3122.適応力について考える



適応力について考える

                           日比野 
1.適者生存 

「私は超1流にはなれないが、自分の弱点理解してアジャストメン
ト(適応)すれば1流の選手にはなれる。」

1997年から、2006年まで、メジャーリーガーとして活躍し
た、長谷川滋利氏の言葉。

適者は生き残る。

長谷川氏はメジャーに渡った1年目のキャンプの試合で登板して、
内心「こら、あかんな」と思ったそうだ。調整が始まったばかりの
段階でマイナークラスの選手に良い当たりをされて、シーズンが始
まったらボコボコにされるかもしれないと不安になったという。

そこで長谷川氏は、練習の始まる前の「球拾い」の時間に、皆が嫌
がる拾ったボールをバケツに集める役を引き受けて、その間に対策
を考えたという。なんでもボールをバケツに集める役はネット裏で
ボールに当たる心配もないから、考えるには本当に好都合だったと
述懐している。

そこで、投球に緩急をつけるという結論を得て、メジャー初登板と
なる対インディアンズ戦でカーブを多投することで実践し、強力イ
ンディアンズ打線を一回り目まで抑えた。

そして、長谷川氏はさらにメンタルトレーニングの技術を習得する
ことで安定した投球を心掛けると共に、キャンプから取り組んでい
たウェイトトレーニングが効をそうして、球速がアップした。

そのお陰で投球に幅ができて、セットアッパーとしてメジャーリー
グに適応していった。

「強い者が生き残ったわけではない。賢い者が生き残ったわけでも
ない。変化に対応した者が生き残ったのだ」―― 

有名なダーウィンの言葉とされる一説。これは、後の創作だと指摘
されているけれど、言っている内容がそのとおりだと思われたので
、ダーウィンの言葉として、広く知られることになったのだろう。

 

2.国家におけるアジャストメント
 
『アジャストメントを噛み砕いて考えていくと、3つの段階に分け
られる。まず最初に必要なことは、「自分の欠点が分かる」ことだ
。次に大切なことは、自分の欠点を克服するための対策、つまり「
自分への処方箋を書くことができるか」、ということになってくる
。そして最後に、アジャストメントを完成する上で必要なのは、こ
れがいちばんしんどいことなのだが、対策を実行することである。
「自分で書いた処方箋を、自分の力で実行する」。それがアジャス
トメントが完成する、適者が生存する瞬間である。』

長谷川滋利 「適者生存」より抜粋


確かに変化に対応できるというのは大切なこと。これは、国単位で
みても同じ。

たとえば、国土に資源が豊富にあって、それらを採取するだけで富
を得るような国があったとしても、いつまでもその資源に頼ってい
て、環境の変化を読み取り、適応していくことができなければ、や
がて没落してゆく。持って生まれた才能だけで未来永劫勝ち続ける
ことは難しい。

仮に、エネルギーで考えてみると、産油国は、わざわざ原子力や太
陽光といった代替エネルギーを研究開発しなくても、石油があると
いう「才能」だけで生きてゆける。だけど、その価値に頼り切って
、その「才能」にすべてを委ねるような国家を作ってしまったとし
たら、イザその「才能」が役に立たなくなる環境が訪れたら、途端
に没落してしまうことになる。

変化に対応して、アジャストするためには、長谷川氏の言うように
まず、自分の欠点が分からないといけない。そして対策を考えて、
自分で実践できないといけない。

その時大切になるのは、今まで自分の強みであったものを捨てて、
新しい環境で求められるものに向って行ける勇気。

そしてできれば、そうした時代の変化に柔軟に対応できるだけの社
会的な底力を前もって養っておくこと。

変化ということは、時代時代で求められるものが異なってくるとい
うこと。それらに柔軟に対応できる底力とは何かといえば、下記4
点になるのではないかと思う。

1.次の時代に求められるものを予測できる。(先見力)=「自分
  の欠点が分かる」
2.その予測に基づいて行うべき対策が立てられる。 (対応力)
  =「自分への処方箋を書くことができる」  
3.成功の元になっていた自分の強みに拘らず、その対策を実践で
  きる。(無執着・実行力)=「自分で書いた処方箋を、自分の
  力で実行する」
4.今は殆ど役に立たなくても、自由に研究開発できる環境があり
  、かつそれを次の新しい時代を切り開くかもしれないとして許
  容する社会的余裕    (無用の用)

今現在の利益や効率だけを求めて、マージンをギリギリまで削って
いって、社会的余裕を無くして現在の環境だけに完璧にフィットさ
せすぎると、急激な変化についていけなくなる。
 


3.変化への対応からみた自由経済と計画経済
 
変化に柔軟に対応できるものの最たるものは人間。人間は野生動物
ほど、生物個体として強くはないから、逆にそれを補うものとして
、様々な道具や発明をしていった。

熊のような毛皮がないからこそ、衣服を作って寒さを凌ぎ、ライオ
ンの様に生身で狩りをする力がないからこそ、槍や鉄砲を作ってい
った。

どれもこれも変化に対応できる力の源は人。人のあり方とその人の
住む社会がどうあるかでその適応能力が変わってくる。

先にあげた、国家としての適用能力の4つの条件(先見力、対応力
、実行力、無用の用)を自由経済と計画経済でその有利不利を整理
すると以下のようにならないだろうか。


       自由経済  計画経済
1.先見力   ○     △
2.対応力   ○     △
3.実行力   ○     ◎
4.無用の用  ○     ×


自由経済社会では、競争があって、常に新しい飯のタネを探すこと
が行われている。いつも先見力と対応力、そして実行力が求められ
る社会になる。必然的にそうしたものに対応できる企業だけ生き残
ることになる。また、経済が上向いて、社会的な余裕があれば、無
用の用となる部分にも研究開発費をかけることができる。

それに対して、計画経済になると、一部の特権階級がほとんどすべ
ての政策を決めてしまうから、その政策を立てる特権階級・官僚の
能力の限界がそのままその社会の限界になる。政策を立てる担当の
官僚が素晴らしく、先見性に富み、対応力も実行力にも優れた人物
であれば、それなりにうまくやれるのだけれど、そんな天才はいつ
もいるわけじゃない。その代り、一度政策が決まれば、政府による
強権で一気に事が実行されるから、実効力は物凄く高い。

日本は資源がなかったから、伝統的に教育を充実させて、人への投
資は物凄くやっていた。

輸入思想が基だとはいえ、常にそれらを改良し続け、それが故に変
化への対応を可能にした。資源がないことを逆手にとって、無形の
ものに、人に資本を投入していった。

もし石油に代わるエネルギーが開発されて、石油が不要になる時代
がきたとしたら、産油国は今ほど重宝されることはなくなるだろう
。

最大の強みはやはり人。オールマイティな価値を生む人の才能をど
れだけ救いあげ、開花させることができるか。次の時代の光は人の
中にある。
 
(了)



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