酔いどれ先生とホッピーの時間          
                   ☆伍東道生

 王子というところで生まれた僕
は、当然のことながら王子小学校
へ通うことになるんですが、小学
校の正門の前に『よだ屋』という
飲み屋があったんですね。学校の
前が飲み屋という、とてもいい環
境の学校だったわけです。
 さらによいことは、ランドセル
を背負って正門を出てくるとすで
にお酒の匂いがプーンとしてくる。
小学校ですから、遅くたって4時
頃には「みなさん、早く帰りまし
ょう」なんぞという放送が流れて
下校しなければならない。その頃
すでに開いてる、非常によい飲み
屋だったわけです。
 さすがに冬は表の引き戸を開け
ておくことはなかったけど、夏は
引き戸を開けっ放しにしておくん
ですね。学校の帰り、縄のれん越

しに中を盗み見すると決まって一
人のオヤジが、それも同じ席でい
つも飲んでいるんです。このオヤ
ジを小学校の生徒たちはみんな知
っていました。なぜ知ってるかと
いうと、僕たちの学校の先生なの
ですから。
 生徒が帰る頃に、もう学校の前
の飲み屋で飲んでる。なんて素晴
らしい先生なんでしょう。朝など、
教室に入ってくるとお酒くさいと
きもあったそうです。ただお酒を
飲んでも問題を起こさないところ
がプロフェッショナルですね。
 で、この先生、野田先生という
のですが、『よだ屋』でひたすら
飲んでいたのがホッピーでありま
した。
「おーい、ホッピーまだかぁ!」
 通りまで先生の声が聞こえまし


た。
 こんな先生、今じゃすぐPTA
が問題にするんでしょうね。『よ
だ屋』で飲んだくれてる先生を見
ても、親たちは「また、やってる
よ」とニヤニヤ笑ってた古きよき
時代のお話でした。

 



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