3262.麻生内閣支持率と政局について



麻生内閣支持率と政局について


                           日比野

1.内閣支持率回復

麻生内閣の支持率が回復傾向を見せている。4月6日までの各種世
論調査では支持率が20%を超え、河村官房長官も大いなる激励と
受け止めると発言した。

反対に大きく自民党をリードしていた衆院選の投票先は、自民党が
民主党を逆転し、政党支持率も自民党が民主党を上回った。

特に注目したいのが、西松建設の違法献金問題で、小沢氏の説明が
「不十分だ」とみる意見は86%と圧倒的多数を占め、小沢党首は
辞任すべきとの意見が6割を超えているにも関わらず、東京地検特
捜部の捜査については、「適正に行われたと思わない」が「適正に
行われたと思う」をわずかに逆転していること。

国策捜査なのか、不当捜査だったのかはさておき、捜査が適切では
ないと思う人が適正だと思う人の率を超えているということは、小
沢氏の説明さえ十分にできれば、支持が戻る可能性を示してる。辞
任すべきの6割の声は、説明できないのであれば辞めるべきだ、と
いうことなのだろう。

小沢党首になってからの民主党は、これまで以上に説明不足・説明
下手になっている印象が拭えない。

麻生総理との党首討論はわずかに1回だけ。自民と民主の政策論争
の声はさっぱり聞こえてこない。これはマスコミの責任もあるのだ
けれど、口を開けば政権交代としか言ってこなかったツケが回って
きているように思える。

民主党の支持率が下がってきた理由が、西松建設の違法献金問題だ
けなのであれば、小沢党首が辞任することで、支持率は回復に向か
う可能性がある。だけどそれ以外の理由があるとすると、単なる辞
任だけでは済まなくなる。

河村官房長官は麻生内閣の支持率の回復の原因として『政局より政
策』という基本方針が理解されつつあるのではないかと述べている
けれど、原則その認識は正しい。

小沢民主党の政権奪取のための方針は、与党と対決姿勢を取ること
だった。

だけど、この方法が通用するのは、短期決戦の場合。

なぜなら、自民党にやらせても駄目だから、民主党にやらせてみよ
うかという「期待」に訴える方法だから。


 
2.政策論争をしてこなかったツケ

ここにきて、麻生内閣支持率が回復してきた理由は、敵失である西
松建設献金問題も多少はあるかもしれないけれど、経済対策をちゃ
んとやったということが大きい。

本当の意味で支持率を回復させるには、与党が経済対策において間
違えないことに勝るものはない。なんだかんだ言っても、正しい経
済対策をやって、実際に景気を回復させることが一番。

去年は定額給付金だけクローズアップされて、散々マスコミから叩
かれていたけれど、定額給付金以外の経済対策を打っていたし、そ
の定額給付金も実際に配られ始めるとそんなに評判は悪くない。休
日一律1000円の高速料金の効果も出てきている。

麻生総理は、平成21年度の予算が通るや否や、更なる大型補正予
算の検討を指示している。

与党が正しい政策を取っているときに、野党がそれに対決しようと
思えば、正しくない政策を出すか、審議を拒否するか否決するしか
ない。本当はより正しい政策を出すべきなのだけれど、それだと向
かう方向が同じだから、対決にはなりにくい。

これまでの小沢民主党は、審議拒否や、参院否決を繰り返して対決
姿勢を取ってきた。流石に間違った政策は出しにくかったのだろう
。昨年可決した経済対策関連法案のかなりの部分は参院否決後の衆
院再可決だった。

だけど、粘りに粘った麻生総理が篭城戦を耐えて、持久戦に持ち込
んだ結果、予算が通って、ようやく経済対策の実効が目に見える形
で出てくるようになった。

民主党およびマスコミが総動員で短期決戦に持ち込んで政権奪取す
る作戦は、予算が通った段階で殆ど潰えてしまった。

短期決戦であれば、その場の勢いに乗るとか、奇襲を仕掛けるなり
しても勝つ確率は高くなるのだけれど、長期戦になれば、やはり王
道でなくちゃならない。奇策はあくまでも奇策であって、奇抜な期
間が過ぎれば効力は消える。

与党が経済対策予算を通して、経済対策の実効が見えてくればくる
ほど、民主党はそれに反対できなくなってくる。審議拒否などすれ
ば、国民から景気の足を引っ張る抵抗勢力だと見られてしまう。

