どこから来たのしょぼガラス

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どこから来たのしょぼガラス


■第57回/どこから来たの しよぼガラス

どこから来たのしょぼガラス表紙 作者のまるひかるさんは、「みわくの森」というオリジナル・イラストやWeb絵本を公開しているサイトを運営されている方で、知り合ったきっかけは、筆者が絵本関連の相互リンクをお願いしたことでした。この「みわくの森」については、実際のアクセスしていただき、サイトをご覧いただくとして、ここではあえてサイト紹介は省略させていただきます。

 相互リンクをお願いするわけですから、当然、筆者はそのサイトを駆け足ではありましたが、ざっと拝見し、その時に管理人であるまるひかるさんが絵本を出版されていることを知りました。タイトルは「どこから来たの しょぼガラス」という本で、ちょっと寂しそうな表情をした背中にリュックを背負った一羽のカラスが描かれています。「内容の一部をご紹介」というテキストリンクをクリックすると、やはり寂しそうな表情をしてうつむいた、モノクロのカラスが描かれています。
 
そして「カラスはそのままずっとそこにいました。群れの中で生活していた頃をぼんやりと思い出していたのです。お父さんの顔もお母さんの顔も知らずに大きくなったこと。みんなのまねをしながら飛ぶことやエサをとることを必死で覚えた事。でも もうその群れも仲間にはしてくれません。だんだん日が沈んであたりがうす暗くなってきました。」…という文章が添えられていました。

 あくまでも、相互リンクを依頼するために訪れたサイトでしたので、その時はそれですぐに別のページを閲覧するために移動してしまったのですが、なぜかあの寂しそうなモノクロで描かれたカラスが気になりました。あのカラスはいったいなぜ、あのような寂しそうな表情で座り込んでいたのだろうか?

 気になりだすと、どうにも気持ちが落着かないものです。早速ネット書店にアクセスし、この「どこから来たの しょぼガラス」を注文しました。今はネットで簡単に絵本も注文できるから便利です。2〜3日後には早々と到着しました。サイズはB5サイズでソフトカバータイプの絵本で32ページでした。早速、表紙をめくりました

 始まりはちらちらと雪が降る、アスファルトの道路の脇をとぼとぼと歩くカラスのシーンです。どうやら、このカラスは旅をしているようです。途中、犬に「どこから来たんだい?」と尋ねられ、このカラスが車にぶつかって羽と足を怪我してしまい、仲間と一緒に飛べなくなってしまったために、仲間からつまはじきにされてしまったことがわかりました。

 カラスが河原の土手でひと休みして、拾ってとっておいたビスケットのかけらを食べていると、その茂みの中から一匹のネコがそれを見ています。そして、日が沈み、あたりが薄暗くなってきた時、カラスの隙をついて、ネコが大事なリュックをくわえていってしまいました。そのリュックには、カラスが今まで懸命に集めた食べ物が入っていたのです。生きていくための大切な食料が入っていたのです。

 三日後、草むらの中でリュックは泥だらけになって見つかりました。でも、中身はすべてなくなっていました。あまりのショックと疲労、そして空腹で、カラスは脱力して座り込んでしまい、もう動く元気もありません。そんな失意のカラスに、さらに春の嵐が鞭打ちます。冷たい雨、強い風…絶望的なカラスに自然はさらに追い討ちをかけます。絶望のどん底でカラスは泣き叫びます。
「ぼくはもう何もできないよ」「生きていてもしょうがないよ」
強烈な心の叫びです。激しい嵐の中でカラスは張り裂けんばかりに泣き叫びます。そして疲れ果てて「もう……がんばらなくてもいいよね」とつぶやくと、カラスは眠るように気を失ってしまいます。

 筆者はこの場面まで来たとき、じつはその後のページをめくるのを躊躇しました。疲れ果てて草むらの中で雨に打たれて気を失ってしまったカラス…。その直前の嵐の中で大粒の涙を流しながら絶叫するカラスの表情と、「ぼくはもう何もできないよ」「生きていてもしょうがないよ」というカラスの叫び言葉があまりにも強烈だったために、そして「もう……がんばらなくてもいいよね」という、精魂尽き果てたあきらめの言葉が、その後の展開を不安にさせたのです。「もしかしたら、このカラス…」…想像するとページをめくるのが怖かったのです。

