2907.コンパクトシテイーと都市景観



コンパクトシテイーと都市景観
                   平成20年(2008)4月11日(金)
                「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治

 今日は、オイルピークを迎え、エネルギー&自然環境容量の制約がある中で、
都市は今後どうあるべきかということについて述べたいと思います。
去る3月7日に大津市で「滋賀の持続可能社会を考えるというテーマ」で開
かれたびわ湖フォーラム(琵琶湖環境科学研究センター主催)に於きま
して、(独)国立環境研究所参与の西岡秀三氏から、「地球温暖化問題と低
炭素社会」と題する講演を伺いました{資料;2050日本低炭素社会シナリオ
;温室効果ガス70%削減可能性検討(国立環境研究所、京都大学等)、
)}。

 この温室効果ガス70%削減のシナリオは、昨夏ハイリゲンダムサミットで
安部前首相が2050年に温室効果ガス50%削減を目標にしようと提言した際、
そのベースになったものとのことです。

 講演の中で西岡氏は、人口減少・高齢化時代にあっては現在の都市をコンパク
トシテイーにすることにより、持続可能社会を作る一助になるとの見解を示
され、大変印象に残りました。

 環境を配慮した都市は、思い切った省エネ・省資源を達成しければなりません。
そのためには、移動に要する距離を減らし、自家用車無しで生活できる都市と
する必要性があります。交通の世界において自動車が大半のエネルギーを消費し、
鉄道のエネルギー消費割合は数%です。関係公共交通機関(鉄道、軽量軌道交
通=LRT以下同じや乗り合いバス)を重視し、モーダルシフト等を実現して、
自家用車を持てない、運転できない高齢者などの交通弱者にも配慮した都市に
するということです。講演後、西岡氏に伺うと、モデルはヨーロッパの中小都
市にあるとの答えでした。やはりというのが私の受止めでした。

 私は20代の1972-74年ころ、妻と共に西ドイツ北部のブラウンシュヴァイク
工科大学に留学していました。ブラウンシュヴァイク市は、人口23万人の中世
からの街並みを残した中規模の都市です。
写真1&2ブラウンシュヴァイク市都心部(ドイツ観光局HP)

 かつての中世の頃にはあったであろう城壁の内側に相当する同市の都心部は、
歩行者地域として整備されていました(石畳、煉瓦舗装)。特別許可された自
動車のみ進入できる地域で、乳母車の母親、身障者、老人も安心して歩ける場
所でした。そこには二つの大きな百貨店があり、アーケード街(曲線が多い)
には小奇麗な商店が並んでいました。平日は買い物客で賑わい、週末にはウイ
ンドショッピングを楽しむ、カップル、家族連れを多く見かけました。自転車
もOKですが、原則下車です。我々も都心からさほど遠くない大学宿舎から歩い
て買い物に出かけたものです。同市では、市営の路面電車、バスがその歩行者
地域を巡るように走り、タクシーも指定場所で客待ちしていました。また、日
本のようなシャッター街は見かけませんでした。私は最近までに同市をその後
数度訪れており、歩行者地域は人々で賑わっているのを確認しています。

 ドイツ国内の他の都市を訪ねても、都心部にはその規模に応じたセンスの良
い歩行者地域が整備されていました。それらの成立ちは、中世からの城壁都市
に原点があるようです。 

 私は日本の都市もこのような都心部を持つべきだと強く印象づけられ、ドイ
ツの友人に経緯を伺うと、第2次大戦後、ドイツは車社会に移行し、都市部は
車で溢れ返るようになったので、行政の強い意向で都心部を歩行者地域にしよ
うとしたところ、商店などは、皆反対であったということです。買い物客が減
る、商品の搬入に不便だと言うのが主な理由です。よく環境モデル都市として
取上げられるフライブルクもそうであったと言います。市民も都心に車で自由
に行けないことに反発したとのことです。しかし歩行者地域は成功し、根付き
ました。  

 続いて若き日の留学中、都市として強烈な印象を持ったのはパリです。殆ど
7階建てのビルで街並みが統一されています。高さも低さも制限されている
のです。1850年代フランス皇帝ナポレオン三世の頃、セーヌ県オスマン知事
が王政権力を背景に雑然としたパリの街並みを大改造した結果なのです。建
物のデザインも共通のものが多いですね。今は、それがフランスにおける貴重な
観光財産ともなっています。フランスは年間4000万人以上の外国人観光客(日本
730万人、2006)が訪れる世界最大の観光国家ですが、それを支えるものは、文化
のみならずパリに代表される都市景観も大きな要素でありましょう。

写真3 パリ市街の例(2003西南学院大学国際文化学部第3回 研究旅行奨励制度 
報告書 万博とパリ都市空間の変貌)

 一方、アジアの都市は、残念ながら日本も含めあまり良い都市景観を持ってい
るとは言えません。江戸の都市は庭園と白壁そして黒瓦のおりなす美しい街並み
を持っていたそうですが。

