3296.エネルギー技術と戦略的活用について



エネルギー技術と戦略的活用について



                           日比野


1.宇宙太陽光発電衛星計画 

「大きさ約50Kuの太陽電池アレー搭載の発電衛星を静止軌道に
 打ち上げて、発電衛星によって電力を発生させそれをマイクロ波
 に変換した後、直径約1Kmの送電用アンテナより地球上の直径
 約10Kmの受信アンテナに、マイクロ波を伝送しそれを直流に
 変換して500万KWの電力を得よう 」

1968年にアメリカのピーター・グレーザー博士によって始めて
提唱され、NASAと米国エネルギー省による研究の後、1979
年に、宇宙太陽発電所(Solar Power Satellite :通称SPS)の概念
計画として発表されたもの。

黒鉛複合材を材料とする寸法5km×10km、総重量約5万トン
に及ぶ発電衛星を静止軌道高度である約3万6千kmに建設すると
いうなんともスケールの大きい計画。当時はアメリカの全電力を供
給するという野心的なものだった。

だけど実現に莫大な費用がかかることと、研究開発課題、技術的リ
スクその他諸々の面から実現性に乏しいと判断され、1980年に
研究は中止された。

そして、1990年代の後半になって、環境問題への関心の高まり
と、技術の進展から、NASAにおいて「フレッシュルック」研究
計画として再開された。この計画で従来計画を大幅に見直して、よ
り現実的な構想が追求され、多数のシステム概念が提案されている。

日本でも経済産業省がSPS研究を2001年からスタートしてい
て、2040年のSPS稼働を目標にしている。2012年には神
戸大を中心とした共同開発チームがSPS衛星を打ち上げる計画を
している。

昨年の5月には、神戸大学の賀谷信幸教授らのチームが、ハワイの
マウイ島にある山頂で太陽エネルギーをとらえ、約148キロメー
トル離れたハワイ本島に無線で伝送する実験を行ない成功させてい
る。

実験で送電したのは、二十ワットと小さなものだったけれど、長距
離マイクロ波送電を実現した実験だとして多いに注目されている。

宇宙空間での太陽光発電は天候に左右されることなく24時間の発
電が可能になるから、クリーンで安定的なエネルギー供給手段とし
て期待を集めている。

問題は発電コスト。今現在は地上で発電したときのコストが1キロ
ワットあたり9円であるのに対し、宇宙発電は23円になっていて
まだまだ高い。これら課題の克服が望まれる。
 


2.海洋温度差発電
 
宇宙で電気を作るSPSに対して、海で電気をつくるというものも
ある。波力発電、潮力発電、海洋温度差発電などがそう。

波力発電は波のエネルギーを利用して発電するもので、空気室を作
って海水を取り込めるようにしておいて、空気室内で波が上下する
ときに発生する気流でタービンを回すというもの。もうすでに航路
標識ブイの電源として実用化されていて、今は更なる高出力化への
研究が進んでいる。

潮力発電は潮の満ち干きや海流を利用するもの。潮の満ち干きを利
用する場合は、まず干満の差の大きい河口や湾に堰を作って、そこ
を満ち引きする海水で発電する。海流を利用する場合は、速い海流
が通っている場所に水中タービン(海中風車)を沈めて、それを回す
ことで発電する。ただし発電部分がいつも海水に晒されるから、メ
ンテナンスが大変なことや、堰による発電なんかだと、生態系への
悪影響の懸念や近隣住民の理解を得るのが大変なこともあって、日
本ではあまり流行っていない。

そして海洋温度差発電は、海洋表層の温水(25〜30℃)と深海
の深層水との温度差を利用して発電するもの。気圧が下がると沸点
も下がるから、温水を低圧沸騰器に引き込んで気化させた後、発生
した水蒸気でタービンを回して発電する。

