3165.戦争」による、アメリカの経済恐慌からの脱出は可能か



「戦争」による、アメリカの経済恐慌からの脱出は可能か
                     2009.1.4 DOMOTO


アメリカが2008年9月から始まった経済恐慌を、最終的解決策として
「戦争」で解決しようとするのではないかという警戒論が流布して
いるが、それは全く不可能であり「幻想」に過ぎないのではないか
というのが私見だ。

その警戒論は、1929年に始まった世界恐慌後の第二次世界大戦
(1939〜1945年)を筆頭としたアメリカの戦争経済の存在から来て
いる。

「アメリカは戦争経済によって経済成長する」という通俗常識は、
軍産複合体の利益とアメリカの国家経済としての利益を混同したが
ためにもたらされる誤謬だ。

また第二次世界大戦の時のような、世界への特需工場としての性格
が高かった当時のアメリカと、現在のアメリカを同列視してこの問
題を考えることは誤りだ。

ミシガン大学の博士課程に在籍する、ポール・ポースト氏の著作 
『戦争の経済学』では、第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦
争では、戦争による経済の活性化がみられるが、その後のベトナム
戦争、湾岸戦争、イラク戦争においては経済効果はなかったと結論
しているそうだ。下記アドレスのページの「第2章 実際の戦争経
済:アメリカの戦争」で、過去の代表的な6つの戦争についての経
済効果の概要と、戦争が経済的に有益に働く場合の5つのポイント
を確認してもらいたい。5つのポイントとは、@戦争前に財源があ
る時、A戦時中に巨額の財政出動が出来る時、B自国が戦場になら
ず、C期間が短く、節度のある資金調達が出来る時、D戦争規模が
ある程度大きい事。

「書評 『戦争の経済学』」
http://otd5.jbbs.livedoor.jp/577859/bbs_plain?base=252&range=1

Wikipediaでは、
「現在の世界の多くの財閥や巨大企業がその繁栄期には戦争特需で
急成長した時期があったように、戦争によって繁栄しうる。しかし
、現代戦は国家財政を大きく消耗させてしまうため長期的な需要と
はなりづらい。逆に戦争終結で投資が無駄になることも多い。軍需
産業にとって最も望ましいのは冷戦のような軍拡競争であるといわ
れる。現在は冷戦終結後の軍縮で兵器市場が縮小し、軍需産業の統
合が進んでいる。」

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%BB%8D%E9%9C%80%E7%94%A3%E6%A5%AD


「兵器産業だけで見ても、2000年の防衛企業上位100社の全体の兵器
売上高は、1,570億米ドルしかなく、この6割はアメリカの43社のも
のである。1980年代半ばの冷戦末期には世界全体の兵器への支出総
額は、2,900億-3,000億米ドルで、2000年代の約2倍であったので、
兵器市場は急激に小さくなったといえる。また例えば米国一国の他
の産業と比べても、2001年のデータでは医薬品市場で2,280億ドル、
自動車市場で6,000億ドル、雑貨で5,420億ドル、生命保険売上で
8,000億ドル強、証券で3,400億ドルであったので、世界の兵器市場
はそれほど大きくはない。」(ポール・ポースト 『戦争の経済学』)

「アメリカは戦争経済によって経済成長する」という通俗常識は、
国際情勢を論じるアナリスト達がアメリカの「軍産複合体」の利益
に注目するところから混同され、実際の過去におけるアメリカの
「国家経済」においては、部分的にしか一致しない。そしてその通
俗常識は、アメリカが1964年にベトナム戦争へ本格介入した時代以
降、否定されてしまう。

勿論国際情勢アナリスト達が言うように、アメリカの「軍産複合体
」は、すべての戦争において莫大な利益を上げてきた。しかしアメ
リカの「国家経済」においてみれば、必ずしも利益を上げてきたと
は言えないのである。

私は、書庫にあるだけの書籍資料を読み直してみたが、ポースト氏
の指摘と符合するようだ。

第一次世界大戦と第二次世界大戦はアメリカも参戦したが、アメリ
カにとっては兵器・物資の特需工場としてのウェイトの方が断然高
かった。

軍需産業に働くアメリカ人は、第二次世界大戦中は総労働力の40
%であった。米ソ冷戦時代の1987年時をみると5.7%であるので、
第二次世界大戦中は総労働力からみて圧倒的に多くのアメリカ人が
、この戦争の恩恵を受けた(数字は広瀬隆著『アメリカの巨大軍事
産業』による)。

