2979.ライスの北朝鮮政策と米DIAの北朝鮮攪乱工作



ライスの北朝鮮政策と米DIAの北朝鮮攪乱工作

―米DIA主導の北朝鮮攪乱工作は、ライス主導の「米朝国交正常
                                          化」と連動するか―

                              2008.6.30
                                DOMOTO

アメリカ政府による北朝鮮のテロ支援国家指定解除については、
「Yahoo! News」でピック・アップされる米英のニュース記事などを
見ても、極東アジアへの関心が比較的低いせいか、コラムニスト達
の記事は通り一遍なものが多かった。

以下の私の記事は、2007年〜2008年5月にかけて『SAPIO』で掲載さ
れた、李英和氏と恵谷治氏の記事をもとにしている。

     「作戦計画5030」(攪乱工作作戦)
ジャーナリストであり、現在は早稲田大学アジア研究所の客員教授
として籍を置く恵谷治氏によれば、アメリカ国防情報局DIAを主
体とする「作戦計画5030」(攪乱工作作戦)が、今年2月に発足
した韓国の李明博政権下で動き出しているという。
(『SAPIO』2008年5月28日号)

北朝鮮の核開発を阻止し、北朝鮮政権を倒すための「作戦計画」は
、1990年代初めに立案された核施設限定空爆作戦、「作戦計画 
5026」が最初だ。

それに続く「作戦計画5027」は、北朝鮮の南侵で戦争が勃発し
た場合に、南北朝鮮半島を米韓連合軍が武力統一する作戦だ。

1999年に策定された「作戦計画5029」は、北朝鮮政権がクーデ
ター・叛乱軍、大量難民・大自然災害発生などで不安定化・崩壊化
し、統制力の喪失が生じた場合、米韓連合軍が軍事介入する作戦。

「5026」「5027」「5029」は、現在でも状況次第で米
韓連合軍にとって、その選択と各軍事オプションの組み合せが可能
なのだが、「5026」や「5027」を行使した場合、朝鮮半島
全体での全面戦争が必至となり、大量難民の流入で中国・北朝鮮国
境が大混乱し、中国の人民解放軍が北朝鮮侵攻に動くといわれる。

恵谷氏は「5027」を机上の空論になりつつあると述べているが
、ワシントンのアナリスト日高義樹氏も2007年2月に出版した著作で
、アメリカ軍首脳・米国防総省幹部が、北朝鮮との戦争による朝鮮
半島での全面戦争には対応ができない考えである事を述べている。

また、南北融和を志向した金大中、盧武鉉政権の過去の10年に及
ぶ親北政権下では、「5026」と「5027」は現実的なもので
はなく、「作戦計画5029」においてでさえ金大中、盧武鉉とも
に米韓協議を中断するなどして拒否している。

今年2月に発足した李明博政権下(ハンナラ党)で動き出していると
いう「作戦計画5030」は、イラク戦争でフセイン政権が倒され
た直後に当たる2003年半ばに策定された。

「作戦計画5030」(攪乱工作作戦)は、北朝鮮国内と政権の内
部攪乱を目的とした作戦で、
「北朝鮮の限定された軍事資源を消耗させ、金正日に対する軍事ク
ーデターを引き起こす事態を積極的に醸成させるものである。食糧
、水、及びその他の備蓄資材を枯渇させる事を目的に軍事演習を実
施したり、頻繁な偵察飛行を繰り返し、スクランブルにより貴重な
航空燃料を枯渇させる。また、資金源を壊滅させ外貨流入を阻止し
たり、戦略的な偽情報により内部混乱を助長させるなど、戦闘では
なく謀略(工作)によって、北朝鮮の崩壊を狙うものである。」
(『SAPIO』2005年7月13日号)

この謀略工作「5030」はCIAが担当せず、謀略工作を軍事オペレ
ーションとして組み込み、DIAが主体となって軍が実施するとこ
ろが特長だという。

前述の恵谷氏は、2005年に来日したというDIA関係者の話として
、米軍の攪乱工作である「作戦計画5030」が既に2005年の時点
で始動していると述べている(同誌2005年8月24日・9月7日号)

(但し、「2005年に来日したというDIA関係者の話」の存在につ
いては、私自身真偽の判断をしかねる。)

     「党・政・軍」の改革派への世代交代 
『SAPIO』2008年4月9日号、5月28号の李英和氏の記事では、現在北
朝鮮の権力中枢内部で大規模な地殻変動が起きているという。以下
は、李英和氏の記事の要約である。

李英和氏は、関西大学教授の職のほかに非政府組織「RENK」
(「救え!北朝鮮の民衆 / 緊急行動ネットワーク」)の代表を務め
、北朝鮮に関する独自の情報ソースを持っているようだ。李英和氏
は、2005年より北朝鮮から指名手配を受けている。

