2861.中国製餃子中毒事件について



中国製餃子中毒事件について



                           日比野

1.中国冷凍餃子の食中毒事件

先日発覚した、中国冷凍餃子の食中毒事件で、続々と健康被害があ
ったことが明らかになってきた。

読売新聞の全国調査によると、被害者は1月31日現在で、30都
道府県、計368人に広がっているという。また問題の天洋食品の
加工食品は、少なくとも19道県の327の保育園、幼稚園と小中
高校などの給食で使われていたことも判明したと報道されている。

発覚当初から報道していれば、被害はもっと抑えられていた筈。そ
れを隠してしまっていた報道各社の罪は問われてしかるべきだと思
う。

学校給食では、一斉に中国産を敬遠する動きが出ている。スーパー
や外食産業は「中国産」を使うか使わないかで対応がマチマチのよ
うだ。

一番簡単確実な対策は元栓を閉めること。安全性が確認されるまで
中国からの食料品輸入禁止。この対策が一番消費者を安心させる。
BSEのときと同じ対応。

だけど、まだ元栓は開いたまま。でもこれは食といういわば人命に
関わる話だから、どこかで篩に掛けないといけない。次にうてる次
善の策は、おのおのの蛇口を閉めるか閉めないか。卸売り業者や小
売業者レベルでの販売自粛。

消費者にとっては、少なくともどれが安全で、どれが安全でないか
の看板を出してもらわないことには、安心して買えない。

今や各食品メーカーにはひっきりなしに問い合わせの電話がかかっ
ているそうだ。

このまま政府の対応や情報開示がずるずると遅れれば遅れるほど、
「中国」をキーワードにして、中国と名のついた食材を、食品メー
カーも消費者も一斉に避けるようになるのは目に見えている。



2.事態の収拾方法

今回の事態に対しては、本当は政府レベルで元栓を閉める処置に出
たほうがずっと良いのは誰にでも分かる話。だけど今のところ政府
にそのような動きはみられない。

福田総理は2月1日午前の閣僚懇談会で「それぞれの閣僚がしっか
り取り組んで欲しい」と述べたそうだけれど、そうではなくて、た
とえ一部の品目ででも、中国食材の輸入禁止措置を指示するくらい
していたら、国民の支持を得ることが出来た筈。

「国民の安全を守る」という公約を果たすと同時に、強いリーダー
シップを持っていることをアピールするチャンスを逃してしまった
。

今になって、実は健康被害を受けていたという人がどんどん明らか
になって、被害申告はもはや500人以上にもなるという。事態は
深刻。しっかり取り組んで欲しい、なんて閣僚に任せておけるよう
な猶予はあまりないように思える。

中国当局は、問題の食品会社である天洋食品を調査した結果、禁止
農薬であるメタミドホスは検出されず、品質が非常に安定している
と述べていたけれど、適当な少量のサンプル検査ごときで、メタミ
ドホスがぼろぼろ検出されるようでは話にならない。死亡者が大量
に出る。

だけど、いくらサンプルから検出されなかったといって、知らぬ存
ぜぬを通していても、なにもしなければ海外輸出に影響が出てくる。

日中両政府とも、なんとか早期収拾を図りたいと思っているのかも
しれない。だけど大切なのはその始末の付け方。

中国政府のよくやりそうな手としては、自分は悪くない、特定のご
く一部の「個人犯罪」だった、と矮小化して沈静化を図る作戦をと
ること。待遇に不満を持った従業員とか、天洋食品に恨みをもった
第三者が猛毒を意図的に混入させたのだ、とかなんとか言って。

それで管理責任を問う形で、天洋食品は取り潰す。日本には形ばか
りのお悔やみを言って、謝罪せずゲームセットを狙う。中国政府的
にはそれで十分いけると思っているのかもしれない。