麻生総理は3月31日の記者会見で、平成21年度第1次補正予算
案に対する民主党の対応次第によっては解散も視野に入れる、と見
事なタイミングで布石を打った。

それに対して、民主党の山岡国対委員長は4月1日に民主党の会合
で、徹底審議を求める方針を表明して、意図的な(審議の)引き延
ばしはしないと語ったそうだけれど、こうなってしまっては、そう
言うしかないだろう。

漸くにして、政策論争が始まることになる。だけど、民主党が全国
行脚して政策を説いて回ったかもしれない支持層はさておき、これ
まで民主党はいくらでも政策を訴える機会があったのに国会の場で
は「政権交代だ」としか言わなかった。

民主党を応援していたマスコミもKY(漢字読めない)だの、ホテル
のバーがどうだの、麻生総理のあげ足取りしか報道しなかったから
、テレビの視聴者は、民主党の政策なんか誰もしらない。知らせた
ければ、一から始めるしかない。それに今ある民主党の支持層だっ
て、景気がどんどん回復すれば、どうなるか分からない。

民主党がこの半年間、政権交代だとしか言わなかった事が、今度は
自分達のハンデとなって降りかかってきてる。

与党の経済対策は、これから目に見える形で進んで、実効をあげて
くるから、民主党は今からネジを巻いて政策論争をして、それをし
っかりと国民に知らせる努力をしなければ、時間と共にどんどん不
利になってゆく。

民主党は正念場を迎えている。
 
 

3.追加経済対策

麻生総理は4月10日の夕方、記者会見で事業規模56兆8000
億円、財政出動15兆4000億円と過去最大の追加経済対策を発
表した。

対策の概要は大きく次の3つ

(1)景気の底割れ回避     
    ・・・雇用調整助成金の拡充、中小企業向けの貸付保証枠
       の拡大など
(2)雇用や社会保障、子育て支援
    ・・・子ども基金増額、子供手当、地域医療再生基金、介
       護職員の待遇改善
(3)成長が期待される分野に重点
    ・・・太陽光発電の補助。エコ車購入支援。地方公共団体
       への手当。贈与税などの税制改正。


これらの案には、経済諮問委員会など広く有識者の意見を聞き、そ
の6割程度を採用したそうだ。経団連会長も、補正予算がかなり強
力なものだ、と期待感を示している。

平たく言えば、良い経済対策に仕上がっているということ。

個人的には、今回の補正予算案の中の贈与税を含む税制改正法案に
注目している。この税制改革は、住宅を購入するための資金の贈与
の非課税枠を拡大して、500万円まで贈与税を無税とするもの。

1400兆円以上といわれている日本国内の金融資産、その半分以
上が高齢者が持っているのだけれど、要はこの資産を子や孫などの
若者に譲らせようというのがこの法案の狙い。

もちろん、こうすることで、消費性向の低い高齢者から消費性向の
高い若年層に金を持たせることで消費を刺激するという効果はある
し、それが第一に起こしたいこと。

だけど、それ以上に重要な意味がこの法案にはある。それは、世の
中を動かす実権が年寄りから若者に移ってゆくということ。

身も蓋もない言い方をすれば、この世は金で動いている。少なくと
も経済的な仕組みはそうなっている。

社会は、政治的発言や政治活動しないと動かないという訳ではなく
て、何にも言わなかったとしても、その手持ちのお金を「何に」使
うかという購買行動そのものが、経済に対する意見となる。

社会は、「経済的意見」に沿う形に変わってゆく。

教育にお金を使う人が増えれば、そのニーズに合うように、教育産
業が立ち上がってくるし、食事にお金を使う人が増えれば、外食産
業やグルメ産業が流行るようになる。

だから、世の中は、お金を使ってくれる人の意見を聞いて動くよう
にできている。

今はそのお金を高齢者が持ったまま中々使わないものだから、世の
中もさっぱり変わらない。お金を使ってくれないから、経済的意見
が聞こえてこない。これでは変わりようがない。

