3242.麻生外交について



麻生外交について


                           日比野
  
1.世界の総理 

 
麻生外交について考えてみたい。

日本の国内メディアでは麻生総理の外交のことはさっぱり報道され
ない。KY(漢字読めない)だの、ホテルのバーなどどうでもいいこ
とばかり。だけど麻生総理は就任依頼、外交で目覚しい実績を上げ
ているのは確か。

就任依頼の外交実績をすこし列挙してみる。


・外交実績
2008.10.03 「竹島は固有の領土」とする答弁書を閣議決定 
2008.10.06 「麻生氏は外相時代、中韓との関係を損ねた」とする
      NYタイムズ紙の捏造批判記事に反論投稿 
2008.10.07 日本の不良債権処理の成功経験から、米国に対し資本
      注入を促すよう指示 
2008.10.10 北朝鮮経済制裁の半年延長を閣議決定 
2008.10.12 G7行動計画を支持、日本は外準活用の支援表明=I
      MFC  
2008.10.15 2年ぶりに拉致対策本部の会合を開く 
2008.10.17 北朝鮮制裁の徹底を中川財務・金融相が指示 
2008.10.19 安保理事国に当選。非常任理事国としては史上最多の
      10回目 
2008.10.25 IMFがアイスランドに緊急融資。アイスランド外相の政治顧問が
      「日本のおかげ」と感謝 
2008.10.27 日印安保共同宣言に署名。インドと安保、経済、環境
      、エネルギーなど幅広い分野で戦略的協調   
2008.10.31 大陸棚拡張を国連に申請決定。日本国土の倍が新たな
      海底資源の採掘領域へ 
2008.11.01 水産庁、韓国漁船の違法操業の防止強化の方針決める 
2008.11.14 IMF専務理事が、麻生総理のIMFに対する資金提供・リ
      ーダーシップ・多国間協調主義を評価 ( 英語版 ) 
2008.11.14 麻生首相「金融危機打開には、日本の経験が有効」と
      する論文を米紙に寄稿 
2008.11.14 大陸棚拡張を国連に申請完了 
2008.11.15 日本と世銀が途上国の銀行支援ファンド設立決定 
2008.11.23 日露首脳会談で、事務レベル領土交渉への反映・平和条
      約を要求。露大統領「領土問題を次世代には委ねない」 
2008.11.24 中国の胡錦濤国家主席との会談を通じ、金融危機での
      日本の存在感を内外へ印象付ける 
2008.11.27 集中豪雨被害を受けたパナマ共和国に対し緊急援助 
2008.12.03 国連で日本が提出した「核兵器の全面的廃絶に向けた
      新たな決意」が圧倒的賛成多数で採択 
2008.12.09 外務省HPの「竹島は日本の領土」という宣伝資料を
      10カ国に拡大 
2008.12.09 豪雨による洪水被害を受けたイエメン共和国に約80万
      ドル(約9,000万円)の緊急無償資金協力 
2008.12.13 初めて政府主催で拉致問題の集会を開く 
2008.12.18 高潮被害を受けたパプアニューギニア独立国を緊急援
      助 
2008.12.18 ミャンマー難民約30人を2010年度から試験的に受け入
      れ 
2008.12.18 日豪の安全保障協力促進の共同文書発表。防衛協力と
      情報共有の促進 
2008.12.18 高潮災害にあったパプアニューギニア独立国に約1,300
      万円相当の緊急援助物資を供与 
2008.12.23 パレスチナ自治区への無償資金協力「ジェリコ市内生
      活道路整備計画」に関する書簡の交換 
2008.12.26 コレラが流行してるジンバブエへ150万ドルの緊急無償
      資金協力 
2009.01.03 1千万ドル提供を餌にパレスチナに停戦を要請 
2009.01.24 『日中遺棄化学兵器処理問題終結』 
2009.01.25 日本の排他的経済水域(EEZ)の起点となる「国境
      離島」を含む無人島などの保全・活用に本格的に取り
      組む。 
2009.01.29 李大統領による日韓首脳会談での「慰安婦謝罪要求放
      棄 誓約」 

