3402.垣間見た中国 その1



垣間見た中国 その1
                    平成21年(2009)9月15日(火)
                   「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治
 去る7月8日(水)から11日(土)に掛けて、北京交通大学の招きで鉄道の高速化
に関する講演したり、技術指導する機会を得ました。大陸中国の訪問は初めてのこ
とですので、興味を持って観察し、その間見聞できたものを纏めてみることにしま
した。

上空から見た北京近郊と大空港
 関空から飛び立った中国国際航空機(CA)は韓国、黄海上空を通過して北京国際
空港に着陸してように思います。大陸に入り、高度が下がって来まして、漸く眼下
に地上風景が見えて参りました。畑の中に人家、倉庫か工場と思われる大きな屋根
の建物、そして放射状に伸びる高速道路が目に入ってきました。写真1は見事なク
ローバー型インターチェンジの付近の様子を撮影したものです。水田は全く見られ
ません。年間雨量が7百ミリ以下の北京近郊では水田耕作ができないのでしょう。
四川省など南方へ行くと水田ばかりが目に入ってくるとのことです。南船北馬とい
う言葉を機上から確認できました。
 写真1 畑、人家そしてクローバー型インターチェンジ

 高速道路は、北京空港に降り立つまでに4本ほど見え、大都市北京を中心に放射状
に整備されているように見えました。実際北京市の地図を見ますと8本の高速道路が
北京から郊外へと放射状に伸びています。中国全土では時速100■で走れる高速道路
は既に10万■も整備されているとの話を聞きましたが、真偽のほどはともかく相当
整備が進んでいることは間違いないようです。

 北京国際空港は2008年8月の北京オリンピックに合わせ、整備された大空港で、巨
大さには驚きました。搭乗機は着陸したとき、機窓から2機の飛行機が飛び立ち、さ
らにもう1機が着陸するのが見えたのです。我々の滑走路を入れると最低4本の滑走路
があるはずで、空港の配置図を見ると何と5本の滑走路が整備されていました。
 写真2 北京国際空港の整備場など
 着いた第3ターミナルから入国手続きの建物まで空港シャトルで移動しましたが、
10分ほど乗っていたように思います。巨大さ故の問題でしょう。普通なら数分です。
 写真3 空港シャトル

空港から都心へそして街中の交通状態
 北京国際空港には、北京交通大学の楊 中平副教授が出迎えてくれ、彼の研究室
の学生の車でホテルまで送ってくれました。リニアモーターカーの空港地下鉄も整
備されていて、私一人ならそちらに乗りましたが、自動車での送迎のご厚意を受け
ました。高速道路入り口は有人改札で10元(約150円)を払っていました。数十キ
ロの距離を考えると、大卒の月給が4,000~5,000元とのことですから、安い感じで
すね。
高速道路は、今回の乗った範囲内では全て片側3車線以上ありました。余裕をもっ
た設計ですが、収支が償っているのでしょうか。
  写真4 空港高速道路入口 料金10元
  写真5 空港高速北京城出口

 北京市街地に入るとマンション群が目に飛び込んできました。急発展していると
は言え、結構古いビルも目に入ります。
 写真6マンション群

大きな街です。日本の都市感覚を超えた大きさだなと実感しました。地下鉄の環
状線があり、その一周の距離が東京の山手線位の長さだと言うことが実際乗りな
がら判って来ました。頂いた地図(北京銀行のPR地図)には距離縮尺が無いので、
実乗車経験から当てはめて見たのです。北京市全体で大阪府(面積1800平方■)
の9倍くらいの大きさのようです。道路が広いことからもそれは実感できます。
一方通行道路に出会いませんでした。
街中の道路は広く、自転車専用道もありました。
写真7 自転車専用道

 楊副教授に清の時代からこんなに道が広かったのかと伺った所、大都に遡ると
のことでした。大都は騎馬民族のモンゴル人が元帝国の首都として築いた街です。
さらに遡れば春秋戦国時代の燕の首都であったとか。私が車から眺め、また歩い
て見た印象からも小路、横町に当たるような街路は見かけませんでした。かつて
は胡同と呼ばれる路地、横町が多数あったのですが、近年都市計画でなどで撤去
されたようですね。土地が広いことが原点かなと思いつつ、車馬を乗りこなした
人々が創った街が現代にも残っているのかと思った次第です。

色々な交通機関 
街中を走る間に見聞し、楊副教授、そして同行頂いた曽根工学院大学教授(東
大名誉教授)から教えてもらいながら、北京市内の交通状況を報告したいと思
います。

まず気が付いたのはバスの種類の豊富さです。2階建てバスに出会いました。
香港以来です。 
写真8 2階建てバス
英国のロンドンを走る2階建てバスは有名ですが、英国外で香港のみでそれが
運用されていると思っていた筆者には印象的でした。さらに立体交差する道路
上に架線を見かけましたので、「あれは何ですか」と聞くとトロリーバスとの
こと。日本では今や黒部峡谷でしか走っていない交通遺産になっています。
 それと連節バス。これが縦横に走っていました。

