2917.風力発電とバードストライク



風力発電とバードストライク
                平成20年(2008)4月20日(日)
                      「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治                      
                            (財)日本野鳥の会会員
 最近、(財)日本野鳥の会京都支部&滋賀支部の友人、今井健二さんより、
私宛風力発電とバードストライクに関する問題提起もしくはご質問がありまし
た。 
 地球温暖化など地球環境問題に取組む中で、私は再生可能エネルギーの推進に関わって
います。また同時に昭和55年頃(1980)ころから、日本野鳥の会の会員であり、野鳥など
自然動物が人間の産業活動により、犠牲になっていることも承知しています。再生可能エ
ネルギーの有力な手段である風力発電設備には、風車の羽根に鳥が衝突して犠牲
になっている問題があります。ご参考までに下記HPをご覧下さい。

風力発電施設が猛禽やその生息環境に与える影響
http://www.d1.dion.ne.jp/~akaki_ch/windfarm.html  
バードストライク
http://www2s.biglobe.ne.jp/~wesra/env/env_bird.html 
  
人類の持続可能社会に欠かせない再生可能エネルギーと自然との調和という大きな問題
ですので、一般の方にも知って頂きたく、今井さんの了承を得て、皆様に発信させて頂
く事にしました。         
 まず、私は風力発電より太陽光発電の推進に力を入れています。風力発電から得られる
エネルギーは、太陽光発電より数段大きいのですが、自然環境、風景などに与える影響が
大きいからです。しかし太陽光はエネルギー密度が低く、太陽光発電はかなりの面積を必
要としますし、夜は発電しません。

 地球に注がれる太陽エネルギーは、地面、海を暖め、海流を起こし、風を吹かせ、火山
・地震という姿に形を変えているようです。植物の成長、人間を含む動物の活動に使われ
ているエネルギーは、降り注ぐ太陽ネルギーの0.2%にも満たないそうです。だから膨
大かつ自然に頂ける太陽エネルギーを有効利用できれば、炭酸ガスを排出し、地球温暖化
を加速させている化石燃料の使用を減らすことができるはずです。

今井さんの問題提起
Q1.環境問題の提起の結果、日本中が風力発電所の建設に行き過ぎている。

貴重な問題提起です。エネルギーは、食料と並び我々の文明の、生活の根幹を支えてい
る重要なものです。人類の為だけを考えれば、風力発電など再生可能エネルギー施設を
もっと整備すれば良いのでしょうが、自然を考えるとブレーキが必要だというご意見か
と思います。真剣に人類の将来を考えるならば、再生可能エネルギー(概ね自然エネル
ギー)の開発、推進は欠かせないものですが、今井さんと私の趣味でもある探鳥にして
もエネルギー無しでは制約が相当大きくなります。自分の身の回りのこともよく考えて
みたいと思います。

 日本中というほど自然エネルギー開発は、この国では進められていません。例として風
力発電の進んでいるドイツ、スペイン、デンマーク、米国に比べ、日本の導入基数は数%
のオーダーです。ドイツで28GWの風力発電が稼動しているのに対し(1GW=1000MW=100万
KW、1GWは大型原発1基分に相当します)、日本は108万KW(2006年3月)に過ぎません。
国民一人当たりなら、デンマークが一番です。

 これは第1次石油危機の後(昭和48年前後、1973)の国のエネルギー政策の違いが出て
きた結果です。日本は石油依存から脱皮するために原子力発電に力を入れて来ました。こ
れに類した国は、フランス、台湾等です。結果日本は、エネルギー源のバランスの取れた
国となっていることは事実です。フランス以外の欧州ではデンマークを先頭に自然エネル
ギーの開発&育成に向いました。更に自然エネルギーの促進を掛けたのが1986年4月に発
生したソ連ウクライナのチェルノブイリ原発事故でした。全欧州が放射能汚染にさらされ
たのです。デンマーク、ドイツ、スペインなどは再生可能エネルギー推進に更に本格的に
動き出しました。

ドイツでは2000年の再生可能エネルギー法が有名です。この法により、市民団体、市民法
人が整備した風力発電設備、太陽光発電設備からの電力、またバイオエネルギーなどを
電力会社、エネルギー会社が固定価格で買い取り、10年くらいで元が取れるような制度
を設けています。そして再生可能エネルギーを普及させ、低価格化も目指しているので
す。その分ドイツの電気料金は日本より割高です。日本の太陽光発電設置面積は世界一
だったのですが、2007年にドイツに完全に抜かれたようです。平成17年 (2005)度をもっ
て設置への国の補助金を廃止したからです。ドイツは樺太に位置する北国ですが。

