2857.食品偽装について



食品偽装について


                           日比野

1.購買動向からみる食のリテラシー 

スーパーやコンビニの店頭から中国産野菜が消えていっているそう
だ。

BSEや最近の国内の食品偽装での騒ぎの影に隠れて、中国産食品
の危険性についてTVメディアがすっかり報じなくなったにも関わ
らず、この有様。こと食に関していえば、日本人のメディアリテラ
シーはしっかりしているのではないかと思う。

どんなに口当たりの良いことを言っていても、株価は正直に反応す
るように、真に民意を知ろうとおもったら、やはり購買動向をみる
のが手っ取り早い。

このままだと、中国産食品はだんだんと敬遠されていく流れができ
てくるように思う。

あまりに敬遠されすぎると、今度は、TV・新聞メディアが大々的
に中国産食品は安全ですキャンペーンをはることもあるかもしれな
い。だけど、それをどこまで消費者が信用するかによって、現状の
TV・新聞メディアに対する消費者の食のリテラシーがどの程度の
ものなのか明らかになる。

昨年から国内の食品偽装が大きく報道されて、それまであった中国
の食品の安全性への疑問が霞んでしまったかのように見えるけれど
、消費者は意外としっかり見ているのではないか。

国内の食品でさえ、偽装があるのだから、中国産などもっと危ない
のだろう、と。それだけ日本人は食に対しては敏感。

しかもTVは「産地偽装」であれだけ叩いているから、消費者はま
すます警戒するようになる。「国内産」では信用できなくて「何県
産」とか「なになに農家の○○さんが作りました」という表記を好
むまでになってきている。

要は、売る側の姿勢が信頼できるかどうかまで品定めされるように
なってきているように思う。

一部では、既に2004年から、バーコードに取って代わるとされ
るICタグ(電子荷札)を野菜にICタグを付け、買い物客が産地
や流通経路を確認できるようにする実験が首都圏のスーパーで始ま
っている。

今後ますます表示に対する信頼性と要求が高まるだろう。その意味
で赤福問題などは消費者の意識改革を促す機会になっているのは間
違いない。



2.日本人の食に対する冷静な判断

日経レストランが300人の消費者を対象に、「食品偽装」と「食
材高騰」に関して、2007年12月に実施したアンケート結果が
公表された。

それによると、昨年問題となった、賞味期限や原産地表示など偽装
については、約8割の人は「ほとんどの店で多かれ少なかれ不正を
している」と考えている反面、約6割の人は「きちんと改善策を講
じれば、また利用する」と考えているそうだ。

また、賞味期限切れ問題についても「食品の種類によっては賞味期
限切れでも食べる」という人が8割を超え、メニューの値上げに関
しても半数以上が「ここまで原料が高騰すると、値上げも仕方ない
」としている。

食品産業の実態なんて、これまでほとんど報道されることはなかっ
た。 それでいて、不正など多かれ少なかれやっている、とか、賞
味期限切れでも食べるという回答が8割を超える結果になっている
。

消費者は驚くほど冷静に事態を判断していると思う。「きちんと改
善策を講じれば、また利用する」とか、「値上げも仕方ない」とい
う回答も半数を超えているということは、日本企業、引いては日本
人の安全性や信頼性に対するある種の合意、すなわち、日本の企業
であれば、ちゃんとやれば安心できる食品が提供できるはずという
国民半数以上の合意があることを示してる。

あれほど、マスメディアが昨年、ヒステリックなまでに、問題視し
て赤福や吉兆を叩いては、食への信頼が揺らいでると焚きつけてい
たけれど、どうやら国民はその上をいくリテラシーを持っていたこ
とを証明しているように思う。

特に「値上げも仕方ない」という回答が半数を超えているのには注
目している。バブル崩壊後のデフレでなにもかも値下げになってい
たけれど、それを当り前とは思わず、生活実感として、今の値段で
やっていくのは、少しくらいの不正でもしないと商売にならないは
ずだという感覚があることを示してる。


 
3.期限切れリスクの適正化

消費者はこれからも表示に対する信頼性を要求していくのだろうけ
れど、さらに、表示内容に対する、適正水準の見直しの声も出てく
るのかもしれない。

適正水準とは、賞味期限の基準をどこまで緩和するのが適切かとい
う問題。実際ほとんどの人は賞味期限を過ぎても食べてなんともな
かった経験を持っていると思う。

今の賞味期限、消費期限を厳しすぎると考える人も少なからずいる
はず。

消費・賞味期限を決めるのは製造・加工業者が原則。食品の粘り具
合や濁り具合、比重、大腸菌などの微生物数を調べたり、視覚、味
覚、嗅覚を働かせて傷み具合を試験してる。

食品会社は自分の食品の品質問題で消費者に訴えられたくないから
、消費・賞味期限をうんと厳しくするものだけれど、そういう決め
方の妥当性についての検討が必要なのかもしれない。

スーパーなんかで閉店時間間際に、賞味期限が当日のものなどは、
売り切りたいものだから、値段を20円引きとか100円引きでよ
く売ったりするけれど、そういうものを制度として許すかという問
題。

多少、暴論だとは思うけれど、たとえば、賞味期限を2倍くらいに
緩和して、賞味期限をグレード別に分けて販売してみるのはどうか
。

グレード1がこれまでの基準で定価販売。グレード2が賞味期限切
れだけど3〜5日程度の期限切れで値段は半分。グレード3は1週
間以上の期限切れで値段は十分の一くらいにするとか。

鮮度にこだわる人は定価でグレード1を買えばいいし、若くて胃腸
が丈夫で、食えればなんでもいいんだというくらいタフな人は、グ
レード2でも3でも安く買えばいい。安全に対するリスクの一部を
消費者に負ってもらう。

要は安全性に対する保障を100%企業に求めるのか、多少なりと
も消費者がリスクを負うような体制を社会として容認するかどうか
という問題。

もしこういうことが実現すると、安全性に対しても、「高かろう良
かろう」「安かろう悪かろう」が定着していって、自分の身は自分
で責任を負うという風潮が浸透してゆく。それがまた一層、食の安
全に対するリテラシーを醸成してゆく。

いずれにせよ、その時に大切なのは情報をオープンにすること。下
手に隠すのではなく、この品質であればこの値段になります、とは
っきりさせたほうが信頼を得られる。特に日本ではそう。

不二家にしても、赤福にしても、期限切れで集団食中毒とか起こし
たとかは聞かない。だから日本の食品衛生と品質の基準はものすご
く厳しくて、それはそれで素晴らしいのだけど、真面目にそのとお
りすると、今のデフレ社会では、とてもじゃないけれど利益がでな
いくらい厳しいのだろう。

現実に食品会社がそれについていけなくなってきていて、不二家や
赤福や吉兆で単に、それが明らかになっているだけなのかもしれな
い。

本当に基準そのものが厳しすぎるのであれば、その基準を現実と照
らし合わせて適正化していくことは、ひとつの考えではないかと思
う。
 
(了)



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