写真9 天安門広場と連節バス
 写真9は象徴的な意味で、天安門広場で撮影したものですが、市内随所で連節バ
スを見かけました。普通バス、2階建てバスより圧倒的に多かったように思います。
全部中国製のようでした。一部例外を除いて長さ12■の1階建てバスしか運行を
認めない日本の行政機関の猛省を求めたいと思ったシーンでした。
 これらバスは極めて安く、短距離だと0.4元=6円程度(但し現金では1元)
で、公的支援がなくては不可能な運賃だと思います。■小平以来の先富政策による
「富めうる者は先に富め」という中で、平民大衆も生活できる運賃政策を取ってい
るように感じました。学生はその半額とのことでした。後述する地下鉄一律2元=
30円の低運賃政策は、北京政府によるものとのことですが、同じ中国でも上海
では運賃は距離と共に上がる体系を取っているとか。地域性の強い社会のようです
な、中国は。

 静かに横を走り抜けるバイクのような乗り物を多数見かけました。曽根教授によ
れば、石油輸入国になった中国は、エネルギー問題に真剣に取り組んでおり、バッ
テリーを活用した自転車などの導入もその一環であろうとのことです。 
写真10 バッテリー自転車
写真11 バッテリー式自転車
台湾始め、東南アジア各国ではモーターバイクの洪水に出会いますが、自動車に
乗らない、乗れない庶民の乗り物として動力式自転車としてバッテリー自転車を
普及させたのでしょう。石油生産がピークを迎え、中長期的には石油価格の上昇
が見込まれる今日、賢明な選択だと思えました。写真10に見られようにバッテリ
ー式荷物自転車も結構見かけました。運転免許は不要とのことで、かつて中国で
は足漕自転車が氾濫していた時代がありましたが、今回少ないなという印象を持
ちました。

他方、自動車交通量も相当なものです。北京市には6本の環状道路が整備されて
おり、地図にも3,4,5などと番号が記されていました。我々が利用した環状
道路は主に環状3号線と4号線でしたが、いずれも車の洪水のような流れの中にい
ました。
写真12 北京市街地環状道路自動車の洪水

そしてこれら環状道路には信号機が見当たらないのです。全て立体交差でした。
世界の大都市でここまで徹底した市街地立体交差道路を整備したところは、私の
知る限りでは無いと思われます。楊副教授によれば、環状道路は全て立体交差化
されているとのことでした。それでも渋滞に何度も遭遇しました。立木1本で空港
の開港が遅れる国とは、大変な違いですな。共産党政権下、土地は全て国有であ
り、強制収用が相当行なわれたのでしょう。

自動車のメーカーも多種多彩です。中国車、日本車、韓国車、アメリカ車、ドイ
ツ車、フランス車、イタリア車等々世界中の車のオンパレードの感がしました。
何時頃からこのような自動車化が進行したのかと伺いますと、2003年頃からと
のことでした。製造は殆ど中国国内とのこと、所謂ノックダウン方式でしょうか。
道路整備もさることながら、ドライバーの急増に当たって運転免許証をどのよう
に与えたのか、不思議な感じがしました。

実際交通マナーも良くありません。高速道でも頻繁に車線変更するし、運転手も
歩行者も信号を守らないのをよく見かけました。しかし以前台湾にいたとき、大
陸の交通マナーはひどいと伺っていましたが、想像していたより、マシでした。
オリンピックに向けたマナー向上運動が多少功を奏したのでしょうか。
写真13 信号を守らぬ歩行者、自動車

中国の自動車保有台数は、2005年時点で31百万台とのことでしたが、経済が
二桁成長を続けている今日今や軽く5千万台は超えていることでしょう。人口
2億人の先進国を内在した大国であり、もはや開発途上国ではない、気候変動
防止条約にも当然加入義務がある国だと思いました。日本も中国に先進国並み
の義務を果たす役割があると外交上強く働きかけを行なうべきだと思います。

日本のように6割の人が車を持つようになれば、今世界中の車台数を上回る9
億台の自動車が走る国になるのです。その排気ガスが与えるマイナス面は、地
球温暖化、酸性雨などであり一番日本が影響を被ることになるでしょう。その
意味で、今回訪中した目的の鉄道技術協力には意義があると痛感した次第です。

楊副教授は、鉄道推進の立場から、信念としてマイカーを持たないとのことで
した。見上げたものです。そして日本の森林に影響を与えている酸性雨は中国
発ですよ、と車中で伝えると「申し訳ありません」と車の中で立ち上がって頭
を下げていました。こういう率直な青年も中国で育ってきていることに嬉しさ
を感じました。

次は、高速鉄道始め、鉄軌道系の交通機関整備に邁進する中国を取り上げまし
ょう。

「地球に謙虚に運動」代表


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