金正日政権を支える労働党・内閣・人民軍の高級幹部は、先代の金
日成が寵愛した忠臣を引き継いだものであり、高齢化が極端に進ん
でいる。韓国の『東亜日報』(2008年3月12日付)は、「2007年末に
、党・政・軍の幹部の30%の人材と機構の縮小を金正日総書記が命
じた」と報道したというが、幹部の世代交代だけでなく、大幅な人
員削減と関連部署の統廃合=縮小という「行政改革」が、今年9月
の創建記念日に向けて予定されている。

2007年後半から始まった、経済再建=経済改革開放の路線闘争をめ
ぐっての党・政・軍での世代交代による地殻変動は、次第に強さを
増している。

北朝鮮は2004年頃から欧米諸国に数百人単位の研修生を送り込んで
きたが、既にこの若手の「留学派」を中核にして実務官僚の世代交
代が進む。今年に入り、改革派が守旧派に活発な攻勢を仕掛けてい
る。

先の『東亜日報』の記事では、「先軍政治に大手術」と銘打ち、
それについて「軍から削減実施」「軍部の権限を縮小」「警察組織
の地位を高める措置」と解説する。注目すべき重要な点は、軍部の
人員削減実施が他の部署から強制されたものでなく、(世代交代組
による)軍自身の幹部・官僚が策定しているという事だ。

李英和氏は、2007年後半からの約1年に及ぶ、これらの北朝鮮の権
力中枢内部での大規模な地殻変動を、当然アメリカと韓国、中国の
情報機関は注視しており、金正日の権力基盤の強弱を測っていると
の内容を述べている。彼は、北朝鮮の核開発問題と金正日体制の存
続問題の「真の重大な岐路」は、改革派と守旧派の権力闘争にある
と言っている。

     ライスの北朝鮮政策
さて、アメリカ政府による北朝鮮の「テロ支援国家指定解除」は、
6カ国協議でも文書に盛り込まれた「米朝国交正常化」を実現させ
るために、アメリカ側として必要な措置だ。

CIAの政権転覆工作が、対象国の改革派を操作するのは定石だが
、米朝国交正常化で政治・経済分野での人的交流が行われるように
なれば、米DIA主導の「作戦計画5030」によって、北朝鮮の
改革派を操作、懐柔し、金正日体制を転覆する速度は加速されるの
ではないか。

但し、このシナリオでは、核兵器を保有する北朝鮮改革派によるア
メリカの傀儡政権が誕生する結果となる。国際情勢アナリストの落
合信彦氏は、『SAPIO』2007年10月10日号で、アメリカは、核兵器を
持つ北朝鮮を対中国戦略の戦略拠点にしようとしていると述べてい
るが、落合氏は北朝鮮の現体制の存続を前提として論じている。

今後のアメリカ政権が、北朝鮮の金正日政権を転覆させた後、北朝
鮮を改革派による『民主主義化』へ誘導した場合、隣国の中国にと
って重大な脅威となるのは間違いない。しかも、その北朝鮮は、
アメリカの傀儡政権である核兵器保有国だ。

アメリカ政府による北朝鮮の「テロ支援国家指定解除」をめぐって
は、クリントン政権時と同じ過ちをおかし、また騙されているとい
う見方が圧倒的に多い。しかし、もともとネオコンであり、知能レ
ベルでは標準範囲を卓越しているという風評の、コンドリーザ・ラ
イスが主導する北朝鮮政策が、中学生レベルの思考回路で動いてい
るとは考えられない。

更に、核兵器開発はさておき、「核テロ」を引き起こす恐れのある
、核物質(プルトニウム、濃縮ウラン)と核関連技術の拡散問題を
持ち、イラン、シリアなどとのネットワークを持つ北朝鮮に対して
、余りにもいい加減な外交政策を、国防総省をはじめとするアメリ
カ政府自体が容認しているとは考えにくい。

「米国内で核テロ攻撃が起きるのは『時間の問』」 (2007年8月)
 http://otd9.jbbs.livedoor.jp/911044/bbs_plain?base=277&range=1

残り任期少ないブッシュ政権は、何か一つでも成果を歴史に残した
いがために、北朝鮮と妥協しているという見方とともに、NSS2006
(2006年国家安全保障戦略)では、アメリカの極東アジア戦略は形
骸化しているという見方もある。

「ブッシュ政権の北朝鮮との妥協政策に見る、極東アジア戦略の形
骸化」 (2007年6月)
http://otd9.jbbs.livedoor.jp/911044/bbs_plain?base=273&range=1

諜報機関DIAが、大きく北朝鮮に関与しているとすれば、現実の
水面下で進行している事実は一切報道されないはずだ。

DOMOTO
http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html




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