だけど、その手に日本側のマスコミや政府が乗ってしまうと、おそ
らく、国内の食品業界に大打撃を与えることになる。



3.安全宣言と板挟み

政府から安全宣言や終結宣言を出すことを考えた場合、日本と中国
では政府発言の重みは天と地ほども違う。

中国政府の発表は当の中国人すら信じていない。特に自国の食料品
に関しては。上海の金持ち達は日本産の食材を食べているという。

それに引き換え日本政府の安全宣言は、かなりの信頼度を要求され
る。一旦安全宣言を出したら最後、二度目の食中毒は絶対起こせな
い。二度目があったら政権が揺らぐ。

福田総理にとっても試練の時。一歩対応を間違えれば致命傷になり
かねない。

もしも中国政府が先ほどの「個人の犯罪だったキャンペーン」を仕
掛けてきたとしても、安易にそれに乗っからない方がいい。

万が一、日本政府が、あれは犯罪であって、その他の食材は安全だ
宣言なんかを出したとしたら、今度は食品メーカーが安全という名
の板ばさみに遭うことになる。二度目があったら、今度は食品メー
カーの責任にされてしまうから。

昨年さんざんマスコミが産地偽装で叩いたものだから、仮に中国産
を国産と偽って販売して、食中毒を起こしたら、いっぺんに信用を
失う。食品業界全体が信用という目で消費者から品定めされている
。これ以上の産地偽装なんかとんでもない状況だから、もう逃げ道
がない。

構造的に毒食品を流出させない仕組みを作らない限り、いくら誤魔
化したところで、今回の様な問題はいつまでたっても無くならない
。

だから政治決着的な、安易な安全宣言をいくら出したところで、食
品業界や消費者にとっては殆ど意味がない。

国にせよ、食品メーカーにせよ、しっかりとした安全対策がされな
い限り、中国産の食材はやっぱり敬遠され続けるだろう。



4.安全の値段

今回の事件で、食の安全性を求める声が、ますます強まることは間
違いない。それに伴って、消費者の行動はこれから大きく二通りに
分かれるように思う。

ひとつは、安全を金で買う行動。もうひとつは食べないという選択
。

今回の事件を契機として、各食品メーカーや外食産業は安全性への
対応を迫られる。

食中毒事故が起こってなくても、中国産食材を使っているメーカー
は、特に安全性への対応を求められる。もはや他人事ではなくなっ
た。中国製食品は高リスク商品であったことが広く知られてしまっ
た。

だけど、多分、消費者の意識はだんだん中国なんか相手にしなくな
ると思う。そんなものは眼中にない。注視するようになるのは食品
メーカーの安全性に対する姿勢そのもの。

中国産だから100%ダメというのではなくて、中国産であろうが
、国産であろうが、どうやってその食材の安全性をメーカーとして
保証しているのかに意識が向いてゆくように思う。極めてシビアで
冷静な消費者の目。

だから、食品メーカーも、なんらかの安全性への対策をとる代わり
に値上げをせざるを得ないかもしれない。牛肉のように固体識別番
号をつけるとかして消費者に安全対策とトレーサビリティを広く公
表する。そして、それらの対策に納得した人が、値段が高くてもそ
ちらを選ぶという消費行動を取ることが考えられる。



5.量から質への転換

もうひとつ考えられる対策は、そもそも食べないという行動。一日
三食だったのを二食にしたり、時には一食にしたりして、浮かした
お金で、安全性の高い食材を買う。

日本のような先進国の食生活は普段からカロリーオーバーであって
、それによって生活習慣病を蔓延させているという説もある。日本
人は朝食を抜くくらいで丁度良いのだとも。

机上の空論だけど、日本人が一日三食だったのを一日一食にしたら
、カロリーベースでの食料自給率は100%を超える。

要は、食べるためのお金の使い方が量から質に向かう可能性がある
ということ。それに伴って、消費者の食材の値段を見る目も変わっ
てくるかもしれない。

たとえば、いままでキャベツ150円、ニンジン一袋200円とか
だったのが、キャベツは本体価格150円+安全費用50円の計2
00円、ニンジン一袋は本体価格200円+安全費用50円の計2
50円といった具合に。

昨今のデフレ状況下では給料や年収が増える見込みはないから、安
全のために食料品が値上がりすると、他のどこかを節約するか、安
全費用分だけ買う量を減らすしかない。

今回の問題は、消費者に更に食への意識改革を促すと思う。


(了)


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