夢枕獏

この人は、結構有名ですね。(テレビの露出度も高いし)小説に関しても、ファンが多いと思います。『餓狼伝』シリーズにほぼ集約される格闘技ものや『キマイラ伝』などが有名です。
ノベルズにありがちな伝奇バイオレンスの中でも、かなりのレベルの高さにあります。
その中でも、私が何回も読んだ本は『上弦の月を食べる獅子』(上下巻)(早川文庫)です。もちろん、『餓狼伝』シリーズも面白いのですが(格闘技をやるものとして)、ある意味、『上弦・・・』は、作者の追い求めているテーマの一つの答えのような気がして
その完成度は、初めての人でも取っつきやすいのかなと思います。
作者のイメージは、現世にありながら、人の救いとは何だろうかと自問しながら格闘し、血を吐くような言葉で書いている人であるということです。
人が闘うとは、生きるとは、SEXとは、そうしたリアルな部分を伝奇バイオレンスという過激な表現で、ある意味エンターテナーではあるのですが、そういう部分でダイレクトに伝わってくるものがあります。
よって、読者も心のどこかで共感や反感を持ちながらも、反応し、結局その世界に引き込まれているという具合です。
『上弦の月を食べる獅子』は、仏教の宇宙観を元にした進化と宇宙の謎と取り組み、人が救われるとはというテーマを書いた壮大な物語です。
宮沢賢治と現代の螺旋収集家がクロスし、時間と空間が曖昧な世界で、一つの旅をするというものです。その先にあったものは・・・。
光瀬龍の『百億の昼・千億の夜』(はやかわ文庫)もそうした、一つの仏教観を元にした名作ですが、文体の好みは夢枕です。
諸星大二郎の『暗黒神話』『暗黒孔子伝』(集英社)も神話を題材にした漫画として本格的です。興味のある方は、一読しても損はないと思います。

また、ちょっと気色の違う話として『風果つる町』(実業之日本社)があります。将棋の勝負師の話があります。(実在の人物、小池重明らしき人もモデルになっています。団鬼六も幻冬舎アウトロー文庫に「真剣師 小池重明」で刊行している)
将棋で生きている男のそれだけで生きることの幸せと哀しさが、プロである寂しさと誇りを見ることができて、白熱します。
プロである厳しさと人としての弱さは、プロでも何でもない人間の何かを燃えたたらせます。プロとして輝いている人、何かに対して打ち込んでいる人が輝やいて見えるのは、本当は、自分のそうありたいという願望がどこかにあるからなのです。
本という、フィクションであると知っているのですが、そうしたものを呼び覚ましたり、心がわき上がったりすることができるのも本です。
夢枕獏はそうした意味で、白熱させる作家であると思います。


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