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ストレイト・ストーリーTHE STRAIGHT STORY 1999年アメリカ 監督デイヴィッド・リンチ 脚本ジョン・ローチ/メアリイー・スウィーニー 撮影フレディ・フランシス 出演リチャード・ファーンズワース/シシー・スペイセク/ハリー・ディーンスタントン ●101分 コムストック配給 2000年3月より丸の内ピカデリー2ほか松竹・東急洋画系にて公開予定 10年間仲違いしていた兄に会いに行くため、時速8キロのトラクターで旅に出た老人。ニューヨーク・タイムズに掲載された実話を、デイヴィッド・リンチ監督が映画化したロードムービー。 |
STORYアイオワ州ローレンスに住む73歳のアルヴィン・ストレイト(ファーンズワース)は、軽い知的障害を負った娘のローズ(スペイセク)とふたりで暮らしている。ある日、3歳年上の兄ライル(スタントン)が、心臓発作で倒れたという連絡が入った。兄と仲たがいして10年も口をきいていなかったアルヴィンは、この機会に兄に会いに行こうと決意する。だが彼は、杖ナシで歩くこともままならず、目が弱っている上に運転免許も持っていない。それでも、560キロ離れた兄の家まで自力で行こうと考えたアルヴィンは、即席のトレイラーを牽引するトラクターに乗り、時速8キロの旅に出発する。 |
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SHIMIZU ★★★☆(99/12/14 丸の内ピカデリー1) まず、この映画は、ちょっと「地図」を書きたくなる映画だね。主人公は73歳の老人アルヴィン・ストレイト。転倒して足を痛めた彼のもとに、76歳の兄が心臓病で倒れたとの報が入る。実は、アルヴィンは兄と仲違いし、この10年間は口もきいていない。でも、老い先短いふたりだけに、この機会に和解しなくては一生悔いを残す。というわけで、車の運転ができないアルヴィンは最初は芝刈り機で、それが壊れた後は小型トラクターで、時速8キロの頑固な自力の旅を開始する。 地図を広げると560キロの距離(かなりのもんだ!)。アイオワ州のローレイン(同じアイオワが舞台だった『フィールド・オブ・ドリームス』を思わす豊饒なコーン畑を何度もとらえる俯瞰ショットが、実に美しいのだ!)から、ウィスコンシン州マウント・ザイオンまで。車なら1日の道のりだけど、このノロノロのカメさん状態では6週間の旅。のどかなアメリカの自然にふれながら、人生をたどるようなロードムービーです。アルヴィンは野宿し、持参のレバーソーセージを火であぶり頬張る。淡々とした風情だが、この旅は「自分でやりとげたい」と人の助けを断る頑固さも手伝っての、こだわりの旅だ。そんな彼が、途中で出会った人たちに自分の人生の片鱗をかさねあわせていく。 ま、この手の作劇はないわけじゃない。ちょっと、旅のなかで人生を象徴的に見せていくミニマルな世界は、近所の河を泳ぎつぎながら、人の縮図を見ていくフランク・ペリー監督の『泳ぐ人』も思いだした。が、ここでの利点は圧倒的にまえむきで、人生が底光り(?)するような深い味が漂うことだ。物言わずして語る人生の哀感とでもいいましょうか。演じるリチャード・ファーンズワースがこの映画の最大の功労者。シワだらけの顔で、すべての人生を一瞬に物語を感じさせる深い存在感に、暫し感動を覚えるshimizuめです。僕は彼の『グレイ・フォックス』が大のお気に入りなのだけど、ファーンズワースって、やはり古き良きアメリカの気骨とでも呼びたい精神を感じさせる俳優。 彼はアメリカの原風景にすごくマッチしているんだよね。トラクターに乗る威風堂々とした物腰に、カウボーイ魂みたものする感じちゃうもの。 で、彼が出会う人との会話が、ひとつひとつ実感あふれる人生訓として素直に聞けるんだな。まず、妊娠5か月になった家出娘には、「木の枝」は1本では弱いけれど、束ねると強くなる。「その束こそが家族だ」と教えたりね。その娘が翌朝、木を束ねて置いていくなって情が通うシーンも泣かせるじゃない。そんなアルヴィンにはそういうだけの実感がある。というのも、自分のスローな娘ローズ(シシー・スペイセクが凄いの訛りの英語で快演!)への思いも重ね合わせたもの。養育能力を疑われた彼の娘が、生んだ子供から引き離されたつらい境遇が横たわっている。