2842.中東情勢とドル支配体制の崩壊



      中東情勢とドル支配体制の崩壊

      −イラク撤退がサウジアラビアに及ぼす影響―

                        2008.1.3

現在、アメリカ石油主義はジレンマに陥っている。

中東の石油獲得のために2003年3月に開始されたイラク戦争は、原油
高騰時代の到来と時期一致し、その原油高が原因となり、ドル安を
加速させている。アメリカによる中東・アフリカでの中国との石油
争奪戦が進行している中、原油高騰がアメリカ経済の性格により、
石油獲得量との採算がまるで合わないほどに、ドル安を進行させて
いる。

半年前と比べ確度を高めたアメリカ民主党政権の発足は、その4年
の政権中に世界のドル体制崩壊を招く事になるのは決定的だろう。
http://quote.yahoo.co.jp/q?s=USDJPY=X&d=c&k=c3&a=v&p=m130,m260,s&t=ay&l=off&z=m&q=l&h=on

『SAPIO』今年1月23日号で、高齢のZ.ブレジンスキー(リベラル)
が段階的イラク撤退論を主張しているが、米軍のイラク撤退は、イ
ラクと中東でのイランの支配力・覇権を増大させるのはすでに常識
論だ。米軍のイラク撤退は、スンニー国家サウジアラビアにとって
軍事的に裏切り行為と映り、これが契機となって、昨年後半から言
われているサウジアラビアのドル本位制からユーロ本位制への切り
替えを招く可能性は充分にあると思う。

イランが核兵器を保有した場合、サウジアラビアは核兵器開発に踏
み切るとかなり以前から言われていた。現在、サウジアラビアはイ
ランが核兵器開発に成功した場合を想定し、核兵器開発の技術供与
をしてくれる国を考えているはずだが、アメリカは他国に核兵器開
発の技術供与をした例はない。まして社会治安が悪く、腐敗してい
て、過激派による政権転覆の恐れのあるサウジアラビアへの技術供
与など考えられない。

ここで考えられるのは、中国共産党によるサウジアラビアへの核開
発援助だ。

       サウジアラビアと中国の石油協力

2006年6月のアルジャジーラは、アメリカの国家安全保障評議会の石
油問題分析担当者であるケネス・ポラック氏とのインタビューの中で、
「中東産油国は、中国がやがて同地域における米国の覇権に取って代
わるだろうと見るようになっている。」との見方を載せているが、
これは至極当然の見方だ。

「石油をめぐる米・中の角逐 米国の中東覇権に潜在的な脅威 
[2006年6月29日 アルジャジーラ]」
http://www.asyura2.com/0601/war81/msg/747.html 

上記のアルジャジーラの記事から引用すれば、
<頑固な反共国家で、米国企業が油田開発に当たってきたサウジア
ラビアでさえ、米国との外交関係が今後、悪化する場合に備えて、
中国を自国の石油・ガスの受け入れ先として関係改善しようとして
いる。

ポラック氏は「9・11事件の結果、起きた米国での反サウジの動きを
見て、サウジは、米国との戦略的提携関係が悪くなることもあると
深刻にとらえたのです。基本的には、サウジは米国に代わるものが
必要でした」と述べた。>

<(米国の)カトー研究所のテッド・カーペンター副所長(国防・
外交政策担当)はアルジャジーラに対し、「現在、サウジは中国を
非常に重要な石油のお客さんと見なしていますが、今後の数十年間
で、ますます重要性を増すでしょう。」と語った。>

ハドソン研究所の日高義樹氏は、サウジアラビアと中国の石油協力
体制は1999年から始まったとし、中国のサウジアラビアへの接近を
2006年1月に『米中石油戦争がはじまった』の著作で警告し、おおむ
ねこう述べている。

<中国はイランの石油はもとより、新米国家のサウジアラビアやク
ウェートの石油にも手を伸ばしており、一例を挙げれば、アメリカ
資本であったサウジアラビアの国立石油企業サウジ・アラコムの株
の20%を現在中国が取得、他の石油共同事業を見てもサウジアラビ
アは中国寄りの姿勢を強めつつある。>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569648061/qid=1144597148/sr=8-1/ref=sr_8_xs_ap_i1_xgl

