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試写状

ビューティフル ピープル

BEAUTIFUL PEOPLE

1999年イギリス 監督・脚本ジャスミン・ディズダー 撮影バリー・エイクロイド 出演ファルーク・プルティ/ダード・イェハン/ダニー・ナスバウム/ギルバート・マーティン/ニコラス・ファレル ●107分 ポニーキャニオン=東京テアトル配給 2000年2月11日より銀座テアトル西友にて公開予定

ロンドンを舞台に、ボスニア紛争に関わりを持つ5組の登場人物のエピソードを綴ったコミカルなヒューマンドラマ。カンヌ映画祭「ある視点」部門でグランプリ受賞。

STORY

 ロンドンのバスのなかで出会ったクロアチア人(プルティ)とセルビア人(イェハン)。ケンカのすえ負傷したふたりは病院でベッドを並べるが、そこでも戦争は果てしなく続く……。
 ジャンキーのグリフィン(ナスバウム)は、熱狂的なフーリガン。ロッテルダムのワールドカップ予選に出かけた彼は、負け試合の帰り道、ヘロインで意識朦朧としたまま空港へ。国連軍機の救援物資にまぎれこんで熟睡してしまい、ボスニアの真っ只中に投下される。ワケのわからぬまま野戦病院へやって来た彼は、麻酔ナシで脚の切断手術を受ける兵士をみかね、手持ちのヘロインを注射してやる。その姿がBBCで放映され、彼はすっかり英雄になるが……。
 英語がよく理解できないボスニア難民のペロ(エディ・ジンジャーノヴィテ)は、忘れ物をした女性を追っかけたため暴漢に間違われ、ケガを追って病院に送られる。そこで出会った女医のポーシャ(シャーロット・コールマン)と恋に落ちるペロ。上流階級のポーシャ一家の冷たい視線もなんのその、ふたりは結婚にこぎつけるが……。
 妻に家出され、双子の息子に世話に追われる産婦人科医のモルディ(ファレル)。患者のボスニア難民ジェミラは、敵の兵士に乱暴された過去を打ち明け、子供を堕ろしてほしいと頼むのだが……。
 ジェリー(マーティン)は、BBCの特派員。ボスニア取材中、野戦病院で脚の切断手術に立ち会い、その後自ら脚を負傷した彼は、帰国後に訪れた病院で、自分の脚を切断するよう執拗に医師に迫る……。

SHIMIZU ★★★(99/12/03 メディアボックス試写室)

いきなり「Tall Stories」プロダクションという製作会社名。「ホラ話」とはなんぞや。この映画はそうなのか。舞台はほとんどロンドン、ちょっぴりボスニアの前線。「ボスニア紛争」を核にして、人々が入り乱れる群像ドラマです。その語り口がある人の事情からほかの人の事情へと、短いシークエンスで交錯していく、映画の「るつぼ」状態。かなりめまぐるしいので、最初は面食らうかも。

まずはロンドンバスに乗り合わせた男同士がやにわにケンカを始める。「こいつはナチだ」とひとりの男が罵る。実はあとで分かるのでけど彼らはセルビア人とクロアチア人。ボスニアの宿敵同士。ふたりはケンカの末、病院に運び込まれ、IRAのテロ爆弾魔を挟み同室になる(彼らの子供じみた“闘い”は三バカ大将のようなスラップスティックの味なのだが)。それに対しロンドンの典型的な生活がふたつ。ひとつは世情を憂うふりをしながら、恐ろしく皮相な議員の一家。その娘(『フォー・ウェデング』でシャーロット・コールマンがいい味!)だけが彼らの本性を見抜き、自分の思ったままに生きる。その結果がボスニア難民の青年と恋におち、結婚披露宴で彼氏が上流の似非知識人の愛玩物になる展開。

もうひとつは中産階級の家族。バカ息子のグリフィンはフーリガンで、その仲間とドラッグ三昧。そんな彼がオランダでのサッカーの試合に出かける途中、ドラッグでトンだ状態のままカーゴ機で「貨物」として運ばれ、ボスニアで投下されたのが目覚めの始まり。陰惨をきわめる前線で彼は人生ではじめて(?)のショックを受け、働きはじめる。『M★A★S★H』さながらの血みどりの野戦病院で、取材に来ていた英国のジャーナリストが足を切断する手術を控えている。バカ息子は彼が持参していたドラッグを与え、痛みを和らげてやる。いま、この瞬間、バカ息子は戦場で「天使」と化し、やがて親には自慢の子となる。

ことほど左様に風刺を塗り込め、ショット・バイ・ショットの人間模様が活写されるのです。ロンドンというミニマルな世界を軸に、哄笑と欺瞞と、そしてそこから生まれたささやかな真実とが語られる。「ビューティフ・ピプール」というタイトルの所以であります。ちょっと胸をつかれるのは、妻が家出し双子の子供たちと「孤独」な日々を送る産婦人科医が、ある夫婦の出産を担当するエピソード。妊娠は祝福されるべきものなのに、その夫婦は深く沈み込み、堕胎を要求する。実は彼らはボスニアの難民で、その子は敵の強姦によって孕ませた子なのだ。彼らは惑いながら結果、子どもをこの世に送り出す。「汝の敵を愛せよ」の精神か。その名は「ケオス(混沌)」と命名されるのだ。ここにも美しい人がいる。その産婦人科医は息子が通う学校で、くだんの足を切断したジャーナリストの妻と出会い、ラブモードに。