※以上(おつるの秘密日記より引用
     http://blog.zaq.ne.jp/otsuru/article/716/)


IMFには10兆円の支援をして、アメリカには公的資金注入を促
し、G20では金融危機に対する国際協調を訴えた。

麻生総理の外交実績をみる限り、日本は世界に対して、特に経済対
策においてリーダーシップを発揮したといっていい。

それに対して、世界のリーダーを自任していたアメリカは、サブプ
ライムを奇禍として、いまやボロボロになっている。ニュー・ニュ
ーディールとして経済対策を行なうとはいえ、今は破綻寸前のビッ
グスリーを潰すのか救済するのかで悶着している。

さらには、中間層以下への減税やFTA反対、バイアメリカンなど、
自国を守るのに精一杯。とても世界の面倒を見ている余裕なんてな
い。

昨年後半に限っていえば、ブッシュからオバマへの政権交代も重な
って身動きのとれないアメリカに代わって、麻生総理が、事実上、
世界の総理としての役目を果たしたのではないかとさえ思える。


 
2.新幹線外交

「私の字は読みにくいなあ。東京は、人口が1千万人を超えていま
 すが、その76%は鉄道を利用してるんですよ。アメリカでは、
 90 %が自動車を利用しています。やっぱり、鉄道なんですよ
 !」

2009年2月24日に行われた日米首脳会談後にワシントンポス
トのインタビューを受けた麻生総理は、最後にこうコメントした。

ホワイトハウスに始めて迎えた首脳は、イギリスではなくて、日本
の麻生総理だった。国内メディアは、昼食会すらなかったとかアピ
ールに失敗したとか言っているけれど、大切なのは会談の中身その
もの。

日米同盟についていえば、大統領から核抑止を含む対日防衛を約束
する言質を引き出し、保護主義への対抗は日米の重大な責務だとし
、北朝鮮問題の連携を確認した。

また、開発、治安、インフラ分野でのアフガン支援を約束して、ク
リーンエネルギー分野での日米協力の協議開始をするという。

報道で表になった部分からしか分からないけれど、それでも麻生総
理は相当日本ペースで会談をしたのではないか。

憲法九条を盾にしながら、アメリカの軍事力による安全保障の確認
をしつつ、したたかに保護主義に釘を刺して、日本の得意分野であ
る技術協力で支援を約束する。

アメリカの売りはその強力な軍事力だけれど、日本の強みは技術力。
特にエネルギー効率を高める技術や環境技術なんかでは世界のトッ
プを走っている。

お互いの強みを生かしつつ協力関係を強化して、互いの国益を図る。
麻生総理は技術力という日本の武器を熟知しているからこそ、この
ような交渉を可能にしているのではないかと思う。

会談前は、アメリカ国債を買わされるのではという懸念が囁かれて
いたけれど、麻生総理は、会談後のインタビューでその点について
の話は全くなかったと答えていた。本当のところはやっぱり買わさ
れているのかもしれないけれど、表向きでは、安全保障を確認しつ
つ、日本の技術協力を申し出たこの会談。外交成果としては十分合
格点ではなかろうか。

中でも、特に注目したいのはアメリカが進める高速鉄道計画に新幹
線技術で協力する意向を伝えたこと。カリフォルニア州は、州縦断
高速鉄道を計画していて、そこに新幹線を走らせるという案。もし
実現すれば、ロスアンジェルス−サンフランシスコ間約700キロ
が2時間38分で結ばれることになるという。

この計画は、オバマ大統領がやろうとしているクリーンニューディ
ール計画に沿いつつ、経済効果が見込めるから、受注できれば、大
きな成果になる。なんとなれば、建設費の一部を日本が一部肩代わ
りして、カリフォルニア新幹線の営業利益からゆっくり返して貰っ
たっていい。