僕が好きだったシーン、その1がアルヴィンと娘ローズが窓辺から夜の庭を見ると、水が噴霧されるなか子供がボールで遊ぶ幻の情景が浮かぶところ。子を思う親の切なくも美しい心象なのだ。 一緒になった自転車チームの若者たちからは、こんな質問がでる。「年をとっていいことは?」「年をとって実と殻の区別がつくようになったこと。最悪のことは若い時のことを覚えていることだ」と言うアルヴィンにとって、若い時の記憶は忘れようとしても忘れられない苦い記憶。途中のバーでは戦争体験者のおやじと過去の体験を吐露する。実は、彼は欧州戦線で戦友を誤って撃ち、それがもとで酒びたりになり、なんとかリハビリで酒を断った。自ら「人間のクズ」と言う前歴の持ち主。それだけに、この旅は出会った人を「鏡」にして、自らを写しだし、純化し許しを乞うための心の旅なのだ。 その最後の「鏡」が絶縁していた兄である。ふたりが絶縁に至った理由は語られないのだけど、心荒んでいたアルヴィンとそれを諭そうとした兄。そんな関係が容易に想像できる旅なのです。アルヴィンの、許しを乞いたいと思う気持ちが終盤で一気に上昇する感じ。僕が好きだったシーン、その2は「よく星の話をした」という兄弟が、モノ言わず「星空」を見るだけで氷解する再会シーン。それがまるで「年老いたふたりの少年」を見るような心地よさなのだ。空を愛でる老境の人の美しさを改めて知ったといったら言い過ぎかな。 この映画では、天に星が瞬く夜空から、朝焼けの空、青々とした快晴の空、雲いっぱいの空、赤々と燃える夕焼けの空、と一日の空がめぐっていく。これらの空が僕の好きだったシーン、その3。それらの美しい情景は風や雨を感じ自然のなかに召される余韻を込めた、『バッドランズ』のテレンス・マリック的なアメリカの原風景。この映画は「空」を仰ぎみる映画でもあります。そう、この「星空」を中心に、様々に色や光を変える「空」模様が、この映画の「心の地図」に欠かせないポイント。前半で窓を伝う雨を「血流」に見立てる独特の(『ブルー・ベルベット』での庭先の散水演出に似た)演出を見せた異才デビット・リンチ監督。トラクターのアルヴィンの「点」と大いなる空とが相関しあい、ある種の自然と人とをつなぐ宇宙観が、全景としてそそりたつ感じなのですよ。心のダークサイドを見つめてきたリンチ監督だけど、リンチ・ワールドは、ここで新たな光を得た感じだね。 |
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YAZAKI ★★★★(99/12/22 松竹試写室) 「自分ひとりの力で行くことに意味がある」と言ってワゴン付きのトラクターに乗り、10年間仲違いしていた兄に会うため、560キロの道のりを6週間かけて旅するアルヴィン。その道中のエピソードに、彼の人生の重みがジワーッと滲み出てくる。回想シーンのようなチンケな手を使わず、どこまでもアルヴィンの旅にそくして話をすすめていくリンチのストレイトな語り口が、実に気持ちいい。従来のリンチ映画のファンは、このあまりの直球勝負になじめないものを感じるかもしれないけど、私はすこぶる気に入った。ちなみに、先日インタビューしたパトリス・ルコント監督も、この映画を『テルマ&ルイーズ』と並ぶ「お気に入りのロードムービー」にあげていたよ。 73歳のアルヴィンは、アイオワの小さな町で娘のローズと暮らしている。ローズは、軽い知的障害を負っているが、家事はきちんとこなすし、父を思いやる優しさも人一倍。彼女とアルヴィンは、たがいに助け合い、弱さを補いあって生きる関係だ。が、医者から歩行器をすすめられるほど足腰が弱っているアルヴィンには、そんな生活もそう長くは続けられないだろうという予感がある。「100歳まで生きるさ」とローズに言ったあと、「自分が死んだら、この娘はどうなるだろう?」という思にかられ、複雑な表情を浮かべるアルヴィン。兄が倒れたという知らせがもたらされたのは、ちょうどこんなふうに、彼が自らの老いと死期を意識しはじめた日のこと。人生の後悔をひとつでも少なくしたい。いまなら、まだ間に合う。そんな思いにせきたてられて、アルヴィンは、兄との和解を目的にした旅に出かけていく。 そう、彼にとって、これは贖いの旅だ。原因も忘れてしまうほど些細なことで兄とケンカした自分、それ以来意地を張って兄と口をきかなかった自分の愚かさをみつめ、許しを請うための旅。