3326.エコカーと資源について



エコカーと資源について


                           日比野

1.エコカーの時代

新型プリウスが爆発的に売れているという。発売直前の時点で先行
予約は8万台を超え、発売後1週間で更に受注が伸びて、11万台
を突破した。あまりの売れ行きに生産が追いつかないほどだという。

エコカー減税の効果ももちろんあるのだろうけれど、ハイブリッド
等の環境技術はますます注目され、購買意欲に一役買っているのは
間違いない。

経営破産にが囁かれるGMにトヨタ自動車がハイブリッド技術を供
与する検討に入ったと報道されている。

そんなことができるのも、次の環境技術の目途が立っていて、技術
的優位を保てる見込みがあるからだろう。

今年の夏には、三菱自動車の電気自動車「アイミーブ」が正式発売
される。

世界中にハイブリッド車が普及するころには、日本の自動車メーカ
ーは、燃料電池車や水素自動車などで依然として技術的アドバンテ
ージを確保している可能性は高い。

電気自動車が普及するのは良いとしても、その肝心の電池を製造す
るに為の資源もまた必要になってくる。特に電池に必要不可欠の白
金、リチウム、レアアースなどのレアメタルなんかは、今後ますま
す重要が伸びることは確実。

たとえば、電池に使われるリチウムは炭酸リチウムとして年間7〜
8万t産出している。そのうちチリ北部に位置するアタカマ塩原に
ある塩の鉱床でその多くを生産していて、年間4〜5万tにも及ぶ。

もしも、世界の自動車年間生産台数にあたる6000万台にプリウ
ス並みの小型電池を搭載するようにしたとしたら、炭酸リチウムの
年間需要は現在の生産量の約6倍にあたる45万tになるという試
算もある。

炭酸リチウムの価格は04年には、1Kgあたり1ドルだったもの
が05,06年で5ドルと超えているという。 

これからますます資源獲得競争が激化するのは目に見えている。
 


2.レアメタルの獲得と回収 

こうした資源獲得にたいする対策として考えられる方法は2つある。
ひとつは資源埋蔵場所を新たに探索、発掘すること。もうひとつは
レアメタルを回収・リサイクルする技術を開発すること。

前者については日本の排他的経済水域(EEZ)と大陸棚延伸可能
域内にはレアメタルを含む海底熱水鉱床やコバルト、銅、白金を含
むコバルト・リッチ・クラストなどが多数発見されている。海底熱
水鉱床では世界第一位、コバルト・リッチ・クラストでは世界第二
位の資源量があるという。

コバルト・リッチ・クラストとは深海底に存在する鉱物資源のひと
つで、マンガン団塊の一種。コバルトを特に多く含むものをいう。
中〜南部太平洋などの古い基盤をもつ海山の山頂・斜面に広く発達
していることが確認されている。海山の斜面や頂上などの岩盤の露
出する場所に形成される特徴がある。

政府も、レアメタルなどを採取するための海底探査を行うことを計
画していて、2018年度までの試験掘削などを行うことを目指し
ている。
 
こうした海底資源採掘は、採算性が合わなくてなかなか開発が進ん
でいなかったけれど、近年の資源価格高騰によって大分採算性も見
えてくるようになってきた。

また、後者のレアメタル回収技術についても近年研究が進んできて
いる。特に携帯電話や家電の廃棄物の山、所謂「都市鉱山」からレ
アメタルを回収する話は広く知られるようになってきた。

都市鉱山からレアメタルを回収するに当たって問題になるのは、実
はリサイクルそのものではなく収集コスト。 

携帯電話には「モバイル・リサイクル・ネットワーク」という、通
信事業者やメーカーがサポートしている回収ネットワークがある。
だけど回収して得られた資源の利益は収集コストでほぼゼロになっ
てしまうという。

それでも国内で携帯電話を回収しなければならないのは、中国が安
く買い取るから。彼らは買い取った携帯を分解して、組み立て直し
、型落ちの携帯電話として使う。それも壊れたらまた分解して、中
の部品を再利用する。そして最後に金属資源を取り出す。まるでお
茶を出涸らしになるまで使って、最後の葉っぱまで食べてしまうか
のよう。

そんなことをされたら商売にならないから、たとえペイしなくても
国内で回収する仕組みを作っている。それでも国内の回収率は20
%前後。思い出として取っておいたり、電話帳やデータバックアッ
プ用として使ったり、個人情報の流出の心配から回収に回さないケ
ースが多いという。

このあたりの問題を如何に解決してゆくかが今後の課題になってい
る。 

更には、工業廃水からレアメタルを回収する技術なんかも開発され
ている。この技術は、名古屋大エコトピア科学研究所の伊藤秀章特
任教授らが開発した。

レアメタルが入った廃水に、水酸化カルシウムを鉱化剤として混ぜ
て300℃位にまで熱して、10気圧の圧力を加えると、レアメタ
ルが鉱物化するという。その回収率は99%にも及ぶ。この仕組み
は自然界の鉱物が地中のマグマ熱で高温高圧化した地下水の中で固
まって作られたことをヒントしたというから、実に理にかなった方
法だといえる。

しかも、工業排水から有害物質を分離しながら、レアメタルを回収
できるから、採算性さえ合えば非常に有用な技術になるだろう。

今現在、世界のレアメタル資源は中国が握っている。というのも1
0〜20年程前に中国はレアメタルの国内需要がないことを背景に
、外貨獲得のためにレアメタルの輸出に補助金を出して安売り攻勢
をかけていた。その結果、世界中の鉱山や製錬所が、中国産の安い
レアメタルとの価格競争に負けて廃業に追い込まれていった経緯が
ある。

今や戦略資源として見られているレアメタル。ここを如何に抑えて
いくかが、今後の日本の成長を支える柱となる。
 
(了)

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