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東宝東和提供白黒スチール
PHOTO by TOHO-TOWA

シンプル・プラン

A SIMPLE PLAN

1998年アメリカ 監督サム・ライミ 脚本スコット・スミス 撮影アラー・キビロ 出演ビル・パクストン/ビリー・ボブ・ソーントン/ブリジット・フォンダ/ブレント・ブリスコー ●122分 東宝東和配給 1999年9月よりみゆき座ほか東宝洋画系にて公開予定

スコット・スミスのベストセラーを、著者自身の手で脚色したミステリー・サスペンス。森の中に墜落した小型機のなかから、400万ドルを超える大金をみつけた3人の男たちが繰り広げるモラルの葛藤を描く。


STORY

 飼料店に勤めるハンク(パクストン)は、妊娠中の妻サラ(フォンダ)と幸せな家庭を築いている平凡な男。大晦日の日、兄ジェイコブ(ソーントン)と、その友人ルー(ブリスコー)と共に父の墓参りに出かけた彼は、キツネを追って入った森のなかで墜落した小型機を発見。その中に、440万ドルの大金をみつける。
 「どうせ麻薬か何かの汚れた金だ」と、横取りを主張するジェイコブとルーにそそのかされるように、金を持ち帰ることにしたハンク。「ヤバいことに巻き込まれそうになったら金を燃やせばいい」と考える彼だったが、事はそう簡単にすまなくなる。
 翌日、「少し金を戻しておいたほうがいい」というサラの助言に従って、ジェイコブと共に森へ向かったハンクは、偶然通りかかった近所の老人を成り行きで殺してしまう。最初に老人に殴りかかったのはジェイコブだったが、息を吹き返した老人にとどめをさし、事故にみせかけて死体を始末したのはハンクだった。彼の平凡な人生が、音をたてて崩れ始める……。

SHIMIZU ★★★(99/05/31 徳間ホール)

まずはカラスの横顔に、深雪が広がる山間の場所。白と黒のコントラストで始まる。キツネが鳥を襲い、カラスは「死肉をあさろうと待っている」。不気味な予感。コーエン兄弟一派のサム・ライミ監督による快作ミステリーです。雪の風景を象徴的に使ったルックは『ファーゴ』のコーエン兄弟のアドバイスを受けて撮影したそう。たしかに、「Greed」によって転がる奇妙な人間模様は『ファーゴ』っぽい雰囲気ですね。

この映画は「心の逆転」を主眼にした作劇です。冒頭のナレーションで「I WAS HAPPY MAN」と語り出す男、それが物語の主人公ハンク(ビリー・パクストン)。彼の住む町は『グレムリン』に登場したノーマン・ロックウェル調の町並。妻を愛し、まともな仕事につき、彼を敬愛する友人や仲間に囲まれた生活。善良を絵に描いたような彼が大晦日の日、うだつの上がらぬ兄ジェイコブ(ビリー・ボブ・ソーントン)と彼の飲んだくれの友人ルーの3人で、父親の墓参りに出かけた折り、雪に覆われた不時着飛行機を見つけた。機内には400万ドル(100ドル札で)の札束入りにバッグ。ドラッグマネーか。3人の思惑がめぐる。「これそアメリカン・ドリームだ」と浮かれるルーに、善良派のハンクは「夢(アメリカン・ドリーム)は盗むもんじゃない」と諭す。かくして、ハンクは金を預かり、もし飛行機が発見された時は、金を山分けすることにする。

タイトルは「シンプル」だが、彼らのプランが次第に各々の思惑を秘めて「複雑」になっていくのが、この映画の眼目だ。僕がすぐに想起したのが、3人の男が発掘した金をめぐり争うヒューストン監督の傑作『黄金』です。ここでも「大金」を前に、各々の欲望が人間性を変化させていきます。

ここで面白いのがハンクの妻サラ。妊娠中の彼女は食料品店の広告に付いていた割引券で、ディーナーの買い物をする生活に飽き飽きしている。そんな妻に善良ハンクは大金のことをばらしちゃうところから、物語の綻びが始まる。サラはちょうど悪魔の囁きをするマクベス夫人的な存在です。彼女との囁きから、大金のうち、50万ドルだけ飛行機にもどすが、そのさなかにハンクは森に入ろうとする爺さんの口をふさぎ窒息させて死なせています。心ならずも犯罪に手を染めたハンクが事故にみせかけようとする。善良だったハンクが転げるようにして犯罪から犯罪へと手を染めていく展開です。

彼と対局にある邪悪な存在に見えた兄ジェイコブが、この映画のキーマン。分け前を要求するルーを陥れるかどうか、善と悪の綱引きに悩むキャラだ。ジェイコブにとってはルーもハンクも仲間。でも、ハンクは「どっちの味方だ?」とジェイコブに迫る。そんななかで次のプランは練られるのだが、妻役のブリジッド・フォンダがすごみたっぷりの悪女を好演する。ルーに告白ゲームを仕掛け、テープに録音しちゃう手を考える。「やってみる手はあるわ。なにも失わないのよ」とハンクに囁く図も面白いです。

