3185.言葉がデジタル通信であることについて



言葉がデジタル通信であることについて
From: tokumaru  
みなさま

言葉のデジタル性について、ひきつづき考えています。
お付き合いください。

得丸


言語がデジタル通信であることについて

1 同じ音でも順番が違うと意味が違う
 言葉がデジタル通信であるということについて、簡単な例でみて
みたいと思います。私たちにとっては、あまりに当たり前であるこ
とも、デジタル性の証拠になります。たとえば、同じ音でも順番が
変わると意味が変わること、あるいはある単語に一音つくだけで意
味が変わることがそれです。

「いか」と「かい」という言葉を例にとりましょう。

  イカといえば、魚介の烏賊を想像しますか。それとも、以上か以
下かの「以下」を想像しますか。ほかにも医科や異化という言葉が
あります。
  カイといえば、「貝」を想像しますか。上位・下位の「下位」、
あるいは会、買い、甲斐、解、快、回、櫂、戒といろいろな「かい
」があります。

  カイとイカは同じ音で構成されていますが、順番が違うだけです。
順番が変わると、意味もまるで変わります。

2 一音加えるとまるで意味が変わる
  さらに、「イカ」にたった一音だけ足して、いかが(如何、イカ
が)、いかす(イカす)、いかん(遺憾、如何、移管)、いかり(
怒り、錨)、いかく(威嚇)、いかる(怒る)、いかに(イカ煮、
如何に)、いかだ(イカだ、筏)、としたときに、それぞれぜんぜ
ん意味が違います。
 「カイ」の場合も、かいぎ(会議、懐疑)、かいが(絵画、下位が
)、かいし(開始、懐紙、怪死)、かいしゃ(会社、膾炙)、かい
しょ(楷書)、かいそ(開祖)、かいな(腕)、かいひ(回避、会
費)、かいば(飼葉)、かいり(乖離、海里)、かいろ(懐炉、回
路)、としても実にさまざまな意味になります。
  たった一桁だけ違っても、まるで違った意味になる。これがデジ
タル性です。(degitとは桁という意味です。)

  こんなコミュニケーション手段をもっている動物は、ヒトだけで
、ほかにはいません。

  これがどうして可能になるかというと、一音一音が別々の音とし
て発音でき、聞き取ることができるからです。これは「有限な離散
信号を一次元配列して送受信する」デジタル通信のなかの最重要な
性質である離散性にかかわる部分です。離散性とは、「別々の信号
として送信でき、受信できる信号である」ということです。
  話す側が「イカす」といったときに、聞いた側がそれを「いけす
」とか「いかく」とかに受け取らずに、「イカす」と聞き取るから
コミュニケーションが成立するのです。

3 有限な音素・音節は乳幼児期に獲得する
  皆さんも経験があるかと思いますが、外国語を話す場合に、なか
なか思い通りに離散的な信号として伝えることができません。私自
身の経験ですが、ロンドンでタクシーで帰宅するときに運転手に「
アーサーロード(Arthur Road)」といって伝わったことは一度もあり
ませんでした。僕の発音だと「ア」も「サ」も違っているからです。
  あるいは、フランス語で「14(quatorze)」と言いたかったのに、
oにアクセントをおかずにしゃべって「4(quatre)」だと受け取られ
たことが何度もあります。僕たちにとっては、カトールズとカトル
ズは大差ないのですが、フランス人にとっては、まったく違って聞
こえるのでしょう。これは、言語によって使用する母音や子音の種
類が決まっているからで、乳幼児のときに親兄弟からその音の刺激
を受けるとその母音や子音を発音し、聞き分けることができるよう
になります。
  デジタル通信の定義にある「離散性」、「有限性」、「一次元配
列」のうちの「有限性」に関する部分です。我々の中枢神経回路は
、脳がまだ未成熟な生まれたてのときに、外部の刺激に適応させて
神経のシナプスや信号処理回路を形成・再構成して、離散信号の処
理ができるようになるので、扱えるデジタル音声信号が有限になる
のです。
  国際結婚のように異文化結婚を行うと、父親のもっている離散音
声信号と母親のもっている離散音声信号の両方の刺激を受けるので
、脳の中枢神経回路がバイリンガルな母音や子音セットに対応する
ようになるのです。

4 メロディーやリズムはアナログ
 私がデジタル通信といっているのは、基本的には話し言葉です。
書き言葉や手話も、話し言葉を文字にして表したり、手の形や動き
で表す以上は、デジタルであるといえます。
 歌はどうでしょう。歌のリズムやメロディーは、アナログです。
歌の言葉、歌詞はデジタルです。リズムやメロディーはアナログだ
から、五線譜に書いただけでは伝わりません。歌詞は文字にして表
しても伝わります。
 人間は、デジタル音声符号による言語を獲得しましたが、古い時
代のアナログコミュニケーションも使っています。だから、歌を歌
ったり、音楽を聴いて楽しむのです。相手の顔色や気配に敏感に反
応するのです。
 いまや世界の娯楽としてひろまったカラオケが日本で生まれたの
は、日本人がアナログなコミュニケーションを重視していることの
表れでしょう。


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