さて、世界の石油の生産量はピークに達したとのことです(2005年5月。オイルピーク)。
これから石油価格は、長期的に見て上がる事はあっても下がることは無いでしょう(中
国、インドあたりが本格的に石油を使い出しました)。枯渇(後35年?)する前に「石

油の一滴は血の一滴」(第2次世界大戦時、時の日本政府のスローガン)という事態にい
ずれ至る可能性すらあります。思い起こして下さい。第1次石油ショック(1973)前の
原油価格は1バレル2−3ドルでした。今1バレル115ドル前後にも高騰しています(1バレ
ル=159リッター)。

現代文明は石油と電気でほぼ成り立っています。日本では電気の3割は原子力発電によっ
ています。国策の結果です。私は、原発の反対者ではありませんが、脱原発を目指すべ
きだと思っています。何故か、核燃料リサイクルがいくら進んでも強力な放射線を出す
高度核廃棄物が出るからです。今9電力会社から出る核廃棄物をガラス封印して青森県
の六ヶ所村で保存しています。溜まる一方です。もう一つの課題はウランそのものも天
然資源であり、後70年くらいで枯渇すると見られています。石油同様価格の高騰が起こ
るでしょう。

もう一つの原発の課題は、安全性と停止した場合の対応です。東京電力の柏崎原発が
2007年7月16日の地震で止まってから、動いていません。原子炉本体は壊れず、耐震設
計は十分であったようですし、私は東電はじめ電力会社の日本の技術者は旧ソ連などと
違って信頼できると思っています。しかしもっと巨大な地震が来ないという保障はあり
ません。また柏崎原発が送り出していた800万KWの電気の穴埋めはどうしているのでし
ょう。東電の持っている火力、水力発電で停止中だったものを再稼動させ、また電力
会社同士の融通ネットワークで、カバーしているのです。それ自身は素晴らしく評価
したいのですが、結果火力発電所からは炭酸ガスが排出され、炭酸ガス削減どころか増

加する一因を作っています。原発そのものからは炭酸ガスの発生は極めて少ないのです
が、システムダウンしたときが問題なのです。この点、風力発電、太陽光発電、バイオ
エネルギー(燃料ガス、発電いずれの形態も含む)は、ミニあるいはマイクロエネルギ
ーとも言われ(せいぜい1000KWのオーダー、我が家の屋根上の太陽光発電装置は3.4KW
です)、発電所近隣で消費され、かつ一つが止まっても影響度が小さく、バックアップ
が行ない易いのです。周辺の環境への影響も少ない方でしょう。また巨大発電所から大
消費地である都会までの送電ロス(空気中に熱となって逃げる)は、地球温暖化を促進
しています。

Q2.耐用年数が短いと聞いている、エネルギー収支は本当にプラスになるのか? 

風力発電装置の耐用年数は20−30年程度のようですね。
エネルギー収支には、二つの重要な概念があります。

■	EPT(Energy Payback Time)
EPTは、そのエネルギー発生装置の設置、運転に投入するエネルギーが、何年で回収
できるかとの推計値なり、実測値です。風力発電装置の場合、技術水準が上がり、今
や数ヶ月のオーダーに下がっているようです。太陽光発電装置で1.5年―2年以
下に下がって来ました。いずれもっと下がるでしょう。
http://www.nedo.go.jp/nedata/16fy/14/e/0014e005.html
いずれも建設期間が原子力発電所、石炭火力発電所、大型水力発電所などに比べ、
一桁か数桁少なくて済み、発電コストの低減にも役立っています。

■ EPR(Energy Profit Ratio) =エネルギーの質 
得られるエネルギー量に対し、投入したエネルギーの比で表せる概念です。エネルギ
ーの質とも言えるそうです(もったいない学会会長 石井吉徳氏、電力中央研究所天
野 治氏)。

第二次大戦の頃の石油は、アメリカでは自然に噴出していました。簡単に石油が手に
入ったのです。上記EPRは100くらいだったそうです。つまり1単位の投入エネルギー
で100単位のエネルギーが得られていたのです。今は40くらいに低下しています。地上
から水圧などを掛けないと油田から石油が噴出して来なくなっているからです。石油の
枯渇は心配ないという人がいます。オイルサンド(最近カナダが盛んに開発しています
)などがまだ残っているからというのが根拠です。

オイルサンドから石油を取り出す際のEPRは、0.7―13.3と試算されています。オイル
サンドの品質如何ではEPRが1以下ですから、採掘しないほうが良いことになります。ま
た石油は燃料として使うのは一番もったいない使い方です。薬品、繊維、プラスチック
など色んな素材に使えます。食料にもなり得る可能性があります。

 電力中央研究所の天野 治氏の試算では、風力発電のEPRは3.9、太陽光発電のそれは
2.0、同じく自然エネルギーの地熱発電で6.8となっています(電中研ニュース439号、
2007.3)。

 上記二つの数字から、風力発電装置のエネルギー収支は一応採算にのっていることに
なります。これからはもっと向上するでしょう。

Q3.建設による森林破壊(管理道路などの新設も含めて)の影響は?

