3086.日本の食について考える



日本の食について考える


                           日比野

1.食の現実を知る
 
「だいたい自給率といっても、様々な自給率があって、穀物ベース
であったり、カロリーベースであったり、価格ベースであったり、
重量ベースであったり、いろいろなことがあるわけで、まず認識と
いうものを一(いつ)にするということが必要なのでしょう、という
ふうに思っております。」

10月10日に行われた、農水省で行われた石破大臣記者会見で、
フードアクションの国民運動についての質問に対するコメント。

石破大臣は就任以来、報道こそあまりされていないものの、食を防
衛するという観点から着実な手を打っているように見える。

事故米不正転売問題では、さっそく対策本部を設置して、流通や表
示改革など幹部に見直し指示を出し、コメ流通のトレーサビリティ
の検討を開始している。

以前、農水省が輸入停止時の献立をシミュレーションしたことがあ
ったけれど、輸入が全く止まったとしても、どうやら、ご飯と芋だ
けは食べられるようだ。

このシミュレーションはカロリーベースで自給率を目標値(当時4
5%、現在は50%)にした場合であって、自給率の定義が変われ
ば、無論この定義も変わる。

農水省の調査によると日本人の平均摂取カロリーは、昭和40年代
からだいたい2500Kcal程度で推移していて、ほとんど変化
がない。

そもそもカロリーベースでの自給率といっても、この2500Kc
alというのが果たして日本人にとって適正なのかどうかという疑
問もある。

食糧安保を考えるときに、生命維持に最低限必要なエネルギーや栄
養素は何であってから始まって、何があるべきで、何が何の代替に
なってとか、そういった議論の土台からしっかりと考えてゆくべき
なのだろうと思う。

石破大臣は防衛庁長官時代の実績もさることながら、その持ち味は
その「正直さ」にある。現実を正直に見せ、その上で何をすればい
いかを提示するやり方。

たとえ辛くてもまず現実を知ること。そうして初めて次なる突破口
が見えてくる。
 


2.マージンを削る社会

先ごろ、農林水産省などで、加工食品の原材料が賞味期限切れであ
っても、安全性を確認できれば原材料に使っても問題ないとするガ
イドラインの改正を行うことを決めた。

食品の期限には「消費期限」と「賞味期限」があるけれど、前者は
これこれまでに食べないと安全でなくなる期限。後者は美味しく食
べられる期限で、その性質は異なる。「賞味期限」が切れても食べ
られないことはない。美味しい美味しくないは別として。

以前、2857.食品偽装問題についてのコラムで、賞味期限を緩
和して、グレード分をして販売したらどうか、と言ったことがある
けれど、今回のガイドラインの改正は、実質、賞味期限の緩和。

平成17年の兵庫県でのアンケート調査では、賞味期限が過ぎたら
捨てると回答した人が過半数を超えた結果が出ている。だから、適
正な賞味期限を設定することは、少なくとも無駄を省いて食糧の利
用効率を上げることになるし、食糧自給率の改善にも繋がる。

デフレ社会になってから久しいけれど、食料品やなにかでもコスト
ダウンを追求されて、いろんなところがケチられるようになってき
た。竹輪の穴が大きくなったり、スナック菓子の中身が少し減って
みたり。こんどは賞味期限にまでメスが入った。

いままで安全のために取っておいたマージンをどんどん削っていっ
て、ギリギリの妥協点を探していくようになってきた。

もったいない社会が再来しようとしている。次にくるのは、どうし
ても捨てなくちゃならないものをどうにかして生かすやり方。たと
えば生ゴミを各家庭でコンポストして堆肥にするとか。それを買い
取る業者も現れてもおかしくない。

江戸時代では、紙くず拾いや傘の古骨買い、湯屋の木拾いから、生
ゴミ回収、肥え汲み、灰買いとありとあらゆるものをリサイクルし
ていた。

ちり紙交換屋も古新聞・古雑誌を集めるだけじゃなくて、コンポス
ト堆肥を集めてみるというのはどうだろう。
 


3.農産物の開発費用 

日本産農産物が海外で人気を博している。その背景には美味しいと
いうことは勿論、安全であるという評判も定着していることが人気
の秘密という。

もっとも、日本産だから100%安全だとは必ずしも言えないのだ
けれど、これまでの工業製品をはじめとする日本製品の高品質・高
信頼性が、その評判に一役買っている面もあるのだろう。

国内農産物が海外にどんどん輸出される時代。ここで仮に農産物を
「戦略兵器」として捉えてみて、その兵器の性能を「質」と「量」
の両面に着目して考えてみるとその構成要素は次のようになると思
う。

A)食料品の質的要素
・味(美味しさ)
・安全性
・生産可能域(品種改良)

B)食料品の量的要素
・生産量(輸出可能量)
・供給可能量(供給インフラ)
・値段(生産コスト)

こうしてみると、日本の食料品の強みはやはり質的要素に非常に優
れている点。食料品単体の性能でみれば、おそらく他の追随を許さ
ないくらいあるだろう。

それも日本の消費者の目が高く、常により良いもの、美味しいもの
を求めるが故に、つぎつぎと品種改良を重ねた結果。日本産の農産
物があまりにも美味しいものだから、台湾、中国で日本産と銘打っ
た偽ブランドが出回っているし、韓国で栽培されるイチゴの85%は
日本の品種だという。

そんな超々高性能兵器である日本産農産物であるのに、その量的要
素、すなわち兵器の運用がどうなっているかを見ると、がくんと見
劣りすることは否めない。

食料自給率の低さに指摘されるように、国内生産量は少ないし、生
産コストも外国品に比べて割高。高品質で性能単体では圧倒的な性
能を誇る米であっても、生産農家への補助金がないとやっていけな
い。

唯一充実していると思われていた、生産者から消費者への供給イン
フラも、昨今の汚染米問題に見られるように、欠陥があることが分
かってきた。

もはや農産物というものは、とんでもない開発費を必要とする高度
な戦略兵器であって、その質を確保し、兵器の供給・兵站を維持す
る為にはそれなりの費用がかかるという認識に立たないといけない
のではないか。

世界最強の戦闘機とされるF22ラプターの開発費と製造コストを
合計すると一機あたり400億円にもなるという。

ラプター並とはいわないけれど、農産物を戦略兵器という観点でみ
ることができれば、その技術開発や生産能力の維持に多額の国家予
算を投入しても不思議でないように思えてくる。

軍事オタクの石破農水大臣の手腕に期待したい。

(了)


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