 相互リンクをお願いした際にやり取りした、作者のまるひかるさんとのメールで、まるひかるさんが、この絵本を出版された当時の状況として「この絵本は挫折と生活苦の中、無謀にも少しばかりの貯金をはたいて自費出版したものなのですが…。絵もモノクロで表紙も薄く、立派な本ではありません。それでも「感動しました」という感想が届くたび、「出版して良かった」という思いに満たされております。」というコメントを記してくださいました。

 そうか!作者のまるひかるさんはこの主人公のカラスと同じように苦しみの中からこの絵本を自費出版されたのだから、このカラスはまさしく、作者のまるひかるさんの姿でもあるのだ、それならば、このカラスも絶対大丈夫だ!…筆者は作者のまるひかるさんからのメールを思い出し、ページをめくりました。

 嵐が去った静かな朝…カラスは葉っぱの先に止まっていたてんとう虫の声で目覚めます。てんとう虫は猛烈な嵐の中で、カラスの羽に守られて助かったのです。「ほんとうにありがとう」…お礼を言って、飛び去るてんとう虫を見送りカラスはゆっくりと立ち上がりました。ラストシーンは菜の花に背後に、しっかりと立ち上がったカラスの後姿です。

 PRっぽくなってしまいますが、筆者が共同出版した大人の癒し絵本「I will…」にこの「どこから来たの しょぼガラス」は通じるものがあるように思います。怪我をしたために仲間はずれになり、放浪することになった一羽のカラスはさらにいろいろな苦難の追い討ちをかけられます。道端を歩いていて「きたない、あっちへ行きなさい!」と人間に水もかけられます。ネコに大事なリュックを盗まれ、蓄えておいた食べ物を全部失います。そして強烈な嵐に打たれます。

見開き 誰だって、あまりにもたくさんの「不運」に見舞われれば失意のどん底に転落します。絶望感が極限に達し、心の叫びを発します。「ぼくはもう何もできないよ」「生きていてもしょうがないよ」…カラスの絶叫は、もしかしたら作者のまるひかるさんのコメントに記されていた、この絵本を自費出版されるまでに至る姿なのかもしれません。でも、まるひかるさんは、立派に素晴らしい絵本を出版されました。生きていくために、多分ゆっくりと立ち上がったのでしょう。この絵本のカラスのラストシーンのように…。

 この絵本は前述のまるひかるさんのコメントにも記されていた通り、モノクロ絵本です。しかし、恐らくこの絵本を読まれる方はまったく違和感を覚えないでしょう。いや、むしろモノクロであるべき作品だと筆者は思いました。モノクロの絵本…というと、必然的に色調的には暗くなりますから、お話そのものもネガティブだと先入観を持つかもしれません。でも、この絵本は違います。余分な色調を必要としなかった内容でありながらも、実はフルカラーの作者の思いが込められていると筆者には思えます。

 …絵本には本当にいろいろな世界があります。見ていておもしろいお話、絵だけでも十分に楽しめるお話、何かを教えてくれるお話、心を揺すぶられるお話…。どんな絵本がお好みかは、読む人の感性です。今回ご紹介した「どこから来たの しょぼガラス」は間違いなく心に訴えかけてくる絵本です。作者のまるひかるさんは、前述でもご紹介したようにご自身の絵本を「絵もモノクロで表紙も薄く、立派な本ではありません。」とコメントされていますが、とんでもありません。体裁などまったく関係ありません。豪華な作りをしていたって、中身が薄ければ誰が評価するでしょうか。まるひかるさんのもとに寄せられる「感動しました」という多くの読者の「声」は、まさにその表れです。

 小さなお子さまには読み聞かせで、そして読書できるお子さまにはもちろん、大人が読んでもきっとたくさんの人の心に訴えかける素晴らしい絵本です。是非お読みになってください。このような素晴らしい作品に、もっともっと明るい光が当たることを願ってイチ押しのおすすめ絵本として紹介させていただきました。


◆どこから来たの しよぼガラス
絵:まるひかる●遊絲社刊●800円(税別)●B5判●32ページ
どこから来たのしょぼガラス表紙
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