    サウジアラビアのドル本位制からの脱退

さて、現在おきている世界的ドル離れは、原油高騰の長期化、競争
通貨の力の規模とドルの置かれている軍事情勢などからして、従来
のドル安危機とは比較にならないと言われている。ドル体制を最も
支えているのは、サウジアラビア・リヤル、日本円、中国人民元の
3つの通貨だ。

ヨーロッパのユーロと共に、ルーブル・ロシアと反米連合を作り、
ドル体制打倒を目標とする中国は、すでに「4000憶ドルとも1兆ド
ルとも言われる貿易によってかき集めたアメリカのドルを、金かユ
ーロに変えようと動き始めている」。
http://www.amazon.co.jp/%E8%B3%87%E6%BA%90%E4%B8%96%E7%95%8C%E5%A4%A7%E6%88%A6%E3%81%8C%E5%A7%8B%E3%81%BE%E3%81%A3%E3%81%9F%E2%80%952015%E5%B9%B4%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E5%9B%BD%E5%AE%B6%E6%88%A6%E7%95%A5-%E6%97%A5%E9%AB%98-%E7%BE%A9%E6%A8%B9/dp/447800319X/ref=sr_1_1?ie=UTF8&s=books&qid=1199347642&sr=1-1

いま、湾岸協力会議(GCC)がドルペッグ制や自国の通貨切り上げな
どを検討・協議しているが、サウジアラビアが中国との結びつきを
深めている中で、サウジアラビアが、ユーロに対して余りにも安く
なっているドル本位制から脱退すれば、湾岸諸国を始めとする多く
の国々でドミノ現象がおき、世界のドル体制は一挙に崩壊する可能
性は確かに高いだろう。

前述の『SAPIO』1月23日号の誌上では、カレル・ウォルフレン氏が
、「もしドルが崩壊しかかれば、中国はドルをサポートしないだろ
う」という北京大学の専門家の話を短く紹介している。

サウジアラビアのドル本位制からの脱退について、前述の日高氏は
、昨年12月に出版された著作、『資源世界大戦が始まった』の中の
「石油高がドル体制を終焉させる」の章で、アメリカは脱退阻止の
ために、アメリカの「強力な軍事力」を切り札として切って来ると
予想している。これには、イランからの攻撃に対するサウジアラビ
アの安全保障の約束も含まれている。しかしサウジアラビアからす
れば、暴落するドル資産による財政悪化と、それによってカロリー
を騰げるであろう国内での過激派のテロと社会混乱をも恐れ、(過
激派による政権転覆などがおこらないうちに)ドル本位制からの脱
退を選択する事になると思う。

なぜなら、この千載一遇の状況を、中国共産党が見逃さないと考え
るからだ。

米軍のイラク撤退後の、イランの核への脅威が高まっているサウジ
アラビアに対して、中国共産党が核兵器開発の技術供与のオファー
をかけたらどうなるだろうか。

イランのアハマディネジャドは、世界のドル支配体制を崩壊させる
という目的のためならば、中国によるサウジアラビアへの核開発援
助を容認するかもしれない。イランの核兵器開発は中国による技術
供与が行われていると見られているが、一国による中東世界の覇権
を狙うイランは、アメリカのドル体制が崩壊した後、中国とロシア
の力をかりてイスラエルとの戦争に勝ちさえすれば、核兵器を持っ
たサウジアラビアを攻め落として野望を実現できる。

また、サウジアラビアに対して中国による核兵器開発の技術供与の
オファーが行われた場合、それが初めからイランと中国による「罠
」であり、謀略である可能性もある。

関連リンク:
「『イラク撤退論』と中国による中東石油支配の始まり」
http://www.asyura2.com/07/war91/msg/889.html

参考文献:

『資源世界大戦が始まった』 日高義樹 ダイヤモンド社 2007年12月刊

『米中石油戦争がはじまった』 日高義樹 PHP研究所 2006年1月刊

DOMOTO

http://www.d5.dion.ne.jp/~y9260/hunsou.index.html



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