定の留保を付けての小泉改革の継承、A従来の官
僚依存・大きな政府指向、B「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の3つ若しく
はこの混合である。



前二者は既に破綻したスキームであり、Bを選択した場合に具体的に取り得る政策は
民主党の政策をアレンジしたものにならざるを得ない。(例えば、高速道路料金無料
化に対して、値下げの継続等)



このため自民党は既に歴史的役割を終えており、9月28日に投開票される自民党総
裁選に誰が選出されても自律的に党勢が回復する事はなく、もし民主党が来夏7月の
参院選の結果、参院単独過半数を得られないとしたら景気失速等の大きな失政か慢心
による選挙戦術の失敗による自滅以外にあり得ない。



◆自由を目的とする小沢一郎の自己展開◆

民主党連立政権の成立を受けて、小沢一郎の当面の目標は来夏参院選での自民党殲滅
に絞られた。

既に水面下で、自民党の中に手を入れて離反工作を開始したとも伝えられる。

仮に参院選(同日選の可能性もある)で民主党が大勝すれば、自民党は散り散りに分
裂し、やがてその一部と公明党を加えた巨大連立与党若しくはパーシャル連合が出現
する。



目下の経済情勢の不安定さを考えれば、暫くの間はその体制のまま民主党のものを中
心とした諸政策の実現が図られる。



そして、一部で予想されている小沢の所謂「永久破壊活動」が再開されるのは、内政
での一定の安定を見計らった上で次回(来夏7月に同日選が行われていれば次々回)
衆院総選挙までの間だ。

即ち、敢えて内政、外交で連立与党の半数がついて行けない方針を打ち出して篩にか
け、民主党内および連立与党を分裂させて総選挙を打ち二大政党を作り上げる。



その場合、二大政党の対立軸となる理念は何か。

以下は、少し長いが自由党と民主党が合併した翌年2004年参院選後に行われた小
沢へのインタビュー記事だ。



<前略> 一つは、旧来の伝統的社会の思想を受け継いだ政党だ。すなわち、自由か
平等かという対立軸でいうと平等を旨とし、管理型で内向き、コンセンサスを重視す
る社会を目指す政党だ。もう一つは、私たちが主張しているような、できるだけ自立
した社会を目指し、何事もオープンで公正で自由な競争ができる仕組みをつくり、外
との関係をもっと重視する政党だ。その二つの政治思想が、日本の二大政党のあるべ
き姿だと思う。



それを実現するには、いったん既存の権力を壊すしかない。そして、改めて自民党
的、伝統的思想を受け継いだ政党ができれば、それが本当の日本コンサバティブ(保
守)になる。同時にこちらはこちらで、もっとリベラルな集団をつくり上げる。 <
後略>

(「小泉歌舞伎の終焉 自民党は生き残れる 『徹底再編』まで妥協はしない」 中
央公論2004年9月号8月9日(月)より抜粋)



◆(加藤)・亀井新党?◆

小沢が民主党と連立与党議員の篩分けをする場合、その踏み絵とする具体的な政策は
何か。

個別の政策の左右は小沢にとって死活的には重要でなく篩分けが主目的であるため、
それは状況に応じて決まってくる面があるが、例えば下記のようなものだろう。



・米国等とのFTA(自由貿易協定)締結による関税撤廃、EPA(経済連携協定)
促進による外国人労働者受け入れの大幅緩和

・郵政のうち、郵貯会社(場合によっては地域決済機能を除く)、簡保会社の縮小・
売却のスケジュール化

・国連決議による紛争地域への自衛隊実戦部隊の派遣枠組みの立法化



このうち、例えば郵政については郵貯・簡保の金を地域経済に活用したいと考えてい
る連立与党の国民新党代表 亀井静香郵政・金融担当相と民主党の間で既にギャップ
が明確になって来ている。



小沢の思考パターンは、ある程度何らかの措置をした上で、オープンで大胆な政策を
とるというものだ。

上記の例で言えば、農家の戸別補償をした上で関税を撤廃する。

あるいは、国連の錦の御旗を得た上でブルーヘルメットの軍隊を派兵する。

これらは、デメリットに対し何の実効的な対応措置も取らずに規制緩和等を推し進め
た小泉・竹中構造改革の思考パターンとは異なる点ではあるが、現実的に小沢のパ
ターンについて行ける者は限られるだろうし、もし仮に大半の議員がついてくるな
ら、篩に掛けるのが主目的であるから敢えてハードルを上げるだろう。



大雑把に言って、政策分野には経済・社会保障等の内政と外交・防衛の2軸があり、
下手をすれば4つ若しくはそれ以上に分かれるため、上手く2つに割るためにはハー
ドルの上げ下げ等の工夫が必要であるし、双方のキャスティングも必要になってく
る。



例えば、分裂する自民党から流れて来る加藤紘一のグループ、国民新党、民主党の中
道左側部分、社民党、公明党で、曰く「民主福祉連合」を形成する。(この場合、加
藤紘一が谷垣禎一あるいは別の者に代わっても実質的な影響はない)

一方、小沢が誰かを立てて残りの部分で、曰く「民主自由党」を作る。



◆見果てぬ夢と歴史の終わり◆

こうした自作自演気味の分裂劇を遂行するに当たっては、織田信長が敵に対して行っ
たように、先ずは自民党を完膚なきまでに叩きのめすのが大前提となる。

そのために、同床異夢でも来夏の参院選までは、何としても社民党、国民新党との分
裂を避ける。



「日本に二大政党制の礎を作り、両党の祖となって信長を凌駕する名を歴史に刻
む。」

小沢の政治に於ける最終目標は凡そこのような事だろう。

ほぼ天下統一を果たした織田信長や明治政府の骨格を作った大久保利通等の小沢が好
む歴史上の人物も、道半ばにして倒れたが礎は残して逝った。



二大政党は、自由と平等という対立軸はあれども、内政においては前述したように
「ナショナル・ミニマムを伴う自立社会」の範囲を出られない。

また、外交・防衛についても今後の国際社会の中ではイケイケドンドンも完全な引き
籠りも許されないため、二大政党の政策は自ずと「国際的大義を伴った長期的な国
益」を中心に挟んで近付いて行き、その中で外向的と内向的な違いがあるという形に
なるだろう。

こうした政権交代の振幅可能性を伴う本格的な二大政党制の出現は、戦国の世が治
まったように日本の政治に於ける一つの終着点となる。

それが、小沢の手により成就するかは判らないし、更なる曲折があるかもしれない
が、方向性はほぼ見えてきたと思われる。

(敬称略)

                    以上

佐藤 鴻全


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