3052.デンマーク サムソ島の自然エネルギー自活と課題



デンマーク サムソ島の自然エネルギー自活と課題
                 平成20年(2008)9月17日(水)
               「地球に謙虚に運動」代表 仲津 英治

 サムソ島!初めて聞いた島です。どこにあるのでしょうか。自然エネル
ギー100%自活の島として世界中から注目を浴びています。

去る平成20年(2008)7月28日、神戸の六甲アイランドで、(株)神戸
まちづくりが主催する自然エネルギーのセミナーがあり、デンマークの
サムソ島環境エネルギー事務所所長ゾーレン・ヘアマンセン氏の講演を
聴くことができました。同氏によれば、同島は自然エネルギーにより、
暖房と電気エネルギーの100%自給自足を実現できているとのことです。
ゾーレン・ヘアマンセン氏の講演は、ユーモアたっぷりの判り易い英語
レクチュアーでした。以下に概要を紹介しましょう。

1.	サムソ島の概要と自然エネルギープロジェクト
 サムソ島は、面積114平方キロ、人口4300人の島です。山らしい山のな
い島です。2007年に電力自活が実現するまで、サムソ島はユトレヒト半島
のデンマーク本土から電力供給を受けていました。

1970年代のオイルショックを契機に、デンマークで原子力をめぐって論
争が起き、その後省エネと風力発電などの自然エネルギーにより化石燃
料を減らす政策が取られ各地に環境エネルギー事務所が設置されました。
サムソ島事務所にはゾーレン・ヘアマンセン氏が初代所長として着任、
自然エネルギー100%供給プロジェクトが10カ年計画で1998年始まりまし
た。エネルギー自活の初の国家プロジェクトです。

この計画の基礎になったのが、ドイツ同様政府による立法に基づいた電
力の固定価格買い取り制度です。これにより民間投資を引き出すことが
できたのです。

 2007年島で使う電気は島内(陸上)の風力発電で賄えるようになりまし
た。1メガワット(1000キロワット) の11基の陸上風力発電装置
によります。陸上の風車のうち、2基は協同組合によるもの、9基は各農家
が個人所有しています。そして所有者の売電収入の一部は、島のエネルギ
ー開発のために充てられています。さらに海上には洋上風力タービンは10
基で夫々2メガワットの出力があります。これらの風車は地域のコープ
(生活共同組合、島民出資)、自治体、サムソの小さな企業が所有し、デン
マーク本土に売電し、収益を得ています。完全に炭酸ガスフリーの島になっ
たと言えましょう。

所要投資
 このプロジェクトに大きな投資がなされています。10年間で合計
5,500万ユーロ、約88億円(1ユーロ=160円で換算)が投資されました。
そのうちの4,700万ユーロ、約75億円は地域の家庭、企業、自治体およ
びエネルギー関連会社が出資し、800万ユーロ約13億円はデンマーク政府
あるいはEUの予算から出ています。サムソ島民の数は4,300人であるこ
とから、島民1人当たりの出資額は相当大きいですが、電気の固定価格
買取制度が投資を引き出したのです。日本にも期待したい制度です。

またサムソ島はかなりの寒冷地だが暖房用エネルギーの75%を自然エネル
ギーでまかなうことができるようになりました。ウッドチップや藁を使
うバイオマス暖房もありその価格は石油と比べると1割程度。太陽熱も
使う地域暖房のシステムをつくりこれで暖房熱の25%をまかなうよう
になりました。離島に持続可能な社会への大きな前進がなされたことに
なります。

2.	課題=電気の質 安定電源
 私は、自然エネルギー推進の立場ですが、風力&太陽光発電の場合、電
気の安定性を如何に確保するかが、重要な課題であると認識しています。
ここでいう電気の安定性とは、供給の安定性と電気の質つまり電圧と周波
数です。我々の家庭で使っている電気は電圧が100ボルト、周波数は西日本
では60Hzが、高精度に維持されています。日本の電力会社の素晴らしい実力を示す
もので、世界一高品質でしょう。高品質の製品を生産できる工場の原点に高レベルの
電気があり、家庭電化製品なども長持ちします。

 風車は、風がないと回りませんし、あまり強風だと危険なので回転を止めます。太
陽光発電装置は夜間、雨の日は出力ゼロです。特に風車は羽根の回転から発電します
から、常に回転ムラがあり、電圧、周波数が変動してしまいます。電圧と周波数が変
動する電気をそのまま使いますと電気機器は不良動作を起こし、寿命も縮めてしまい
ます。

その点、太陽光発電装置は直流電気を作って、そこから100ボルトの交流に変換し
ています。まず電圧一定の直流から交流に変換するので、電圧などは安定している
ようです。我が家でもソーラー発電電気はまず自家消費して余った電気を関西電力
に売電しており、安定電源が必要なパソコンなども問題なく稼動しています。

 私はヘアマンセン所長にこの電気の質を如何に確保しているのか質問し
ました。通訳などを交え、概略判り得た答えは次のようなものでした。
■	サムソ島内で発電した電気は全て、デンマーク本土に送られる。そ
して本土から安定電気が送られてくる。
■	デンマーク本土では、火力などを使った発電所が安定電気を発電し
ており、それらによって、また隣国のドイツ、スエーデン(原発も稼動
中)などとも電気の系統連係を行なっており、さらに欧州全体が巨大な
電力ネットワークを構成しており、電気の質もそれらによって維持され
ている。

