遅すぎた『紅孔雀』

 白馬童子が電光二刀流なら、那智の小四郎は神変胡蝶流の二刀を使う。那智の小四郎は『紅孔雀』の主人公だよ。『紅孔雀』は、北村寿夫原作による“新諸国物語”シリーズの第3弾にあたる。
 “新諸国物語”というのは、NHKがこども向けラジオドラマとして、1952年から開始した伝奇ロマンなのだ。1年1話完結で『白鳥の騎士』『笛吹童子』『紅孔雀』『オテナの塔』『七つの誓い』と56年まで続いた。

 室町時代を背景に、正義の白鳥党と、悪の権化のされこうべ党との対決をテーマに、怪奇と幻想に満ちた物語が展開される。このような題材を映画界が見逃すわけがなく、『白鳥の騎士』が53年に新東宝(監督:組田彰造、主演:大友柳太朗)で映画化される。私の友人で、この作品を知っている者は一人もいなかったので、評判にならなかったのだろうね。

 しかし、54年に東映が製作した『笛吹童子』は大ヒットとなった。私と同世代で、笛吹童子を知らない者はいない。監督は萩原遼。中村錦之介、東千代之介、大友柳太朗の人気が不動のものとなった。 翌55年には『紅孔雀』が同じスタッフ・キャストで製作され、『笛吹童子』を上回る大ヒットとなる。『笛吹童子』の興行収入が5億円、『紅孔雀』が約11億円と、東映黄金時代の礎となったのだ。

 『オテナの塔』は、56年に東宝(監督:安田公義、主演:中村扇雀)で、『七つの誓い』は、57年に東映(監督:佐々木康、主演:中村錦之介)で映画化されたが、前ニ作の印象が強烈なので、影の薄い存在となっている。

 “新諸国物語”はNHKのラジオドラマだったことから、全くテレビ化されておらず、やっとテレビ化されたのが61年の『紅孔雀』だった。主演は沢村精四郎(現、沢村籐十郎)だった。
 物語は、世界の平和のために使用するようにと、ローマの使者から譲られたアステカの秘宝の隠し場所を示す紅孔雀の鍵をめぐって展開される。若き剣士・那智の小四郎、彼を助ける謎の浪人・五升酒の主水、風小僧、幻術使いの信夫一角、妖婆黒刀自、盲目の美剣士・浮寝丸、海賊の網の長者など。怪人、剣豪、美女が入り乱れ、波瀾万丈の勧善懲悪の物語となっている。
 主題歌はもちろん福田蘭動によるラジオ・映画でもおなじみのメロディ。ラジオという音だけで想像していた世界が、映画で具体的に映像化され、脳裏にしっかりとインプットされた私にとって、テレビの『紅孔雀』は所詮二番煎じで、物足らない作品だった。映画より以前に映像化されていれば、また違った感じになっていたろうね。
 悪役商会リーダーの八名信夫が、映画では大友柳太朗が演った五升酒の主水で出演していた。プロ野球(東映フライヤーズ)を辞め、俳優としての最初の作品じゃないかなあ。

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