3305.米国債の今後



米国の経済を見ると徐々に没落へ向かっていることが分かる。今年
の国債発行額は恐らく世界1位で200兆円程度になる。ちなみに
日本は多く見ても50兆円程度であるから、国債発行額が1/4程
度である。というように、米国債の問題に焦点が移ることになる。
                       津田より

0.はじめに
GMの再建で、米政府はGMの社債より従業員の処遇を優先した。
今後米政府は、債権者をあまり優遇しないことがGM再建問題で判
明した。ということは投資家は米大企業の社債や問題ある債権を絶
対に買わないことになる。

大企業の社債や国債を買う投資家はローリスクなので買うのである
から、リスクを嫌っている。そのGM社債が90%も減額させると
なれば、安全を求める投資家はこのような社債や米国債は買えない。

CDS(金融保険)も制限したことで、問題債権のヘッジもできな
いことになった。米国への投資は今後、魅力的ではないと世界の安
全思考の投資家から思われることになる。

一番影響されるのが、米国債である。大量の米国債発行が予定され
ている。この消化ができないと長期金利が上昇して、米国の政策金
利は0%であるのに、長期金利は3%以上になる。長期金利は普通
は短期金利より高いが、それでも短期0%であれば長期は3%程度
までであろう。

しかし、国債が売れないと、この金利が上昇して8%程度になると
、住宅ローンに連動するので、住宅ローンの金利が8%になる可能
性もある。それに応じて企業が発行する社債の金利も8%にするし
かないことになる。このような景気後退期に長期金利を上げると、
益々景気は下降する。

これを防止するには、米FRBのバーナンキ議長が言うように形振
り構わず、米国債を買い入れることである。もう1つが、ガイドナ
ー財務長官が中国を訪問するように米国債の買い手にお願いに行く
ことである。

しかし、どうなるのであろうか??
それを検討しよう。

1.米国債の現状
 米国債市場で、価格の下落、金利の上昇が起こっている。

30年米国債 93.8125(利回り4.63%)
10年米国債 95.0300(利回り3.72%)

30年国債は一気に<2.1875ポイント>下落したが、この米
国債の下落には、中国の短期米国債へのシフトが鮮明になってきて
いる。長期米国債を中国は売りに出ていることが分かる。
このことで、短期金利0%であるのに、長期金利4%にもなってい
る。これは2008年の危機前の水準であり、バブル崩壊以前の高
金利時代の水準になっていることになる。

一時に比べて、銀行預金の利率が低いので、再度個人投資家や機関
投資家が景気の先行きを楽観して、債券市場や株式市場に戻り始め
ている。このため、株式市場は9500円を回復したが、米国長期
金利上昇で住宅ローンを組めないことや企業の設備投資はできなく
なる。景気を押し下げることになる。

しかし、今年は2兆ドルの国債発行を米国政府は実施することにな
る。まだ、最初のステージである。その最初で金利の大幅な上昇が
起こっていることで、今後の国債発行が思いやられる。

FRBが国債買取枠として3000億ドルを設定しているが、この
枠を増加する必要が出てきている。

2.中国の動き
 中国は現時点でも貿易黒字であり、ドルが積み上がっている。今
までは、そのドルで米国債を買った。2007年からは一部を投資
に回したが、大幅な損失が出て、現時点では株式投資ではなく、や
はり安全性を重視しているようである。

このため、米国債を今も買っているが、金での外貨準備を始めてい
る。外貨準備に占める金の量が2007年末の0.9%で600ト
ン保有から2009年3月末で1.7%で1054トンと短期で大
幅に増加している。

もう1つの動きが、長期米国債から短期米国債へのシフトである。
これにより、長期金利が高くなることになる。

この2つの動きは、ドル暴落に備えることである。しかし、中国は
人民元相場の安定を維持する方針であり元相場の上昇を容認しない
ということで、今後も輸出のために元安ドル高に維持していくとい
う。

米国は軽工業の自国内産業がないので中国製品の輸入を禁止できな
いことで、中国は今後もドルが積み上がる。このドルで米国債を買
い続けるしかない。

そのことをガイドナー財務長官は中国と調整するために、日本にも
立ち寄らず、緊急に中国へ行くのである。今後の中国での米国債買
取量を知り、売れ残りが出ないように、残りをFRBで買取する方
向であろう。

3.FRBの動き
 FRBのバランスシートを見れば、一目瞭然で米国内銀行への貸
出しが0.51兆ドル増加、米国債は逆に0.26兆円減少、CP
買取機構へ0.33兆円貸し出し、海外中央銀行との通貨スワップ
で、0.53兆円増加している。1兆ドル以上を市中に供給してい
ることになる。

通貨流通量を示す米国M2は、2008年1月が6%弱で推移して
いたのが、2009年1月では12%と倍増している。普通、景気
後退すると、通貨流通量は減少するのが普通で、たとえば、英国は
2008年1月に7%であった数値が2009年1月には4%まで
減少している。伝統的な金融政策を取る国は英国と同様になる。

それなのに、米国の通貨流通量が大幅に増えるということは、FRB
がドル札を印刷して、市中に供給していることが分かる。一歩間違
えると、景気後退期のインフレという事態になりかねない。
1970年代に悩まされたスタグフレーションであるし、下手をす
るとドイツの1923年から1930年までのハイパーインフレに
なる可能性がある。

通貨流通量は、通貨の貨幣量と流通頻度で決まるが、FRBは貨幣
量を急激に増加させているのだ。それが見ていただいたようにFRB
のバランスシートに出ている。現状でも大量のドルを市中に供給し
ているのに、この上に国債買取で、1兆ドル以上の資金が出て行く
ことになる。