これも大事な問題です。例として比良山の山上に大掛かりな風力発電装置を設置すると
なれば、私は反対します。自然破壊がかなり進むからです。

ただ同時に人間はある程度自然破壊しないと生きていけない動物です。一番自然に近い
農業を見てもそうです。お米を作る田んぼもかなり自然地形を改造しないとできません。

日本の風況は欧州やアメリカ大陸と違って山岳地帯が多く、風の吹き方も一様ではあり
ません。
従って海上、もしくは海辺が一番適していると思われます。また建設、管理道路はどう
しても
、要りますから、環境アセスメントを行ない、得られるエネルギーと自然保護の間で一
定の妥
協をする必要があるでしょう。年間平均風速が4メートル以上は今の風力発電の技術で要
るようです。

デンマークでは、2030年までに洋上発電で半分の電気エネルギーを賄おうと試み初めて
います。風力発電装置群は大規模になれば、風任せから来る電圧変動などの問題を減らし、
質の良い電気を作れるようになります。しかし海の底の生き物にも配慮が必要です。

Q4.各地で問題になっているバードストライク(鳥の衝突)対策は?

 これも重要な問題ですね。特に大型の猛禽類の幼鳥に犠牲が多いと伺っています。米国
のデー
タで風力発電装置一基あたり、バードストライク数は2.19羽(2001年)、ドイツでは0.5羽
とのデータがあります。また米国では年間10億羽のバードストライク数が推計されていま
すが、その内
風車によるものは0.01%ではあり、電線による犠牲より少ないとの数字がありました。
(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%A2%A8%E5%8A%9B%E7%99%BA%E9%9B%BB)。

 しかし、野鳥の犠牲は少しでも減らしたいものです。
 対策としては下記のような方法が考えられます。自然エネルギーの勉強会で得た知識も
あります。

■	予め、野鳥の生態、生息数を調べ、影響の少ない場所、風車の形式を選定する。
■	野鳥の渡りのコースを把握し、そのルートでの風車の設置を避ける。
■	野鳥の渡りの時期には、レーダーで渡りを探知し、風車を止める。
■	風車に彩色し、野鳥を近づけないようにする(ジェット機のエンジンに黒目のような
模様が
ありますが、ジェットエンジン(タービン)へのバードストライクを避け、安全を確保する
ためのものです)。
■	低回転の風車を採用する(騒音を下げる効果もあります)。
■	扇風機型風車を採用する。
コンパクトな風力発電設備です。バードストライクは今まで無かったと伺っていま
す。但し、コスト高にはなります。
 共栄テクノス社  

 この風力発電装置へのバードストライクを減らすための対策に関し、私は会費を払ってい
る会員として(財)日本野鳥の会にもっと調査して動いてもらいたいと思っています。実は
バードストライクの問題は、風車だけではありません。新幹線でも多いのです。

東海道新幹線開業(時速210■)の頃、多くの野鳥が新幹線電車に衝突して犠牲になったの
です。その後野鳥も慣れて来て、犠牲数は急減しましたが(特にカラス類は賢く、高速列車
を退避する能力を早く身に付けます)、今もゼロではありません。
スズメ、鳩、ツバメなどがもろいですね。時速270■、300■運転を行なうようになるとまた
一時期野鳥の犠牲が増えました。

 私は、500系新幹線電車の開発&走行試験の責任者でした。その後台湾新幹線の施行、運転
に関しアドヴァイスするため平成15年 (2003)夏から2年間台湾高鉄で勤務しました。当時か
ら高速列車による野鳥の犠牲を減らしたいと思うようになりました。上記■の彩
色とかフラッシュのような方法で、野鳥を高速列車、風車などに接近させない技術の開
発をしようということなのです。  

 私は思うに、野鳥関係者に申し上げますが、ただ単に風力発電に反対するだけでは、
多くの人の賛同は得られないとおもいます。もっと定性、定量的なデータ、情報を把握
して、解析してまた提言を行政、企業に行う日本野鳥の会になって欲しいと思っていま
す(日本野鳥の会会誌野鳥2007-4月号 
)。

Q5.動かなくなった時の処置は?(強度の高いものを使っているので処分が大変だとか・・・)