人と人が知らずに関係づけられ、ひとつの輪となる世界観は、いまの映画のトレンドだ。ま、意地悪く見れば、多少、この映画にはわざとらしい、ちょっとホラ話的な「思いを語るための役割としてキャラ」がないわけじゃない。でも、ま、この美しさに罪はないんじゃないか。

極東の我らは「ボスニア」を考えたか。彼らの気持ちに触れようとしたか。その点で島国とは言え、英国はやはり「ボスニア」と地続きなのだ。深い感傷に身を委ね、それをあたかもタランティーノのような、あるいはアルトマンのような人間モザイクで描こうとしたボスニア出身の若い新人監督の、そんな熱烈な思いを素直に受け入れていいのではないか。ゆえに僕はこの映画のケオスに拍手を送る次第です。

YAZAKI ★★☆(99/10/18 ヘラルド映画試写室)

(1)ロンドンでハチ合わせしたセルビア人とクロアチア人の難民、(2)救援物資にまぎれてボスニアまで飛んで行ってしまうイギリス青年、(3)イギリスの上流階級の娘と恋におちるボスニア難民、(4)ボスニア難民の夫婦を引き取ることになる産婦人科医、(5)ボスニアの戦場で受けたショック体験から奇行に走るBBCのレポーター。以上5組を主人公にしたエピソードに、違うエピソードの登場人物がちょっとずつリンクしていく形式をとりながら、ボスニア内戦をくぐりぬけた人々の「人生の復興」をみつめたヒューマンなコメディ作。

エピソードが5つと欲張ったせいか、ひとつひとつが小噺ふうで食い足りないというのが、率直な印象。しかも、どのエピソードも、「医者・病院・薬」がらみで、変化にも乏しい。(5)のエピソードは思い切ってカット。(4)のエピソードも、(1)〜(3)のどれかに、サブのエピソードとして組み込んでもよかったんじゃないかな、と思う。とにかく、5つを並列し、それぞれの登場人物をリンクさせる語り口は、作り手の意図とは裏腹に、どうもつたない感じがしてしまいます。

5つのうちで最も面白いのは、(3)のジャンキー青年のエピソード。オランダまでサッカー観戦に行ったあげくパブで薬を打ってフラフラになり、次に目覚めたときはボスニア内戦の真っ只中にいたグリフィン。親からどうしようもないバカ息子と思われている彼が、たどりついた野戦病院で手持ちのドラッグを麻酔代わりに提供したことから、一躍ヒーローになってしまうというトボけた展開が笑わせます。さらに、このあとには、ボスニアから孤児の少年を連れて帰国したグリフィンが、少年を家族の一員に迎えることで、「ホンモノのヒーローになる」というオチもついている。構成的には、このエピソードを中核にして、リンク関係を整理しつつ個々の人間描写に厚みを持たせてほしかったという感じ。

ただ、ボスニアに生まれ、チェコで映画を学び、ロンドンに帰化したという監督にとっては、この「リンク」というものが、ことさら重要な意味を持つものなんだろうな、ってところも理解できる。彼にとって、この映画を作ることは、ロンドンで暮らすいまの自分と、祖国ボスニアの戦後との「リンク」を見出す作業。つまり、アウトサイダーではない自分を確認する作業であったように思えます。彼は、「ライフ」の意味を探すボスニア難民の目を通してイギリスという新世界をみつめ、反対に、BBCの記者やジャンキー青年のまなざしを借りてボスニア紛争の目撃者となり、さらに、難民夫婦を引き取る産婦人科医のポジションから、戦火をくぐりぬけてきた同胞への思いを伝えようとしている。そういう視点の定め方は、やはりボスニア生まれ、ロンドン暮らしというバックグラウンドを持った監督ならではのもの。カンヌの「ある視点」部門でグランプリを受賞したというのも、なるほどと納得できるわけです。

映画の根っこの部分にあるのは、「性善説」。人間は、本来善良な動物なのに、「目には目を」の復讐意識にとらわれて道を踏み外してしまうことがある。それが発展したものが戦争であり、ひとたびそのカオスに巻き込まれると、なかなか足を洗うことができない。でも、ボスニアからイギリスにやって来て上流階級の娘と結婚するペロのように、「生まれ変わろう」と決意すれば、そこから新たな人生が始まる。そんな「戦後の人々」に向けられた希望のメッセージが、この映画にはこめられていると思います。

もちろん、現実はそんなに甘いもんじゃないでしょう。でも、その認識があるからこそ、なおさらこの映画の優しさが際立ってくるような気がします。傑作とは呼べないかもしれないけど、見終わったあとの清涼感が心地よい良心作であることは、確か。

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