この発電方法は、古くから研究されていて、これまでは海洋表層の
温水(25〜30℃)と深海の深層水との温度差が20℃程度ない
と効率の良い発電は難しく、赤道から両回帰線くらいまでの間が適
するとされていた。

ところが、近年になって、海洋温度差発電推進機構理事長の上原春
男教授が、海水の温度差が比較的低い15℃程度でも高い効率で発
電できる、ウエハラサイクルを開発して注目を浴びている。

ウエハラサイクルでは、表層水で気化された液化アンモニアでター
ビンを回して発電する。気体のアンモニアはポンプで汲み上げた深
層水で液化して再利用することができ、二酸化炭素は殆ど排出しな
い。

日本のEEZ内の表層と600m及び1000mとの年平均温度差
の調査によれば、600mとの温度差では、平均14.9℃、最大
22.2℃あり、1000mとの温度差になると平均17.9℃、
最大28.8℃あると報告されている。1000mから取水する場
合は、房総半島沖から南の地域であれば発電可能だという。

インド政府は、1997年9月に海洋温度差発電の共同開発と実証
試験のための協力協定を佐賀大学と結んで1MWの発電が可能な実
証プラントを建設していて、このプロジェクトが成功すれば、積極
的に海洋温度差発電の商用プラントを国内に建設する計画を進めて
いる。その規模は5万KWのプラントを1000基建設するという。

今では、パラオ、フィリピン、スリランカ、ジャマイカなど50カ国
以上の国が、海洋温度差発電の導入を検討している。

日本では、日本最南端の沖ノ鳥島周辺海域で海洋温度差発電を行う
検討を進めている。

ただしここでも問題なのはやはりコスト。海洋温度差発電の1kw
あたりのコストは30円程度。太陽発電衛星よりも割高。だけど海
洋温度差発電には海水の温度差が要るという条件を逆手にとって、
EEZを確保するというのは大きな意味がある。

国策として十分考えるに値する。
 


3.戦略的海洋温度差発電プラント建設

EEZを確保するため、沖ノ鳥島に海洋温度差発電プラントを作る
という計画を紹介したけれど、そういう戦略的な視点で考えていく
と、沖ノ鳥島以外にも作ってみると面白いところがいくつかある。
たとえば尖閣諸島なんかがそう。

尖閣諸島の魚釣島に海洋温度差発電のプラントを建設してみるとい
うのはどうか。

海洋温度差発電には、海面表層と深層水との温度差が必要だといっ
たけれど、その前提として、深海の深層水を取水できるだけの深い
海が近くにないといけない。

尖閣諸島は沖縄トラフの先端にあって、先島諸島(西表島・石垣島
・宮古島など)との間には水深2000mを越える海域がある。条
件は整っている。

更には蛇足だけれど、1999年に尖閣諸島と石垣島を結ぶ海域の
鳩間海丘に熱水鉱床が見つかっている。なんとなれば、温水も冷水
も共に海底から取水できるかもしれない。

日本が尖閣諸島に海洋温度差発電プラントを建設するといえば、中
国は猛反発するだろうけれど、バーター取引を持ちかけることで牽
制する手がある。水を売るというのがそれ。

中国は、急速な工業化によって工業用水の不足が慢性化し、飲用水
の需要も爆発的に伸びている。さらには、旱魃の影響もあって、穀
倉地帯でも農業用水不足が深刻化している。

2008年頃から、中国の企業が西日本を中心に全国各地の水源地
を大規模に買収しようとする動きがあるという。水を売るという取
引は今なら使える可能性がある。

実は、海洋温度差発電プラントには副産物がいくつかあって、その
中のひとつに淡水が作れるというのがある。

電気を起こしながら、海水から真水も一緒につくれてしまう。

スプレーフラッシュ蒸発式とよばれる海水淡水化装置は、佐賀大学
が考案したもので、海洋温度差発電は低圧沸騰器で温水を引き込み
気化させた後、発生した水蒸気でタービンを回すのだけど、その水
蒸気を深層冷海水で冷却して処理することで淡水と海水中の塩分を
分離してしまうというもの。