これも大事な課題です。風車の羽根(ブレード)にFRPを使っているからです。FRP=Fiber 
Reinforced Plasticsは、ガラス繊維をプラスチックに混入させたもので、その組成構造
からしてリサイクルの難しいものです。既に全国にあるFRP船(漁船、レジャーボートな
ど)が放置され、環境問題、風景破壊問題を起こしています。私は、船はリサイクルし易
い鉄製か木製にすべきであると思っている一人です。

ただ、既に「FRP船リサイクルシステム」ができているようですね。下記の情報を見付
けました。このシステムにより、FRP船を有料引取りして今のところ、粉砕されたFRPでプ
ラスチックは、セメント会社の燃料となり、ガラス繊維はコンクリートの原材料になって
います。


風車メーカーもこのことは、考慮しているはずですし、今後も私は注目して行きたいと思
います。また風車のリサイクルを義務付ける法律も要るでしょう。

Q6.またぞろ税金の無駄遣いにもなる可能性も高いと思います。

エネルギー自給率僅か2%の日本の深刻さを考えると、風力発電など再生可能エネルギー
への国の対策は不十分であると私は思っています。エネルギー政策は国策の重要な根幹を
成すものです。基本的に私は、この国と国民の将来を考え、かつ、開発途上国も今後、石
油という根本的エネルギーの更なる高騰、枯渇という事態に遭遇することを想定しますと、
再生可能エネルギーへの助成する更なる仕組みが必要であると思います。日本が開発途上
国も支援できるようにしたいものです。

税金を投入するのではなく、ドイツ、スペイン、デンマークのように民間&市民による再
生可能エネルギー投資を促すような制度も必要であると思います。むしろ再生可能エネル
ギーへの育成制度が不足しているから、脱石油、
脱原発が進まないのです。


一番大事なこと
省エネ・省資源が根本

 最後に付け加えさせて頂きます。
 長期的に見ると、先程のERP=エネルギーの質、という視点からすれば、将来、エネルギ
ー不足、エネルギー価格の高騰は避けられないでしょう。食料品も製造過程、収穫、加工、
運搬、販売そして調理というどの場面を考えてもエネルギーを必要とします。日本が唯一
自給できているお米でも、その米作過程を見ると石油無しで成り立たない状態になってい
ます。水田を油田と呼ぶ人がいるくらいです。

 そこで必要になって来るのは、省エネ・省資源です。そのための技術開発も大事です。
省エネ住宅の採用、住宅の高寿命化、公共交通機関の充実、移動を少なくして生活できる
社会に変えて行くことだと思います。また地産・地消を我々の眼前で実行して行くことで
す。
 そうすれば、地球温暖化の急進による環境破壊から人類を守り、生態系への影響を少な
くし、野鳥を含む動植物との共存を維持できることに繋がると思っています。

上記私からの回答(一部省略変更)に対し、4月16日に今井様より下記のようなご返事
を頂きました。

 今井様より
風力発電先進国との大きな違いは、日本では風力発電は環境影響評価法(環境アセスメ
ント法)の適用外であるため、事前の調査も事業者の自主努力に頼っている状態であり、
不十分な環境影響評価も多いと言うことだろうと思います。

私も、再生可能な自然エネルギーは必要不可欠だと思っておりますが、現在のようにほ
とんど無審査のような状態は、かつてのバラマキ行政のような臭いがしてならないので
す。ちゃんと環境アセスメントを義務付けして、本当に有効なエネルギー対策としてい
ただきたいと思っています。

私は、風力発電先進国の失敗での反省に謙虚に学び、ちゃんとじっくりと時間をかけて、
少しでも自然環境に配慮した施工をしてほしいと思うのです。

 当初は多少コスト高になっても、対策を施したものが結局はコストも低く抑えられる
のですから、行政や施工者には、現在のように最初のコストを云々するだけではなくて
、長いスパンへの意識転換をしていただきたいと思います。行政もそのようなプロジェ
クトにこそ支援をするべきですよね。

 ご紹介いただいた共栄テクノス社のように、技術的にはどんどんと改良されるでしょ
うし、その点は期待したいものです。

 仲津様にご説明いただいて少し安心いたしましたが、ここでも申し上げましたとおり、
日本国内の状況はいまいち信頼性に欠けると思う気持ちは残っています。

 以下 仲津 英治
 去る2月19日NHKの衛星ハイビジョンで放送された「アインシュタインの眼」―自然が
モデル−が、好評につき、NHK衛星放送2チャンネルBS−2で、下記の通り再放送
されます。
4月25日(金)20:10〜20:54

中味は3テーマ、カタツムリの貝殻を参考にしたタイル(油汚れが水で落ちる)、
蓮の葉っぱをヒントにした紙(水をはじく)そしてフクロウの羽根から学んだ500系
の翼型パンタグラフです。 

 長文にお付き合い有難うございました。

「地球に謙虚に」運動代表
仲津英治 


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