3163.次世代の車社会についての雑考



次世代の車社会についての雑考


                                                     日比野

1.車という在庫 

次世代の車社会について考えてみたい。

金融恐慌がどんどん実体経済に悪影響を及ぼし始めている。09年
3月期連結決算で1000億円規模の赤字を計上したトヨタは、国
内外で211万台以上の減産を発表した。

金融恐慌の影響で、車が売れなくなっているのは勿論そうなのだけ
れど、国内に目を転じると、特に若者層において、車に対するニー
ズそのものが変化してる。

朝日大学マーケティング研究所の08年2月の調査によると、首都
圏在住の20歳〜39歳男女で、車を持っている人の約7割は、週
4日以上運転しないという。

その反面、「ちょっとした用事・買い物」の用途・目的で車を使う
頻度が大きく増えているのに対して、「テーマパーク」や「ドライ
ブ」といった非日常のイベント的な用途・目的で車を使う頻度は下
がっていて、『自動車が単なる移動手段としての道具と位置付けら
れ、長距離の移動を楽しく過ごすという意識が以前ほど感じられな
い』と結論付けられている。

特に都会では、電車やバス網が発達しているから、無理して車を持
つ必要まではない。だけど、有れば有るで便利だし、実際ちょっと
した用事には使われているという調査結果がある。また、田舎のよ
うに交通網が十分に整備されていないところであれば、もっと車は
必要とされる。

だから、自動車という存在自体が全く必要なくなるという事はない
。小さな子供が沢山いる家族には大きなワゴンは欲しいだろうし、
病院に行くのにいつも救急車を呼ぶ訳にもいかない。

本来の車の機能を考えた場合、その役目は人を含めた物資の輸送手
段。その輸送「手段」として個人の車のあり方を考えてみると、実
に無駄が多いことに気づく。

普段の個人の生活で、365日、毎日24時間、物資の輸送手段を
必要とする人は少ない。輸送業を生業としている人でも寝ながら運
転はできないし、食事や休息だって必要。

車を単なる移動手段として考えた場合、必要なときに必要なだけあ
ればそれで事足りる。だけど、先の調査結果でも分かるように、週
の半分も運転しない人が大半を占める現状は、移動「手段」として
の車が、普段の生活の中では僅かな時間しか必要とされていないこ
とを示してる。駐車場で寝かされている時間のほうがずっと長い。

これを企業の商品に置き換えて考えてみると、めったに売れない商
品を「在庫」として抱えていることと同じ。駐車場代という名の倉
庫代は嵩むし、持ってるだけで税金も取られてゆく。企業経営的感
覚からみれば、持っているほうがおかしい、レンタルで十分だと考
えるのが普通。

だから、これからの社会は、車を必要とする状況、つまり車が欲し
い時間と場所がより個人の要求に沿ったものになっていって、在庫
は極力持たない方向にシフトしてゆく。

本当にその個人にとって、ピンポイントで必要な時間と場所に車が
欲しい。そんなニーズが広がっていくことは疑いない。
 


2.次世代車の息吹
 
『西那須野駅方面に右折し、20時30分頃に駅前のホテルに到着
してすぐ、リポーター・ボクは石井さんのところに行って、「電池
、どうなってんの?」と聞いていた。
すると石井さん、スイッチをオンにしてメーターを点灯させ、「大
丈夫だよ」とひとこと。
見ると、満充電で80(km)走行可能という目盛りに対し、ハリ
が30を指している。要するに、まだ3分の1程度は残っていると
いうことだ。もちろん走り方にもよるだろうが、ここまで走るとは
驚いた。』

「洞爺湖キャラバンDailyレポート」より


市民団体「日本EVクラブ」は、CO2削減EV洞爺湖キャラバンと
題して、2008年6月に電気自動車で、東京から札幌市の北海道
庁までの858.7kmを7日で走破した。

使われた電気自動車は、富士重工業「スバルR1e」と三菱自動車「i
 MiEV(アイ ミーブ)」の2台。

驚くことに、東京から北海道まで行って、かかった電気代はたった
の1713円。これがガソリン車だと、12956円になるという
からその安さが分かろうというもの。

キャラバンに参加した2台は、途中東京電力さいたま支社で急速充
電を行ったけれど、スバルR1eは約5分、三菱iMiEVは約1
5分の充電で8割くらいまで電気が復活するとレポートされている
。ガソリン補給なんかと比べても全然見劣りしない。また、キャラ
バン中、立ち寄った岩手のコンビニ(ローソン紫波高水寺店)で、普
通にコンセントから補充電もしている。

昔、道路に電線を張って、そこから電気をもらいながら走るトロリ
ーバスというのがあったけれど、電線がないところでは走れないと
いう欠点があって、次第にガソリン車におされて廃れてしまってい
た。

ところが最近のバッテリー技術向上のお陰で、バッテリー走行でも
以前と比較して長距離を走れるようになった。それで、少しづつト
ロリーバスが復活してきているそうだ。

洞爺湖キャラバンで見せつけた電気自動車の性能を考えれば、トロ
リーバスが復活したと言ってもなんら驚くに当たらない。

それにしても、近年の車の技術革新には目覚しいものがある。次世
代型電気自動車、燃料電池車、インホイールモーターなど続々と新
技術が開発されている。

特にインホイールモーターは、車のホイール部分に走る為のモータ
ーを内蔵するから、トランスミッションやドライブシャフトなどの
複雑なメカニズムが要らなくなる上に、各駆動輪の駆動力や制動力
をきめ細かく独立制御できるようになる。

