2883.揮発油税(通称;ガソリン税 )と環境問題



揮発油税(通称;ガソリン税 )と環境問題
                平成20年(2008)3月4日(火)
                「地球に謙虚に」運動代表 仲津 英治

揮発油税(通称;ガソリン税)の暫定税率の存廃問題が、今国会の焦点にな
りました。しかし残念なことに、地球温暖化との関連や、次&次次世代への
環境負荷など、環境問題からの視点での論議はあまりなされていません。私
の接する方々の中には、暫定税率の廃止により、石油価格を下げることは、
物価を下げ、生活を楽にする効果はあるかも知れないが、燃料の消費を促し、
結果として炭酸ガスの排出を増加せしめ、地球温暖化を加速さえることにな
る、それは次世代への負荷になって行くから問題である、との認識、見解を
持っている、見識のある方が結構おられます。

 ホームページの中にも、暫定税率の廃止論の政党は、ポピュリズム(大衆
迎合)であるとの批判にも接します。つまり今が大事、自分が大事という、
徐々に強まりつつある選挙民の心理をいかにして自らの政治的な利益につな
げるか、といった政治家の姿勢は、我々より多くの情報、高い見識をお持ち
である政治家のお立場を思うと、廃止論を疑問とする指摘なのです。

 私は、ガソリン税や自動車重量税とする道路特定財源の一般財源化は理解
できますが、道路特定財源のかなりの部分は、環境対策に充当されるべきだと
思っています。我々は次世代のために負担するという考え、姿勢が求められて
いるのです。

 道路特定財源制度
道路特定財源制度は、受益者負担(利益を受ける者が費用を負担する)の考
え方に基づき、道路の利用者、つまり自動車の所有者やその燃料を使用した
人が道路の建設・維持費用を負担する制度です。財源にはガソリン税 自動車
重量税などが充てられています。

 簡単に道路特定財源制度の歴史を辿ると、1953年-田中角栄氏らの議員立法
により、「道路整備費の財源等に関する臨時措置法が、制定されました。195
8年には道路整備特別会計が創設され、日本の道路は本格的に整備され始め、
今や全国津々浦々道路網が整備されて来ました。

 それでも日本の道路整備費は年間10兆円を超えており、道路特定財源制度に
よるものが半分を占めています。公共性が高く、環境面からも道路交通より
数段優れている鉄道は、鉄道事業者による自主投資が大半を占めており、1兆
円前後にしかなりません。

道路特定財源による税収を見てみますと、平成19年(2007)度当初予算で(国、
地方)5.6兆円以上の税収があり、ガソリン税(揮発油税)が半分の 2兆83
95億円を占めています。 国の収入分は3兆4076億円あります。一方地方分は、 
 2兆2026億円でそのうち軽油引取税が約半分の 1兆0360億円を占めています。
合計  5兆6102億円です。

暫定税率
道路建設財源を確保するため、昭和49年度(1974)から2年間の「暫定措置」
としてまず揮発油税などの税率が引上げられ、軽油引取税は1976年から引き
上げられました。ほぼ本来の2倍程度で、例として揮発油税は暫定税率が48.6
円/リットル(本則は24.3円/リットル)で、軽油引取税 の暫定税率は32.1円/
リットルです(本則は15.0円)。

例えばガソリンスタンドで給油すると、レギュラーガソリンで1リットルあた
り約150〜160円の代金を支払うこととなりますが、そのうち約50円余はガソリン
税であり、さらにそのうち約25円分が暫定税率によるかさ上げ分です。
結果概ね上記5.6兆円の内、約半分の2.8兆円が暫定税率による増収分となりま
す。

道路特定財源は、ほとんど道路投資に回されています。一部は他の公共性の高い
分野に支出されており、これらは大いに歓迎されるところです。例として最近
では地下鉄など軌道系の交通インフラ整備や連続立体交差 >事業(開かずの踏
切 の解消)に充てられています。中でも連続立体交差事業は、安全の向上に
も貢献します。鉄道事故の半分は踏切で発生しているからです。