後半は事件が事件を呼ぶ展開だが、そのなかで対峙するジェイコブとハンクの、心の通い路がこの映画のヒューマンな味わい。ジェイコブから初めて父親の死の真相を聞き、自分の善良さがそれらの犠牲の上に出来てきたことを知らされる。人間の心を身をもって示そうとするジェイコブの「善良」キャラが終盤に地位を占めていく構成。ジェイコブは生まれた場所で農場をやるのが夢。金があれば結婚もしたい。でも、いまの自分は役立たずのまま。生きる価値もない。せめてハンクのたしになれば、と我が身をなげうつ姿が、ビリー・ボブの、あわれを誘う好演も手伝い哀切に心に響いてくる。

ジェイコブとハンクのキャラの反転していくあたりが、この映画の作劇の妙といったところでしょうか。それにしてもビリー・ボブという俳優は、映画ごとに風貌を変える「7つの顔を持つ奇優」とでも呼びたいところですね。

最後にはこの手の犯罪ものの定石通り、犯罪は引き合わないという教訓もちゃんとあります。余談ながら、ハンクとジェイコブの撮影フィルムがノースウェスト機で運搬中に紛失、再度ミネソタで取り直したという裏話も。

YAZAKI ★★★(99/05/31 徳間ホール)

「スティーブン・キング絶賛」のフンドシにひかれて原作を読んでから、ずーっと映画化を心待ちにしていた作品。実は『死の接吻』のプロモーションで来日したニコラス・ケイジにインタビューしたとき、「次の出演作は『シンプル・プラン』で、妻のパトリシア(アークェット)との共演を考えている」という話を聞いておったのですが、あれからケイジはオスカー取って超メジャーな人になってしまい、夫婦初共演の企画は流れてしまった模様。で、結局、主人公ビル・パクストン、妻ブリジット・フォンダ、兄ビリー・ボブ・ソーントンというキャスティングに落ち着いた。別に文句のある顔ぶれではないけれど、個人的にはケイジ&アークェット版で見てみたかった気もします。

たまたまこの試写があった日は、SHIMIZU氏とつるんで『ウェイクアップ!ネッド』→『シンプル・プラン』のハシゴをし、見終わったあと、「大金ネコババがらみの話で、後味がいいのと悪いのとの2本立てだったね」ということで意見が一致しました。両方とも、主人公がタナボタで大金を手にするお膳立ては同じ。でも、話の発展の仕方は正反対。『ウェイクアップ!ネッド』のほうがおおらかな人間讃歌へとふくらんでいくのに対し、こちら『シンプル・プラン』は、人間の醜さを透かし見るようなドロドロしたドラマに収束していく。描かれるのは、「悪銭身に付かず」の教訓であり、強欲に端を発する不信感であり、大金を手にしたことによって失われるものの大きさであり、そして、イザというときの女のコワサであると。ま、ひとことで言うと、「ありがち」なことが語られているわけです。

ただ、原作者自身が執筆したシナリオは、十分に力強い。新たな展開が起こるたび、「さあ、あなたならどうする?」という問いかけを発していく作劇は、観客を映画に引き込んで行くだけの説得力を備えています。ビル・パクストンが演じる主人公のハンクは、墜落機で発見した大金を家に持ち帰った瞬間から「降りられないゲーム」に巻き込まれたかのように、ボロ隠しとウソの上塗りを重ねていく。そんな彼の姿を見るにつけ、こっちは「自分だったらどうする?」と、考えずにはいられなくなる。自分なら金を持ち帰るか? 金のために人が殺せるか? どこまで自分を欺き続けることができるんだろう?……なんてことを、見ている間中、ずーっと考えせられることになるわけね。

だから、見終わったあとはけっこう疲れるし、その疲れも心地いいもんじゃない。けど、いっぽうには、「時効2日前にして自首した殺人犯の心境」みたいなものを追体験するような面白さがある。それが、とりもなおさずこの映画の魅力になっているのだと思います。

キャラクターに関しては、原作よりもすっきりと整理され、各々のポジションがはっきり決められている印象。ハンクの妻サラは、邪心を抱いた夫に対して悪知恵を吹き込むマクベス夫人っぽいキャラ。いっぽう兄のジェイコブは、己の罪深さを認識してボロボロに崩れていく「モラルの人」として描かれている。3人の関係は、ハンクが保身にまわって罪の上塗りを重ねると、サラが方向修正の計画を持ち出してきて夫をたきつけ、それにジェイコブがブレーキをかけようとするってな感じ。つまり、大金のかかったゲームを始めたハンクに、「やるなら徹底的にやれ」とハッパをかける妻がいて、いっぽうに「このへんでやめようぜ」と忠告する兄がいるという。でもって、欲に引っ張られたハンクは、ズルズルと妻のリードに押し切られ、最終的に「モラルの声」を消すところまで追いつめられてしまう。

こういう図式的な人間関係を用いつつ、ハンクが自分ひとりの力で築き上げたと思っていた幸せが、実は兄たちの自己犠牲によって成り立っていたことを明確に打ち出していく作劇は、原作にはなかった味わい。ただその分、兄弟のあいだにモヤモヤと渦巻く疑心暗鬼の思いが薄れてしまったのは、原作ファンとして残念なところだけど。

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