更には、駆動部分がホイール内に収まるので、設計自由度が上がっ
て、ハイブリッド車や燃料電池車のバッテリや燃料電池、水素タン
クの搭載スペースを容易に確保できるという。

また、車の制御についても、新技術が開発されている。今では、車
を無人で走らせることも可能になっていて、既に実用化されている
。新型シーマの上級グレードにオプション設定された、レーンキー
プサポートシステムがそれ。

これは、車のフロントにレーダーを装備して絶えず前方を監視して
、前の車への衝突を防ぎ、ルームミラー上部にあるCCDカメラで
、周囲の白線や車線を判別してハンドルを自動操縦するという技術
。

純粋に性能だけでいえば、手放し運転すら出来るものなのだけど、
道路交通法で手放し運転が認められていないので、あまり表だって
宣伝できないシロモノらしい。実に勿体無い。
 


3.ロボットレンタクシー

朝日大学マーケティング研究所の調査で明らかになった「ちょっと
した用事・買い物」の用途・目的で車を使う頻度が大きく増えてい
るというニーズを考えたとき、車を持っていない人達にとって、そ
れに応えるものがあるとすれば、タクシーとかレンタカーがそれに
あたるだろう。

バスはそのニーズを満たすには物足りない。バスに乗るには、まず
バス停に行かないといけないし、時刻表どうりにしか運航しない。
時間や場所に制約がかかっている。車がない人だって、欲しいのは
そんな制約のない移動手段。

では、タクシーやレンタカー業界がもっと伸びるのかと言われると
それも少し違う。現状では利用コストが高すぎる。

実際問題として「ちょっとした用事・買い物」程度であれば、半径
10Km程度乗れれば十分。

それなのに、初乗り700円とか、6時間レンタルして5000円
とか取られると、気軽には使えない。やっぱり高い。ジュース1本
、ワンコイン100円で10kmくらい走れるお手軽な車であって
ほしい。

洞爺湖キャラバンでの電気自動車は満充電で80km走れて、85
0km以上走破して、電気代は1700円ちょっと。1kmあたり
に換算するとたったの2円。10kmで100円しか取らなくても
全然大丈夫。

たとえば、タクシーのように向こうから自分のところに来てくれる
のだけれど、レンタカーとして使える車。いわば無人ロボットレン
タカーとか作れないだろうか。

アメリカのTORCテクノロジーズ社は、バージニア工科大学で自
動操縦技術の研究開発を進めるグループと提携し、世界初のロボッ
トカー仕様のハイブリッドSUV「Ford Escape Hybrid」の提供を開
始している。

このシステムは緊急非常停止装置「SafeStop」を搭載し、アクセル
、ブレーキ、ハンドル操作の自動化を実現しているという。

アメリカでは、市街地で競い合う無人ロボットカーレース「Urban 
Grand Challenge」も行われており、昨年11月に行われた決勝レー
スに、このロボットカー仕様ハイブリッドSUVも参戦し、見事に3位
に入賞した。

こうした無人ロボット操縦技術やレーンサポートシステム、そして
バッテリー性能が飛躍的に向上している電気自動車を組み合わせれ
ば、コストの安い無人ロボットレンタカーが実現できるはず。

たとえば、こう。

電気自動車に無人ロボット操縦技術およびレーンサポートシステム
を搭載したレンタカー(トロリーレンタクシー)を用意して、普段
は駐車場で満充電して待機。

お客さんから電話があれば、GPSを利用した自動操縦でやってきて、
そこからはお客さん本人が運転。

もちろん、本人確認や免許証の認証、その他、道交法の問題とかい
くつかクリアすべき問題はあるのだけれど、いずれはこういったニ
ーズに応えることができなければ、車離れを止めることは難しいよ
うに思う。

1コイン100円で10Kmくらい走るように設定しておけば、都
会でもそれなりに使われる筈。

ともあれ、自動車の技術革新を怠らず、また社会のニーズをしっか
りと掴むことができた自動車メーカーが、これから生き残ってゆく
ことになるだろう。



4.ローソンレンタカー
 
ローソンが店舗巡回用の営業車の一割を電気自動車にするという。
充電設備も併設するというから、電気自動車の普及に一役買うこと
になりそうだ。

無人ロボットレンタカーを実用化するのにハードルが高いというな
ら、ローソンがレンタカー事業に乗り出すという手はあるかもしれ
ない。

日本のレンタカー屋の店舗数はそこそこあるとはいえ、コンビニの
それとは比較にならない。国内最大の店舗数を誇るトヨタレンタカ
ーでも全国で約1100店舗、日産レンタカーは370店舗、三菱
に至ってはわずか23店舗。それに引き換え、ローソンの店舗数は
2008年8月現在で、全国8614店、内、関東7県で2324
店舗ある。首都圏に絞って、ローソン一店舗に1台電気自動車のレ
ンタカーを置いておくだけでも全然違う。

ローソンくらい店舗数があれば、乗り捨てしてもそれなりの利便性
はあるだろう。全国のコンビニでレンタカー事業に乗り出せばもっ
と利便性は高まる。

全国に店舗を広く展開しているという利便性を最大限に生かすとこ
ろにも次代ビジネスの息吹が隠されている。

(了)

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