麻生総理の進める新幹線外交。これは意外と世界に貢献する案かも
しれない。 



3.正確さという富
 
「我々がこのプロジェクトを通じて日本から得たものは、資金援助
 や技術援助だけではない。むしろ最も影響を受けたのは、働くこ
 とについての価値観、労働の美徳だ。労働に関する自分たちの価
 値観が 根底から覆された。日本の文化そのものが最大のプレゼ
 ントだった 。今インドではこの地下鉄を「ベスト・アンバサダ
 ー(最高の大使)」と呼んでいる――。」

麻生総理の著書「とてつもない日本」に紹介されている、日本のO
DAで建設されたインドの地下鉄に対してのインドの人々の感謝の
言葉。

日本人にとっては、列車が時間通りに動くなんては当たり前であっ
て、全然不思議とは思わないのだけど、海外から見るととてつもな
いことに映るらしい。特に新幹線のような高速鉄道を分単位の誤差
で一時間に何本も運行させるのは信じられないことのようだ。

2002年の日韓ワールドカップでは、日本の新幹線に乗った外国
記者はそのあまりにも正確な運行に、新幹線のダイヤで時計を合わ
せることができるほどだ、と驚嘆したという。

正確さは富を生む。

先ごろ、韓国の高速鉄道(KTX)の第3期工事区間である大邱−
釜山間のレールの枕木に亀裂が入っていたことが分かった。どうや
ら、図面に出ている防水(バンス)材を吸水材だと間違って入れてし
まったらしい。

ハングル表記では「防水」「放水」「防守」「防銹」「傍受」など
は皆同じ「バンス」だから、誤解しやすかったとはいえ、確認もな
しに大量の不良品を作ってしまうところは大いに問題ありとすべき
だろう。

枕木はレールの間隔を一定に保つと同時に列車の重量を効率よく分
散させ、レールが地面にめり込むのを防ぐ役目があるから、枕木に
欠陥があると、列車は本来のスピードを出せなくなってしまう。

韓国KTXで発覚したひび割れ枕木は直ぐに取り替えられるようだ
けれど、作り直しの分だけ余計に費用がかかるし、納期も遅れてし
まう。経済的損失が発生することになる。

だから、地味なように見えて、正確に間違いない仕事というのは、
無駄を省き、効率を最大限にするための土台になっている。

列車が時間どうりに動けば、荷物の配送なんかの確度は高くなるし、
受け渡しの相手待ちをしたりなんかする無駄な時間もなくなる。

納期をきちんと守ってくれる安心感があってこそ、しっかりとした
生産計画を立てることができる。

トヨタのカンバン方式だって、決められた日時に部品が届くという
納期尊守の原則がきっちり守られているからこそ成り立つのであっ
て、決まった時間に平気で遅延するような社会では逆立ちしたって
できない。


 
4.アフガン新幹線
 
昨今、高速鉄道は温暖化ガス排出量が少ない大量輸送手段として、
世界的に重要性が見直され、米国、ブラジル、ロシア、インド、ベ
トナムなどが大都市間の新規建設計画が立ち上がっているけれど、
高速鉄道はなにも人しか運ばないというわけじゃない。

たとえば、貨物列車のように資材や食料、はたまた武器弾薬だって
運ぶことができる。兵站の確保という意味でも新幹線なんかの高速
大量輸送手段があるとないとでは大違い。

昨年、中国での四川大地震では、交通が途絶した山岳地帯での活動
は難航し、人民解放軍がパラシュート部隊で救援物資を投下するな
どの救援活動をしていた。

急峻な地形であればあるほど、道路や線路などの輸送インフラ、高
速移動手段の確保は大きな意味を持つ。

そういった視点で眺めてみれば、麻生総理の新幹線外交をもう一段
戦略的に使える余地があるように思える。たとえば、戦略上の要衝
ポイントに新幹線を建設するとか。

先の日米首脳会談で、アフガニスタン安定化に向けた支援を要請さ
れているけれど、その一貫として、アフガニスタンからパキスタン
、アラビア海に抜ける新幹線を建設してみるというのはどうか。

アフガニスタンは国土の中心に山脈があって、その周りを幹線道路
が取り囲んでいる山国。北東の国境近くカラコルムは標高七千メー
トルを超え、そこから西に向かってヒンドゥークシュ山脈とそれに
連なる山脈が国土を横切って伸びている。