 私が訪れ得たアジアの都市は、多くは、雑然としており、歩行者地域が無く、
建物の高さは不統一、看板が大きく広告過剰で、電柱と架空電線が空を蔽ってい
ます。

 日本にも美しい都市景観がありました。我が故郷大阪の御堂筋とその一帯です。
建物の構成するスカイラインを統一していたのです。関 一市長の頃、御堂筋沿い
のビル高さを、100尺ライン=30.3メートルに制限した結果です。銀杏並木の美しい
街路でした。東京丸の内のビル街もかつては同様でした。電線も地下埋設されてい
ます。

 また他に都市景観の良い例として、古(いにしえ)を遺すか復活している街並が
挙げられましょう。滋賀県では水郷を再整備しつつある近江八幡市、城につながる
都心部に城下街を復活した彦根市などです。現地を訪れて、心に癒しを感じます。
 都市景観は観光客を呼ぶ有効な手段であると私は思います。

 本年1月、大津市長選挙に新人、黄瀬 紀美子さんが立候補しました。彼女は、ビ
ルの高さ制限をマニフェストに掲げました。これ以上高層ビルを建てないようにし、
大津市と琵琶湖の景観を守ろうとしたのです。残念ながらこの公約はあまり焦点に
ならず、彼女は惜敗しました。有権者の関心の中心は、教育、福祉、医療などでした。

 しかし彼女は、貴重な問題提起をしてくれたと思います。住む都市、訪れる都市と
して中長期視点に立つと、魅力的な都市となるには都市景観が大事だからです。そ
こで冒頭申し上げた、生活し易いコンパクトさと都市景観を組み合わせた街並みが
できないだろうかと思うに至ったのです。

 大津市は都市として残念ながら魅力度が低いのでしょうか。それを裏付けるデータ
として人口33万人の滋賀県都の表玄関である大津駅の乗降人員は一日約35ー36千人で、
草津駅(約55千人より少ないことが挙げられましょう。 

 大津駅前から、街路樹を植樹した幅30メートル位の中央大通りが琵琶湖に向かっ
て北へと整備されています。架線も地下埋設され、素晴らしい街路です。しかし、
両側の建物高さは2階から10階とバラバラで、デザインもマチマチです。道を一
本入ると2階建ての低層家屋が多いのです。近辺に住まわれている方、仕事をされて
いる方あるいは不動産所有者に失礼なことを申し上げたことをお許し下さい。

 この街並みを例として5−10階建てに統一したビル群でスカイラインを整える
ことができれば、都市景観は見事なものに生まれ変わるでしょう。また高層化すれ
ば、用地の有効利用につながり、居住面積が増やせ、人が都心に沢山住めるように
なります。となれば生活に必要な移動も少なくて済むことになりましょう。今や朝
1時間だけ冷房をかけると終日冷房なしで生活できる住宅が出来ているそうです。
省エネ・省資源のコンパクトシテイーが実現できます。そこに住んでいない者が勝
手なことを言うなとお叱りを受けそうですが。
 写真4大津市中央大通り

 また湖岸に近い京阪石坂線の浜大津駅から琵琶湖ホール付近にかけては、自動車
の乗り入れを禁止してはいかがでしょうか。そのあたりを歩行者地域にして、ショッ
ピングスペースを整備し、駐車場を廃止するか&利用制限するのです。京阪電車の
都心循環線を整備し、JR大津駅に繋ぐ路線も考えられます。ライトレールかバス、
新規開発中の停留場充電方式のトロリーバスを導入する方法もあります。また、古
き良き時代を復活させること(江戸時代の城郭、街並み)も良いでしょう。市民に
も住むに良し、観光客も訪れるに良しという都市にできる可能性があります。 

 欧州の都市とは歴史の違いもあり、色々克服すべき難しい課題が多々ありましょう
が、今のままでいいのだろうか、と思うのです。つまりエネルギー不足問題、環境
問題に直面する可能性のある30〜50年先を想定すると、都市景観の整ったコン
パクトシテイー=環境少負荷都市を実現した方が良いのではないでしょうか。

 上記シナリオでは国全体で6.7兆円から9.8兆円の直接費用を試算しています。財源
としては、環境負荷の大きい、化石燃料と自動車への課税が考えられます。現在の
道路特定財源が有力な基礎財源となりえましょう。政府そして都市行政、首長の役
割は重要です。また、どこの地方財政も厳しい折、税収だけではなく民間活力を引
出す制度も導入して、都市景観の整ったコンパクトシテイーに都市を変えて欲しい
ものです。

 将来のために、次世代のために検討を始めて欲しいものです。大津のローカルなこ
とかも知れませんが、全国的にかなり当てはまることではないかと思い、発信させ
て頂きましました。

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仲津英治
「地球に謙虚に」運動代表


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