そして、同じようにガンコで愚かだった兄を許すための旅。だから、自分ひとりの力で行かなくちゃならないと、彼は思う。その志の高潔さが、この映画の感動の原点だ。 道中、アルヴィンはたくさんの人々と出会う。妊娠して家出した少女、キャンプ場で陽気に浮かれ騒ぐ若者たち、エンコしたトラクターの修理が終わるまで庭に居候させてくれた夫婦、その近所に住む老人、墓地で野宿するアルヴィンに声をかける牧師。彼らとの会話を通じて、決して「ストレイト」じゃなかったアルヴィンの人生の断面が、少しずつ浮かび上がってくる。 14人の子供をもうけ、7人が育った。妻は81年に他界。ローズには4人の子供がいたが、育てる能力がないとみなされて役所にとりあげられてしまった。戦争中、酒をおぼえてアル中になった。間違って味方の兵士を撃ってしまった……。「年をとって最悪なのは、若いころのことを覚えていることだ」と、アルヴィン自身が言うように、彼の思い出には、もはや取り返しのつかない後悔を伴う出来事がつらなっている。それがわかるに従って、アルヴィンがこの旅に託した思いの大きさが見えてくる仕掛けだ。兄との和解は、いまの彼にとって、「やり直し」ができる唯一のチャンス。それを果たすことは、単に兄との問題だけじゃなく、人生全般にわたる贖罪の意味を帯びているのだ。 この道中のエピソードで、とくに印象に残った場面がひとつ。アルヴィンが、家出少女に向ってローズの話をするところだ。「ある晩、ローズが人に子供を預けたら、その家が火事になり、役所が子供の世話をするのは無理だと言って連れ去った」と、まるで『レディバード レディバード』そっくりの話を、淡々と少女に聞かせるアルヴィン。その言葉に、劇の最初のほうで、庭で遊ぶ少年の姿を窓からみつめていたローズの寂しげな表情がダブってくる。彼女もまた、報われない過去の重荷を背負って生きている人間のひとり。「人間は、みんな悲しいんですから」と、『雨あがる』のなかで寺尾聡が言っていたセリフが思い出され、その悲しさを、さりげない形でドラマに忍び込ませたリンチの演出にグッと心をつかまれた。ここは、私が★★★★を決めた最初のポイント。 もうひとつ、リンチのウマさが際立っていると思えたのは、人間同士の距離感の醸し出し方。これは、他人の好意を素直に受け取っても決して甘えることはないという、アルヴィン自身の姿勢にも関係しているところなのだけど。途中の町で、トラクターの故障に見舞われたアルヴィンは、修理が終わるまで、事故の危機を救ってくれたダニー宅の中庭にやっかいになる。でも、彼は決してダニーの家の中にあがりこまない。電話を借りても玄関の外で使い、きっちり代金も払う。車で送っていってやるという申し出も断る。そんなアルヴィンの自立ぶりを、尊重してつきあおうとするダニー。彼が、朝早く出発していくアルヴィンの姿を、黙って窓から見送る場面には、涙がポロリとこぼれましたです。 もちろん最大の見せ場は、兄弟対面のシーン。アルヴィンの到着を告げるトラクターの音を聞き、歩行器に身体を預けながら出てきた兄(ハリー・ディーン・スタントン)。「あれ(トラクター)に乗って会いに来たのか?」と、ポツリと言った彼の目には、うっすらと涙がにじんでいる。弟が、どれだけ苦労してここへたどり着いたか、なぜ、そうまでして自分に会いに来たのか。兄には、トラクターを見ただけで、アルヴィンの思いのすべてがわかっちまうのだ。兄弟は、無言のままポーチにたたずみ、星空を見上げる。その星空は、彼らが仲良く暮らしていた幼い日の記憶と結びついている。つらいこと、後悔することが大半を占める思い出のなかで、ひときわきらめきを放つ少年時代の幸福感。それが、スーッとふたりの心から立ち上り、星空の映像のなかに昇華されていく幕切れの見事さ!! 実在のアルヴィンは、96年に他界したそうだけど、このラストの星のひとつには、彼の魂が宿っているように見える。何か、死んで星になったアルヴィンが、映画のなかから我々をそっと見守ってくれているような感じ。そんな気分をかきたてられる映画は、めったにあるもんじゃないっすよ。この役をやるために生まれて来たと言っても過言ではないファーンズワースの、人生が滲み出る芝居を見るだけでも、入場料分の元は取れると思うし。もし、「見て損した」と思った人にはYAZAKIが入場料を弁償するので、どうかくれぐれもお見逃しなく! |