3331.ドイツにおける鉄道復権の歩み その1



ドイツにおける鉄道復権の歩み その1
                   平成21年(2009)6月29日(月)
                   「地球に謙虚に運動」代表 仲津

 去る4月11日から18日までドイツとチェコのプラハを妻と娘とともに旅行して来ま
した。ドイツで訪れた街は、ベルリン、ハレ、ライプチッヒ、ドレスデンと主に旧東
ドイツ地区に属していたところです。1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊し、翌
1990年10月に旧東ドイツが西ドイツに吸収される形で、東西両ドイツが統一されて
から20年近い歳月が流れており、東側の街の復興振りを見たい気持ちがありました。
1972年から2年旧西ドイツに留学していた私と妻は、東西ベルリンに旅行する機会が
ありましたが、ベルリン以外は初めてなのです。

 鉄道技師であった私は、鉄道への関心が高く、環境先進国ドイツの鉄道がどのよう
に再整備されつつあるか、観光の傍ら興味を持って見て参りました。結論から言って
大変成果を得、認識を高めることができた旅行でした。ベルリンとライプチッヒの例
を主に紹介しましょう。

ベルリン環状線
 ドイツ連邦共和国の首都になったベルリンは、壁のあった辺りが、東側の建物が
撤去されていたか、また空家になっていたところが多いようで、都心の再開発が
大々的に行なわれていました。

 世界で完全な環状鉄道を持つ都市は、私の知っている限り、日本の東京(JR山手線、
地下鉄大江戸線)、大阪(JR大阪環状線)、名古屋(地下鉄名城線)そしてベルリン
のS-バーンです。東西ベルリンに分断されていたS-バーンは、乗客が激減し、長く
運転休止されていました。今回この環状線に乗ってみたのです。女房たちも面白いと
言って付き合いました。S-バーンはドイツ語のStadt  Schnell Bahn(都市高速鉄道)の
理略で、日本のJRの近郊電車をイメージすればよいでしょう。
 写真1 S-バーン駅 Westend
 写真2 S-バーン電車8両編成

 ヴェストエント駅から2.1ユーロの切符を買って一周しました。運賃はドイツ特有の
公共交通機関の連携による共通運賃制(ドイツ鉄道、地下鉄、バス、路面電車など)
を採用しており、判りにくいのですが、環状線内を中心ゾーンにしているようです。
ゾーンを越えて移動する場合は、追加料金となります。

 ベルリン環状線は大阪環状線のように殆ど高架で街を眺められると想像していた
のですが、1周してみると丘あり、谷ありで変化に富んでおりました。
 車両は8両の固定編成で、架線はありません。地下鉄に多い第3軌条による集電で
す。1周は丁度90分要しました。山手線の60分、大阪環状線の40分のことを思
うとかなりの規模です。しかも結構速度が速く、私の感覚では最高時速100キロは出
ていたと思います。

そして娘が気がついたのです。
「ぜんぜんガタンゴトンと音がしないね」
 これは殆どロングレール化されていて、レール間の継ぎ目が極めて少ないことを意
味します。保線状態も良いようで乗り心地は良かったですね。夏冬の温度差が激しい
内陸部のベルリンでロングレール化を実現していることには驚きました。高い技術力
と保守整備のレベルの高さを認識しました。旧東独国鉄(DR)の頃よりドイツ鉄道
(DB)になって各段に鉄道のレベルが改善されている、と実感したものです。
 先頭車両には環状(Ring)と表示され、右回りか左回りのサインがありました。
 写真3 S-バーンの環状運転表示 

 自転車と乗車することもOKで、車両に自転車のマークが描かれており、健康と環境
に良い、自転車交通も奨励されているようです。
 写真4 自転車表示
 写真5 ホームで電車を待つ自転車客

 ベルリンには環状線の他、東西を貫く長距離鉄道線があり、それには平行して
S-バーンも走っています。そして南北に貫く高速新線が整備されたようで、この両線が
交差するところにガラスの城のような中央駅が新設されていました。かつての西ベル
リンの始発駅であった動物園駅は中間駅になったようです。
 写真6 ベルリン中央駅

終夜運転
 環状線と東西のS-バーンを利用した際、ホーム上にある列車ダイヤ表示を見て驚き
ました。土日祝日に終夜運転を行なっているのです。なぜか?何時からか確認はでき
ませんでした。1時台―3時台に15分ヘッドのダイヤが表示されていました。
 写真7 土日祝日の終夜運転を示すダイヤ
 そこで、地下鉄(Unter Grund Bahn U-バーン)の駅のダイヤも見に行ったところ、
同様でした。鉄道は、自動車に比べ、安全で面積をあまり食わず、炭酸ガスの排出も
少ない、環境負荷の少ない交通機関でありますが、終夜運転はどうかな、思った次第
です。
 皆様いかが思われますか。

旧東ベルリン地区の繁盛と路面電車
 我々の泊まったホテルは、旧西ベルリンの都心部であったクールフルシュテンダム
に近いところでした。そこから市内観光バスに乗って旧東ベルリンの象徴、テレビ塔
のあるアレキサンダープラッツから、ウンターデンリンデン通り付近を見て驚きまし
た。大勢の観光客で賑わっているのです。そこには民間経営の東ドイツ館があり、そ
こへの見物客と、ベルリンを東西に貫くシュプレー川の観光船が多く行き交い、イー
スターの休みを利用して大勢の観光客がベルリンの新緑を楽しんでいました。
シュプレー川はかつて東から西へ逃げるドイツ人の多くの血を吸った川でした。そして
元々ウンターデンリンデン通りが、ベルリン最大の繁華街であったのですが、賑わい
を取り戻したようです。

 西ドイツでは、自動車交通優先の時代があり、路面電車が廃止されたところもあり、
西ベルリンでは路面電車線が撤去されてしまいましたが、社会主義国東ドイツは、西
側のような自動車化社会を経験せず、路面電車が残されたようです。

 ただ若い頃、東ベルリンを訪問した際、アレキサンダープラッツ付近で路面電車を
見かけた記憶がないので、係員と思しき人に尋ねると、最近二本の路線が整備された
とのこと。地下鉄は工事費が高いので、都心交通機関として路面電車線を整備したと
のことです。2007年5月30日に整備されたとの情報がベルリン運輸連合のホームページ
にありました。
写真8ベルリンの路面電車

 ベルリン運輸連合(BVB)の路線案内図を見ると、S-バーン、U・バーン、トラム、
バス、フェリーが共通運賃で運行されており、都心部においては、マイカー無しで生活
できる状態を再生したように思えます。ドイツはアウトバーンが乗用車には無料という
政策を取り続け、GNP当たりの炭酸ガス発生量は日本の1.5倍という国ですが、都市
交通に関しては、鉄軌道、バスなど主役とする方向に舵を切ったように思います。
それにより都市が賑わいを取り戻しつつあるという感じがします。
 ベルリンのS-バーン、U・バーンネットワーク
 
  
 次回は、路面電車が街の交通機関の主役である都市ハレ、ドレスデン、プラハの話も
交え、大掛かりな路線網を持つライプチッヒ市の印象を伝えたいと思います。 
                                 お楽しみに 

 *******************
仲津英治
「地球に謙虚に」運動代表


コラム目次に戻る
トップページに戻る