ここで、私は、自然エネルギー100%の自給自足ではなく、自活だなと
思いました。そこで表題もそのように致しました。サムソ島内で発電
された電気は島内消費されていないのです。また自然エネルギー発電
が数%の段階なら良いが、これらは数割も占めるようになると電気の
質の確保には一定のシステムが要るなと思った次第です。

ここで私の元鉄道技師としての理解から風力発電の安定電源化について
述べたいと思います。電気鉄道の架線電圧はよく変動しているのですが、
車上で安定電源を作り出しています。

3.	新幹線電車の電源
東海道・山陽新幹線を疾走している電車の駆動電源は、架線を流れている単相交流
=標準電圧25,000Volt 周波数60Hzの電気です。私は新幹線の運転経験があり、
列車の加減速により実にその電圧はよく変動していることを知っています。25KV
を中心に軽く上下1割は変動しているでしょう。

そこで新型の電車では上記単相交流をコンバーターを使って一旦直流に変換し、そ
の直流電源をインバーターを通して三相交流電源に再変換して三相交流モーターで
駆動しています。駆動モーターは、VVVF技術(Variable Voltage & Variable 
Frequency)が適用され、出力は電圧の変化で制御し、列車速度は周波数によりモー
ターの回転数を変化させる方式で制御しています。この駆動電源は、架線電圧の影響
を受け、多少電圧変動を起こしていますが、モーターの場合、問題はありません。

 しかし、制御装置や、列車保安の確保に欠かせないATC装置(Automatic Train
 Control Device=列車自動制御装置)は、安定電源が欠かせません。ここで言う安定
電源とは、電圧と周波数が安定している電源のことです。特にATCは、安全確保に絶
対欠かせない保安装置であり、その機能は安定電源によってのみ確保されます。

そうして制御電源は車上静止型整流装置を経由して低圧の直流電気を作りだし、それ
をバッテリーに充電します。そしてバッテリーからインバーターを使って電圧100
Volt 、周波数60Hz の安定した単相交流を作り出し、ATC電源、車内制御電源として
供給するのです。

電気の流れを川の流れに例えると解り易いでしょう。雨量によって変動する川の水量
は安定しません。そこでダムを作って水を貯め、その下にもう一つダムを作って上の
ダムから流れ込む水量を制御して下のダムの水位を一定に保つことができれば、その
下流では安定した川の流れを作り出すことができます。下のダムが新幹線電車のバッ
テリーに相当します。

 4.風力発電電気の安定化
風車を大規模に導入した場合、変動は大幅に緩和され、系統側の負担が小さくなり
ます。実際デンマーク、ドイツ北部、スペインなどにおいて、信頼性を犠牲にせず
に電力供給量の20-40%を風力で賄えることが実証されているそうで、今年3月22日、
スペインでは40.8%もの電気を風力で賄ったとの実績が報告されています。欧州の
風の吹き方は日本より定常的のようですね。それでも系統容量に占める風力発電の
割合が大きい場合は、ある程度の蓄電設備を加えることが必要となりましょう。日
本では風力割合が1割以下なら、火力発電で安定化微調整を図っていると電力会社
の方から伺いました。

しかし、大きな電力ネットワークでカバーする方式は、これから要求されるマイクロ
エネルギーの考えに反します。電気は遠くへ送るほど送電ロスが生じ、熱となって空
気中に逃げるからです。EU域内では国を超えた系統間連係ができていますが、日本
の場合、海を超えて韓国、中国と同様のことを行なえるでしょうか。太陽光発電はそ
の点、自家消費の割合が高くできます。

となれば、個々の風車や風車群単位で出力を安定化する必要があります。
インターネットのWikipediaに下記のような対策が有効であるとの情報がありました。

・大型のブレード自体の慣性力を利用する。風の強い時に回転数を動的に上げて運動エ
ネルギーを蓄え、風が弱くなった時に利用することで、発電機の出力を平滑化する。 
・一部の風車を調整力としてリザーブし、適宜解列(解放、接続)などを行うことで風
車群全体の出力を平滑化する。 
・電力を一時的に蓄電池に貯蔵する。 
・系統連系部(インバータなど)に力率の調整能力を付与する。 
・フライホイールによる慣性回転や油圧・ガス圧・空気圧(圧縮空気)による蓄圧によ
ってエネルギーを貯蔵する。 
・	局地的な気象解析を行い、リアルタイムで発電量を予測する。

サムソ島では、上記のような対策は取られているか不明です。私は電力供給をある
程度地域限定にするには、このような対策が必要ではないかと考えます。特に精密
機械、設備を使うところでは絶対必要ではないかと思います。
皆様方の御意見をお聞かせ頂ければ、幸甚です。
長文にお付き合い有難うございました。

参考資料
桐生広人 2008/08/04 JanJanニュース
NPO法人 環境エネルギー政策研究所HPへ投稿 ゾーレン・ヘアマンセン
     )
                             以上
「地球に謙虚に」運動代表
 仲津 英治


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