得られる淡水は蒸留水と同レベルの高純度であって、水道水の基準
を十分満足するものだそうだ。

淡水の生産規模は、海洋温度差発電1MW規模で、一日あたり約1
200立法メートル、10MWだと12000立法メートルになる
という。

現在の一人一日あたりの水使用量は、世界平均で165リットルだ
から、もし、尖閣諸島に10MW規模の海洋温度差発電プラントを
作ることができれば、約6万人分の水を供給できることになる。

中国には尖閣諸島で作った淡水を売ってやればいい。

日本にとって海洋温度差発電には、物凄く戦略的意義がある。
 


4.無人哨戒システム
 
2009年2月になって、海上保安庁は尖閣諸島周辺の警戒監視活
動に、ヘリコプター搭載の大型巡視船(PLH型)を常時配置する
態勢に切り替えらている。

もともと尖閣諸島は、戦後しばらくの間は中国も台湾も日本領とし
て認識していて、自国の教科書でもそう紹介していた。だけど、1
968年10月から11月にかけて、東シナ海の海底を調査した結
果、石油資源が埋蔵されている可能性があると指摘された途端に自
国領だと言い出した。

尖閣諸島をめぐる領有権争いはこのときから始まるのだけれど、1
979年に、日本の海上保安庁は、魚釣島に仮設ヘリポートを設置
したのだけれど、後に中国の抗議によって撤去している。

だけど、今はヘリコプター搭載型巡視船が尖閣諸島に常時配置され
ているから、実質は仮設ヘリポートが設置されているのと変わらな
い。

これは、尖閣諸島周辺に、仮設ヘリポートの設置などの早期警戒シ
ステムの構築がどれだけ有効であるかを物語っている。 

極端な話、偵察行動であればラジコン飛行機にカメラをつけた程度
のものを沢山作って、領海を24時間飛ばさせたっていいはず。

実は、10年以上前に、宇宙太陽光発電衛星計画の基礎実験の一環
として、地上からマイクロ波で電力を送ってラジコン飛行機を飛ば
したり、飛行船を浮かせたりする実験が行われ、成功している。

これを応用すれば、たとえば海洋温度差発電で起こした電気をマイ
クロ波で偵察用ラジコン飛行機とかラジコン飛行船に送ってやれば
、24時間偵察哨戒活動ができるかもしれない。そこまでは無理だ
としても、マイクロ波送信施設上空で勝手に充電できるようにでも
しておけば、定期的に帰って充電しては、また偵察することもでき
るだろう。

ラジコン飛行機のように軍事兵器が小型化するということは、探知
されにくかったり、撃墜されにくかったりすることを意味する。偵
察には重要な要素。
 
何も偵察だけなら、今のように地上レーダーや対潜哨戒機の活動で
もカバーできるじゃないかとも思うのだけど、2008年12月の
中国調査船の領海侵犯は、魚釣島の西方沖と島周辺という巡視船の
死角となる南東海域からだった。

今回のPLH型巡視船の常備配置も死角を突かれたことによる対策
だそうだけれど、他にも同じような死角があれば都度同じ対策をし
なくちゃいけなくなる。人も船も必要になる。

ラジコンとは言わないまでも小型の無人偵察機を沢山作っておいて
、死角を無くす様に其処ら中を偵察させるようにできればずっと効
率は上がる。

だけど、なんといっても一番の問題は、自衛隊が国内法でその行動
が雁字搦めに規制されて思うように動けないということ。領海警備
はいまだに海上保安庁がやっている。

中国が空母を持ちだして、領海侵犯してきたらもう海上保安庁では
対応できない。

現実的に国土を守るということについて、真剣に考えるべきときが
来ている。
 
(了)

コラム目次に戻る
トップページに戻る