『矢車剣之助』はアイドル歌手

 私が小学生時代(1955〜61年)のマンガ界の四天王といえば、手塚治虫、武内つ
なよし、横山光輝、桑田次郎といったところか。この4人に続くのが堀江卓だろう。

 堀江卓作品の魅力は、躍動感あふれる描写力と荒唐無稽さにある。少年マンガとい
うのは、少年が拳銃をぶっ放したり、自動車を運転したりして、少なからず荒唐無稽な
ところがあるのだが、堀江作品は完全にぶっ飛んでいた。
 チャンバラマンガなのに武器は拳銃。それも機関銃みたいに撃って撃って撃ちまくる。
尽きることなく何発でも弾丸が飛び出すのだ。敵の数も半端でなく、何十人という大群が
一斉に襲いかかってくる。赤胴鈴之助のように、“真空斬り”という秘術を使って倒すの
であれば納得性があるが、拳銃だけで敵をいっぺんに倒すというのは、チャンバラの枠
を完全に超えていた。当時、赤や黄色の巻火薬を入れるオモチャのピストルで、真似し
てパチパチ鳴らして遊んだが、あんな連発はできなかった。当り前の話だが……。

 堀江卓の代表作というと、「少年」に連載されていた『矢車剣之助』と、「少年画報」に
連載されていた『天馬天平』だろう。個人的には「痛快ブック」に連載されていた『つばく
ろ頭巾』(画像右)が好きだったが……。

 矢車剣之助のトレードマークは額の三日月傷。必殺・車射ちという曲射ちに加えて、
矢車斬り、片手矢車、みだれ矢車、車返しといった秘剣の使い手。逆乗り、立乗り、逆
さ乗りといった、愛馬ゴローとの人馬一体となった馬術の妙技も冴える。敵を油断さす
ために黒覆面の“夜の帝王”にも変身する。この“夜の帝王”の覆面というのが、眼から
上を隠した“快傑ゾロ”タイプのもので、それまでの時代劇にはない覆面で目新しかった。
 天馬天平は、拳銃の他にムチを武器としていた。ムチの使い方が凄まじく、これまた
今までのチャンバラにはないヒーローだった。どちらも、後にテレビ化されたが、おとなし
いチャンバラ映画になっていた。

 『矢車剣之助』が登場したのが1960年。主役はスリー・ファンキーズ加入前の手塚
茂夫。スリー・ファンキーズというのは、“あの娘かな、この娘かな……”とヘタクソな歌
を唄っていた人気アイドルグループ。高橋元太郎(水戸黄門で、ウッカリ八兵衛を演っ
てた人)が抜けた後、加入したのだ。
 スポンサーはニチバン。セロテープが、ニチバンの登録商標であることを、CMを通じ
て知る。他社の製品はセロハンテープといわなきゃいけないのだ。
 当時、松島トモコと人気を二分していた童謡歌手の小鳩くるみが妹役で出演していた。

 『天馬天平』のテレビ放映は1964年。印象に残っていない。堀江卓の作品は、一枚
一枚の絵が、屏風絵のようなスペクタクルと、スピード感を持っているので、実写はもち
ろんのこと、アニメ化してもその迫力は伝わらない。画風は異なるが、白土三平の作品
と同様に、マンガの中において最も効果を発揮する絵なのだよ。

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