3144.ペシミズム3 - 加藤周一の思い出



ペシミズム3 - 加藤周一の思い出


 加藤周一の思い出といえば、1979年だったか、アジア太平洋資料
センターが、季刊「世界から」の創刊記念シンポジウム「第三世界
の未来とわれわれ」(だったかな?)を開催したときに、パネラー
の一人であった加藤周一の話を直に聞いたことがある。

 当時、武藤一羊や北沢洋子ら新左翼の中でも第三世界派の論客た
ちが考えていたこと(それは「世界から」のモチーフであったこと
でもあるが)は、先進国がこのまま第三世界からの略奪を続けると
逆襲を受けるぞということであった。

 これに対して、加藤周一は、先進国が第三世界の民衆と理解しあ
って、ともに生きていくという選択をするのはオプティミズムであ
り、現実に起こりえる選択肢としては他にペシミズム1とペシミズ
ム2があると、自身の世界動向のパースペクティブを示したのだっ
た。

 ペシミズム1とは、第三世界の逆襲によって先進国が没落するこ
とであり、ペシミズム2とは、先進国による略奪が続き第三世界は
ますます疲弊していくというものだった。

 私はこのクールな状況の整理のしかたに、さすが加藤周一だとう
なった記憶がある。

 だが、約30年たって思うのは、人類文明がたどったのは、ペシミ
ズム1とも2とも異なる、ペシミズム3とでも呼ぶべき現象ではな
いだろうか。

 結局のところ、先進国と第三世界の対立の構図は表面的なものに
すぎなかったということである。我々は人類として、先進国も第三
世界も、互いに手を携えて、より豊かな生活を求めて自然からの略
奪を極限まで続け、その結果、地球規模環境破壊が行き着くところ
までいってしまい、いよいよ略奪すべき自然が消失して、人類文明
が丸ごと崩壊のフェーズを迎えているのだ。

 奇しくも今年はT型フォードが生まれて100年になるが、サブプラ
イム危機と自動車産業の業績不振は、個人消費者にローンを負わせ
て、耐久消費財を売ることによって回転させつづけた20世紀型資本
主義が、もうたちゆかなくなったということである。貪欲に拡大し
続けてきた資本主義の生産力は、自由に略奪できる外部経済を失っ
たために同時に市場も失って、内部からものすごい勢いで腐り始め
た。

 加藤周一はこのような時代を生きるための指針をどこかに書き残
していないだろうか。もしどなたかその言葉を見つけたら、ぜひと
も教えていただきたいものである。

十返舎玉九


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