4.債権市場と今後は
 経済現象も金融現象も多くの参加者の気持ちが決めるものである。
政策の良し悪しは、国民感情や投資家感情で左右されることになる。

米国の政権が行っていることは、米国債の参加者に安心感を与える
代わりに、GM社債の不公平な扱いで不信感を与えている。政権へ
の不信感は投資家全体に不利益なことが多い。キャピタルゲイン
(儲け)へ課税強化、タックスヘブンの取り締まり、高額所得者へ
の増税などである。このことで、不信感から米国債市場は大変なこ
とになる。国債から退避した資金が再度、石油などの資源の先物に
流れている。このため、WTI原油価格が1バーレル65ドル以上
に急上昇し始めた。

また、S&P、ムーディーズなど格付け会社は米国債の格付けを引
き下げる可能性があると、エコノミストは指摘するが、当の格付け
会社はトリプルAを維持すると表明した。国家政策として強い圧力
がこの2社に掛けられているのであろう。

日本国債は順調に消化している。米国のように外国政府に頼みに行
くことも必要がないほど安定している。米国債以上に信頼感がある
が、現時点、1段格付けを上げたのにAa2でしかない。

このように米国全体でインチキが横行している。実力と評価が乖離
して、投資家に意味がない評価になってきている。米国債を買う人
たちは、インチキであることが知って買うことになる。
そのようなことをする投資家は凄く少ない。中国のような国で政治
的な意味合いで買いしかないであろう。

5.米国の経済はどうなるか?
 GM破綻で、経済は大きく下落することは間違えない。部品メー
カの破綻、GMの販売店や工場の雇用減少で解雇が急増する。その
上に消費者ローン、企業債務増加が原因で債務不履行が増えている
し、債務の縮小をするために雇用を削り、家庭では消費を削るため
に、一段の景気後退になる。1990年代の日本は企業債務が増大
したが、家庭の貯蓄は健全であり、家庭の債権で企業の債務を埋め
ることができたが、米国は家庭も企業も借りすぎで、両方ともに海
外からの借り入れである。

この海外からの資金が途絶えると、米国の債務増加の改善には相当
の時間を必要になるようだ。GMやクライスラーと同じように借り
すぎの大手企業は多く、かつ国内需要は減少してくると、今後も米
大企業の破綻は多くなり、社債のデフォルトは増えることになる。

米政府の公的資金がいろいろな企業に投入されることになると、益
々、米国債の発行を増やす必要になる。しかし、国債発行の消化は
FRBに頼ると、いつかハイパーインフレになる可能性もある。

そして、すでに米国は自由資本主義社会から新社会主義社会になっ
ている。国が格付け会社やGMのように企業経営を仕切ることにな
る。米政府の強制的な指導を受けることになっている。

さあ、どうなりますか??

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中国、人民元上昇を容認せず 国内輸出企業の支援策 
2009-5-29日経
 【北京=高橋哲史】中国政府は世界的な経済危機で苦境に立つ国
内輸出企業向けの新たな支援策をまとめた。人民元相場の安定を維
持する方針を盛り込み、元相場の上昇を容認しない姿勢をにじませ
た。31日からのガイトナー米財務長官の訪中を控え、中国として
「元相場の安定維持」が譲れない一線であることを示す狙いもある
とみられる。 

 新たな輸出企業の支援策は6項目からなり、温家宝首相が主宰した
27日の国務院(政府)常務会議で決定した。輸出代金が焦げ付いた
場合に損失を補てんする短期の輸出信用保険について、今年の引受
枠を840億ドル(約8兆円)とすることや、輸出税の軽減を一段と進
めることなどを盛り込んだ。 (09:25)
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米、長期金利3.7%台に上昇 財政悪化懸念、NY株は大幅反落
2009-5-28日経
 【ニューヨーク=山下茂行】27日のニューヨーク債券市場では10
年物国債が大幅に続落し、長期金利の指標である同国債利回りは前
日比0.17%高い(価格は安い)3.72%で取引を終えた。米政府の財
政悪化への懸念などから売りが膨らんだ。同利回りは一時3.74%と
昨年11月14日以来、約半年ぶりの水準まで上昇した。

 ニューヨーク株式市場ではダウ工業株30種平均が大幅に反落し、
前日比173ドル47セント安の8300ドル2セントで取引を終了。景気低
迷が長引くという懸念が強まった。ゼネラル・モーターズ(GM)
株は1.15ドルで取引を終えた。米連邦破産法11条(日本の民事再生
法に相当)を申請する可能性が強まったという見方が広がり、前日
比で約20%下落した。(11:01) 
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米、問題金融機関300超す 3月末、3カ月で2割増える 
 【ワシントン=米山雄介】米連邦預金保険公社(FDIC)は27
日、資本や収益状況などから経営に問題があると判断した金融機関
が2009年3月末時点で305社に達したと発表した。08年末の252社から
3カ月で約2割の増加。景気後退の長期化と金融危機による融資の焦
げ付きが、米金融機関の経営を圧迫していることを裏付けた。 

 問題金融機関の個別名は非公表。集計は預金保険を適用する8200
強の商業銀行と貯蓄金融機関(S&L)を対象に実施した。 

 「問題あり」と認定された金融機関の総数は、1994年末(318社)
以来、約14年ぶりの水準まで増加。証券大手リーマン・ブラザーズ
の破綻で金融危機が広がった昨秋以降、半年間で約1.8倍の勢いで増
えている。 (16:50)

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