だけど、そのお金が若者層に移転するとどうなるか、若者の意見が
社会に反映してゆくようになる。引いては政治的影響力をも持つよ
うになる。

年寄りから若者への実権の移譲。維新は意外と近くにまで来ている。


 
4.未来開拓戦略
 
麻生総理は4月9日、都内の日本記者クラブで「新たな成長に向け
て」と題した講演を行い、その中で日本の「未来開拓戦略」を提示
した。

なんでも諮問会議が終わったこのタイミングで、経済対策とあわせ
て出したということのようだ。もしかしたら民主党の自滅に伴って
国会運営に余裕が出てきたこともあるのかもしれない。何にしても
芽出度いこと。

もっとも、日本の将来像については、麻生総理曰く「ちょっともの
が分かっている人」からよく質問が出ていたそうだから、その人達
への答えとしての意味合いもあるのかもしれない。

未来開拓戦略の骨子は3つ。「低炭素革命」「健康長寿社会」「日
本の魅力発揮」を軸に官民による集中的な投資と大胆な制度改革を
行なうという。

ここでひとつ注目したいのは、ひところ騒がれた、移民受け入れに
関する提言がなされていないこと。確かに「健康長寿社会」が実現
して、提言にあるように2020年までに新たに35兆円の市場と、210
万人の雇用が創出できるのならそれに越したことはない。

提言では、介護関連で100万人近い雇用を目標にするというから、
残りの100万人は地域医療の再生に従事することになるのだろう。
実現すれば昨今問題になっている、介護や都市部での産院たらい回
しなどの問題は大幅に軽減される。

移民問題に関連するけれど、少し前に話題になっていた、外国人労
働者受け入れなんかは、低賃金での労働者を受け入れて、人件費を
圧縮してゆく、いわば無駄を省いてコストカットする方向の考え。
財政再建とか公務員改革なんかはどちらかといえばこの方向。要は
支出を抑えるやり方。

それに対して、麻生総理の提言は、新しい価値を創造してドライブ
していくことで、収入を増やそうという考え。

会社でも個人でも収支を黒字にしたければ、収入を増やして、支出
を減らすことに勤めるのは当たり前。差し引きでお金が残れば、そ
れが黒字。

だから、公務員改革が進んでないとか、財政再建だとか、バラマキ
はいけないだとか、批難の言葉は数多いけれど、トータルの収支で
どうなのか、黒なのか赤なのかをきちんと検討しないとバランスの
取れた議論にはならない。

今は世界的不況で、みんな支出を減らすことで生き残りを計ってい
る。だけど、いつまでも支出を減らすことだけしかしなければ、や
がて痩せ細って死んでしまう。近々には、現在ただいまの手当ては
大切だけれど、中長期的には、どうやって収入を増やしていくかの
仕組みを考えておかなくちゃいけない。

麻生総理の未来開拓戦略には、明らかにこれまでの成長モデルとは
違う点がある。それは日本発の価値によって、アジア経済全体を倍
増させてゆくという視点。日本がアジアの成長のドライブになると
いう決意。そこには内需も外需もあって、新しい価値創造によって
富と生んでいくという道。

前々から中国が世界の成長ドライブになるのだ、という意見が取り
沙汰されていたけれど、中国は沿岸部こそ近代化が進んでいるけれ
ど、内陸部なんかの発展は遅々として進んでいない。中国のいう成
長は、依然として既存の旧来型製品を安く作って世界中に買っても
らうことで成長してゆくというモデル。日本はもはやこの次元には
ない。

麻生総理は、提言の中で、日本だけが、旧来型品目の輸出に依存し
た、成長軌道に復帰することは、現実的ではないと言っている。成
長軌道は旧来品目の輸出ではないところにあるのだ、と。

だから、肝心なことは、未来開拓戦略の3つの柱、「低炭素革命」
「健康長寿社会」「日本の魅力発揮」が日本の成長に資するところ
になるかどうか、アジアの、ひいては世界の経済成長のドライブに
なれるかどうか。そして、収支として黒字になるのかどうか。

少なくとも「低炭素革命」と「日本の魅力発揮」の二つに関してい
えば、既に世界で十分通用する実力を持っている。今後の展開に期
待が持てる。

そして何より注目すべきは、麻生総理自身が、経済大国として栄え
た条件は「ものづくりと貿易」だという認識があるということ。こ
れからの日本が行き過ぎた金融資本主義に陥らず、日本にしか作れ
ない精密で正確で、アイデアに溢れたものづくりをする限り、日本
の繁栄はまだまだ続く。 

(了) 


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