「セルロイド・クローゼット」



同性愛映画の返還を描いたドキュメンタリー。
題名の「クローゼット」には二重の意味が込められている。
ひとつは文字通りセルロイドでできているフィルムを保管する場所の比喩。そして もう一つは、カミング・アウト(自分がレズビアン、ゲイである事を明らかにする こと)で被る、家族、友人、社会による差別と偏見からの逃げ場所の比喩の事。

検閲の厳しかった昔のハリウッドで、いかにして検閲の目をかいくぐり、ゲイが 自己主張をしていたかを多数の映像と共に俳優や関係者が当時の背景を振り返り ながら語っていますが、あの名作にはああいう裏設定があったのかー、と目から ウロコ、ワクワクしながら観ていました。
はっきり言って今まで観たどんなゲイ映画より面白く、今年の私のナンバー・ワン となりました。

特に「ベン・ハー」のメッサラは実はベン・ハーに恋していて、彼が執拗にベン ・ハーを虐待するのは、恋情の裏返しだったというやお*も真っ青の設定。
だけど、ほとんどが妄想の産物であるや*いと違ってこちらはちゃんと脚本家が 意図したものだというのがスゴイ。
バリバリの保守派であるチャールトン・ヘストンには、この裏設定を内緒にして、 話の分かるメッサラ役のスティーブン・ボイトだけに話して聞かせたそうです。
そう言えば、メッサラの異常とも言えるベン・ハーへのこだわりと憎悪は成就しえ ない自分の想いへの苛立ちや怒りから来るものだと思えば全てが符合します。 「ヒッチコック」の「ロープ」は、知る人ぞ知る・・だそうですが、初めて観たの は、中学生の頃だったのでそんな事全然想像もできなかったですね。
他に「理由なき反抗」のジェームズ・ディーンに寄せる孤独な少年の想いや、「レ ベッカ」における家政婦の前妻レベッカへの度を超した崇拝など暗号の様に散りば められたその手のシーンの数々は、同性愛者が観れば一目瞭然なのだそうです。

かつてのハリウッド映画は、最大公約数の価値観に照準を合わせて来た為、米国の 平均的価値観を逆なでする様な事には手を出せなかった。
描いたとしても、嘲笑の対象であったり、悪役であったり、オードリー・ヘプバー ンとシャーリー・マクレーン主演の「噂の2人」の様にありえざるべき汚らわしい ものとして糾弾されました。
こう考えると一見お堅い英国などよりアメリカははるかに保守的なのかも知れません。 まあ、英国は個人主義で自分にさえ関わりなければ、人が何をやろうが黙認する 傾向にあるみたいですが。

かつてのハリウッドで同性愛があってはならないものとして隠蔽されていた時代に は、友情にかこつけてその濃密なセクシャリティを描き出すしかなかったのですが、 大きな変化が現れたのがベトナム戦争以降で、「ベトナム戦争や国家指導者の連中 によってその醜い本性をさらけ出しその幻想が崩壊しつつある国家」アメリカに対 して中誓を誓うのを辞めたゲイ達が自己を主張し始めたらしいのです。
ゲイを背定的に描いた初めての作品はウィリアム・フリードキンの「真夜中のパー ティ」。その後この監督は、「クルージング」でゲイ世界を何か得体の知れない恐 ろしげなものとして描き、ゲイ団体の抗議の対象となったというのも皮肉なもので すが・・

同性愛は映画で描かれぬ最後のタブーで、その性質は今も余り変わっていない様に 思われますが、まだまだ主流にはほど遠いものの水面下では、ゲイ映画は静かなブ ームとなっています。
それでも依然として差別はあり、「トーチソング・トリロジー」では、アーノルド の恋人アランは、ゲイを忌み嫌う心ない人間達によって虫けらの様に殺されてしま います。差別があるからこそ、皆闘っているわけですね。 「クルージング」はともかく、「羊達の沈黙」や「スリーパーズ」で女装趣味の人 間や同性愛者を悪役にしている、と重スミの様な抗議をするのは、今までさんざん 差別にさらされてきた同性愛者達がナーバスになっているからかも知れません。

英国に演劇留学していた知り合いによると男子学生の半数がゲイかバイだそうで、 芸術方面にゲイが多いとなると必然的に映画関係もそうなり、ハリウッドを彼らが 支えていたと言っても過言ではないのでしょう。
その彼らを「見えない人間」「あり得ざるもの」として黙殺してしまう映画関係 者も辛かったでしょうね。


「セルロイド・クローゼット」に登場する主な映画

「モロッコ」「お熱いのがお好き」「ビクター・ビクトリア」「噂の2人」「レベッカ」「ベン・ハー」「氷の微笑」「ロープ」「真夜中のパーティ」「失われた週末」 「理由なき反抗」「スパルタカス」「紳士は金髪がお好き」「チョコレート・ウォー」 「熱いトタン屋根の猫」「パートナーズ」「ワイルド・アット・ハート」 「48時間」「クルージング」「カラー・パープル」「クライング・ゲーム」 「ミッドナイト・エクスプレス」「アナザー・カントリー」「マイ・ビューティフル・ランドレット」「僕たちの時間」「フィラデルフィア」「トーチソング・トリロジー」 「プリシラ」「恍惚」「ミセス・ダウド」「テルマ&ルイーズ」


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