パキスタンからアフガニスタンへ入るには、カブールから東の山脈
の切れ目、カイバル峠を超えていくのが殆ど唯一つの交通路とされ
ている。

オバマ大統領はアフガニスタンに増派しようとしているけれど、物
資弾薬の補給にはそうとう苦労する筈。カイバル峠を山岳ゲリラに
封鎖されてしまったらもうアウト。人が携行できる物資なんて多寡
が知れているし、なにより数千メートルの山を越えていかなくちゃ
ならない。そんなことになろうものなら、兵站の維持は困難を極め
る。

となると、物資輸送は大きく迂回して、ロシア・中央アジア経由で
持ってゆくしかない。当然通過する関係各国の協力は必要になるし
、大変な手間がかかる。

他国に軍隊を駐留させるのって、簡単な話じゃない。

だから、たとえば山岳地帯にトンネルを掘って、そこに新幹線を通
してしまえば、山岳ゲリラに破壊されない限りは、そうした補給の
負担もぐっと軽減される筈。

それどころか、簡単にアフガニスタンに入れることを意味するアフ
ガン新幹線の建設は、アフガニスタンの地政学的意味を変えてしま
う可能性すらある。


 
5.日本ブランドと平和の駅

 「給水車に子供の憧れるサッカー選手「キャプテン翼」を乗せた
  らどうだ?」

イラクはサマワの復興支援で、全然目立ってなかった日本の給水車
をなんとかアピールしようと、キャプテン翼(現地ではキャプテン
・マージド)のステッカーを貼ったところ、大人気になった有名な話
がある。

そして、「キャプテン・マージド」が描かれた給水車は、現地で一
台も被害に遭うことがなかった。これは特筆すべきこと。これこそ
日本のソフトパワーが発揮された姿。

これまで土下座外交だの、ODAバラマキなど散々揶揄されてきた
日本外交だけれど、戦後60年、少なくとも外国に対して悪いこと
はしなかった、という事実とその積み重ねが今日の日本のイメージ
を形づくっていることだけは言える。

だから、日本製のものには一種の平和イメージ、所謂「徳」みたい
なのがあって、それを攻撃することは、攻撃したほうが悪いという
後ろめたさがなんとなくあるのではないか。

自衛隊は、イラク復興支援で現地の人々の中に飛び込んで真心の篭
った支援活動をする姿勢を見せた。それが地元民の信頼と感謝を勝
ち得る原動力になった。

そうした現地の伝統文化を尊重するという極めて日本的なやり方は
、サマワで歓迎され受け入れられた。ある有力な部族長は「日本軍
を攻撃したら一族郎党を征伐する」とまで布告したという。

このやり方をアフガン新幹線でも応用すればいい。

たとえば、イスラムの人達のために、食堂車ならぬ「イスラムお祈
り専用車」と作るとか、医者と看護婦を乗せて簡単な診察ができる
「医療専用車」とかを作って新幹線の車両として連結すればいい。

また、それこそ新幹線の車体に「キャプテン翼」をペインティング
したっていい。とにかく現地の人々の利便性を最大限にすることを
優先してアフガン新幹線をつくることがポイント。

イスラムお祈り専用車を連結したアフガン新幹線ならゲリラも攻撃
しにくいだろうと考えるのは、楽観的に過ぎるだろうか。

更に、アフガン新幹線の駅には、治安維持部隊や国境無き医師団に
駐留して貰う手もあるだろうし、支援物資を集めた臨時キャンプを
併設したっていい。人や物資の移動が活発になれば、そこで商売も
始まるだろうし、駅の収益は現地の人に還元するようにすれば、雇
用だって生まれてくるだろう。

新幹線なら軍事物資も大量に輸送できるし、必要とあらば陸軍を展
開することだってできる。

もしもアフガン新幹線を作ることができたとすると、その駅を中心
とした治安が維持された平和な空間が出現する可能性がある。

アフガニスタンを走る新幹線と点在する日本ブランドの「平和の駅」
。日本らしい国際貢献ではないかと思う。
 
(了)



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