ベトナム戦争については、過去において国際情勢アナリスト達がア
メリカ経済への加速度的貢献を強調するが、戦争が行われた期間全
体から見るとポースト氏の指摘通りだ。ベトナム戦争とイラク戦争
は、国家経済にとって戦費が増す「低強度戦争」(LIC=テロ・
ゲリラ戦)であった。

『イラク戦争の経済コスト』 J.スティグリッツ(クリントン政
権大統領経済諮問委員長)
https://reports.us.bk.mufg.jp/portal/binary/com.epicentric.contentmanagement.servlet.ContentDeliveryServlet/Internet/Reports/RD/Public/Production/BTM-WDCINFO%202006-No.004.pdf

1991年1月にアメリカがおこした湾岸戦争は、アメリカのハイテク兵
器の前にイラク軍は弱すぎて3月にイラク軍は敗退。これは「テロ・
ゲリラ戦」と違い、通常戦力主体の戦争であったが、1950年の朝鮮
戦争とは違い「小規模戦争」であったために国家経済としての経済
効果は少なく、翌1992年には失業率は7.3%で景気後退している。

このような過去の実績から見ても、経済恐慌に陥り財政が極めて厳
しいオバマ政権を操る「戦争立案集団」が、戦争による国家経済の
再生を計画立案することは、現在の国際情勢下において不可能だろ
う。

現在進行中のアフガニスタン戦争を考慮したアメリカの戦争プラン
ナーが、自国の経済恐慌を救うためには、大規模な経済効果を上げ
る「大規模戦争」が必要だ。以下に現在おきている国際情勢下での
主な火種を4つ挙げてみた。しかし、これら4つの戦争に関する限
り、今のアメリカを経済浮揚させる戦争になるとは考えられない。

@イラン ―世界中のネットで言われている「中東大戦争」とは漠然
とした概念で、中東が混乱した状況下での欧米の敵はイラン、シリ
アでしかなく、これはイラク戦争以上の「長期的テロ戦争」となる
ため、アメリカにとっては膨大な経済損失となる。

2003年に始まったイラク戦争が示したように、イスラム相手のテロ
戦争は3兆ドルを超える戦費を要した。2008年、アメリカの大手軍
需産業は史上最高益を上げたが、同国の武器輸出総額はこの年340億
ドル。軍産複合産業への波及効果は膨大な3兆ドルには遠く及ばな
いはずだ。

「イスラエルの核施設局所空爆は、イラン過激派を第二のアルカイ
ダ以上にする」(2008年6月)
 http://otd9.jbbs.livedoor.jp/911044/bbs_plain?base=341&range=1

Aロシア ―ロシアのグルジア侵攻は、旧ソ連諸国(CIS)内での
権力支配が目的であったのであり、ベネズエラ、キューバにおける
ロシアの現在の軍事的行動は、アメリカへの威嚇行動に過ぎない。
アメリカが「大規模な経済効果」を上げるためにロシアとの戦争を
計画するのなら、ポースト氏が述べるように「大規模な戦争」が必
要であるが、それは核戦争を前提とした戦略に他ならない。しかし
、米ソ間での極度の核抑止力が働いている環境下での「大規模な戦
争」計画は、空論でしかない(プーチン、メドヴェージェフが狂人
であれば話は別だ)。

Bインド・パキスタン戦争 ―この戦争は核兵器の脅威が指摘される
が、ポースト氏の述べる「小規模戦争」のレベルにとどまり、どの
ような形で介入するにせよ、アメリカの国家経済を浮揚させるよう
な経済効果はないだろう。

C北朝鮮 ―アメリカ国防総省・ブッシュ政権首脳などが考えたよう
に、アメリカと北朝鮮との戦争は、朝鮮半島にとどまらず、1950年
の朝鮮戦争と同じように国境を接する中国を巻き込んだ全面戦争と
なる。それは中国経済に対して甚大な影響をもたらすので、経済的
に中国との深い相互依存関係にあるアメリカが、オバマ政権で北朝
鮮との戦争を起こす可能性はまずない。

DOMOTO

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html




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