 今回暫定税率の廃止反対の運動が地方自治体等から起こされましたが、その理
由は道路が整備されなくなるからという、誠に寂しい主張でした。もう道路は十
分だとは申しません。近くの国道、県道でも歩行者通路の無い道路、橋などが結
構見られます。こうしたところは安全のためにも整備改善されるべきでしょう。
しかし新規の道路整備をさらに進めることは、全部ノーとは言いませんが、自動
車交通を促進する方向に働き、それは炭酸ガスの排出を奨励しているようなもの
です。

 どうしてこれら暫定税率の一部を、環境問題の解決につなげる財源にしようと
の主張が、どこの政党からも出ないのでしょうか?

2月29日の自公与党による暫定税率10年間延長を含む平成20年度予算が強行採決
され、この制度は維持されることになりました。現行の石油諸税はある意味で
化石燃料への課税行為自体であり、「炭素税」の課税効果と同じような役割を
果たしています。消費の抑制効果です。

また、高めの石油は、代替エネルギーを促進させ、再生可能エネルギーの採算
性を高める可能性を秘めているのです。ここで石油価格を安くすれば、こうし
た良い方向性さえ破壊してしまう可能性があります。

ガソリン価格の国際比較
 ここで諸外国の例を見てみましょう。
世界でガソリン価格の低い国を列挙しますと、1リットル当たり、低い順から
メキシコ76円、ニュージーランド94円、アメリカ96円、カナダ119円、オースト
ラリア119円、そして日本135円(2007年4-6月の価格)です。いずれも太平洋
に面した国々ですね。低価格の理由はガソリン税率が低いからです。日本以外
は極端な自動車社会で地球温暖化促進国とでも言うべきでしょう。

一方ガソリンの高い国々は1リットル当たり軒並み200円を超えており、トッ
プのトルコ266円を除き全て欧州国家です。私も昨年10月訪独したとき、レギュ
ラーガソリンは1リットル150セント=240円くらいで、その高さに驚いたもの
です。この価格高低差は概ね税率による差です。日本のガソリンにかかる税金
は英、独、仏の半分程度です。EU諸国は、石油から炭素税を徴収し、環境
対策に充てているのです。
(長野県ホームページ「道路特定財源について」より世界のガソリン価格から)

2050年に温室効果ガスの発生量を現在の半分に
 これは昨年、阿部前首相がドイツのハイリゲンダムサミットで、取りまとめ
発言し、合意に至った目標です。毎年1.4%減を重ねて行くと2050年で半減でき
ますが、1990年から今日まで世界で38%も温室効果ガス(メインは炭酸ガス、
次いでメタンなど)が増えている現状を鑑みると、大変な目標であります。
温室効果ガスの半分は開発途上国から排出されており、これが増えない前提に
立っても先進国の温室効果ガス排出量をゼロにしないと達成できないレベルだ
からです。

 昨年9月に京都でドイツのメルケル首相の講演を聴く機会がありました。同
首相の言をここに引用します。「今世紀末に今より世界平均地球温度を2度C
上昇に抑えることが出来れば、非常な事態は避けえます。仮にこれが達成でき
ないと英国のニコラス・スターン氏によれば、莫大な経費を必要とする事態と
なります。そのためには2050年の炭酸ガス発生量を現在の50%にすることです。
今行動を起こせば、それが可能であり、将来の膨大な出費を抑えることができ、
地球環境と豊かな生活を両立させることが可能となります。何もしなければ、
20%生活レベルが下がることもありえます」。20%の経済損失は、第1次&第2
次世界大戦の被害規模に匹敵するとのことです。

 具体的には、毎年国内総生産GDPの1%の経費を投入すれば、2050年の炭酸
ガス発生量を現在の50%にすることができるとニコラス・スターン氏は述べて
います。

日本のGDPは今約566兆円(2007)です。1%は5,6兆円。道路特定財源の規模と
一致するのです。
 我々は次なる世代に借金と悪環境という負荷を残さないように、ある程度は
負担する必要があるのではないでしょうか。 皆様 いかが思われますか。
                              以上

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仲津英治
「地球に謙虚に」運動代表


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