注釈
- [1] 佐藤(2000,P.10)は実習生の不安の理由について、「失敗を回避したいという強い願望だと思います。実習生を送り出す養成校の先生方の行き届いた親心が、学生を不安に陥れるのかも知れません。あまりに行き届いた注意は、注意を受ける方を危険いっぱいの地雷原を歩いていくような気分にします」と。また、養成校側から送られてくる実習の心得などは髪の毛の長さや服装、持ち物まで細かく決められており、その親心には感心すると共に過剰であると思わないでもないことが多い。
- [2] 阿尾他(2000,PP.207-219)では、障害児・者との体験的な関わりからの心情の変化についての調査。石川他(2001,PP.25-34)では、実習を行うことなどで直接的・主体的に関わった場合、そうでない場合の障害児・者への意識や理解度の変化についての比較調査。鈴木(2002,PP.151-170)、石本他(2003,PP.1-29)、河野他(2001,PP.27-33)では、実習生が抱く不安要素・ストレスや心情についての調査。牧野田他(2001,PP.61-71)は、実習の学習効果についての学生へのアンケート調査を参照する。なお、文献収集過程で、社会福祉士実習に関する意識調査に偏ってしまった。とはいえ、体験的実習に関する意識調査はあまりなかった。
- [3] 由田他(2003,PP.239-248)では、介護実習の評価に関する職員が注目した項目についての調査。河野他(2000,PP.53-62)は、施設職員が抱く実習生へのイメージなどの調査。池田(1992,PP.357-373)では、社会福祉士実習で実習として設定する課題の有無に関する職種別の比較調査である。
- [4]河野他(2001,P28)では、現場の指導者、職員との関わりで躓く学生が年々増えている傾向にある。実習に来て良いのだろうか、邪魔な存在ではないのかと不安になったりすると述べている。鈴木(2001,)では、アンケートにわたって詳細に分析を行っているが、利用者と職員とのコミュニケーションが大きな比重を占めていることが考察されている。高木(2000,P.107)でも同様なことが述べられており、知識不足による自信のなさ、自分のとるべき役割がよく理解できないなども含まれていると考察している。
- [5]佐藤(2004,106-119)では、実習の関係性について述べており、他者との距離感や関係における主体性について述べている。
- [6] また(高木〔2000,P.108〕)では、「「職員のやることをはじめはよく見なさない」などとはっきり指示してやることが効果的である。見習うことの大切さを改めて喚起し、意識付けて」やるのがよいと述べている。
- [7] こうした偏見や差別は我々職員にもある。本論ではこのことを述べることは文脈上省略したが、いわゆる障害者虐待の根底にはこうした差別感が大きく関係している。虐待がなぜ起こってしまうのか。それは個人的な資質というよりも「援助者が組織や集団の一員として働くことにより、決して自らの意志ではないにしても、結果的に虐待とされる行為に至らしめるような「状況の圧力」の存在」(空閑,〔2001,P.44〕)という組織的に醸成されたものであるといえる。それは組織としての職業倫理性が確認されずに見失っている場合に多いとされる。さらに付言するなら、職業倫理は日常業務の微細な関係性にある。例えば、虐待なのか単に叱っているのかこの線引きは曖昧な場合がある。いずれにしろ、我々職員は「援助者としての倫理や価値に根ざした実践を行いながら、それぞれの専門性をお互いに向上させ、職業的責任を果たしていくために職員組織や集団がある」(空閑,〔2001,P.52〕)ことを確認しておく。
- [8]社会的な要請として、青少年に対するボランティアの推奨、地域福祉計画における住民による主体的な参加などと相まって、障害者、老人などの存在をくみ取って共に助け合うインフォーマルなネットワークの形成を目的とする。そのためには普段から社会的弱者といわれる人たちとの体験的なふれあいをとおして偏見や差別をなくそうとする試み。原田(1999,P.34)では「地域における社会福祉活動に「参加・参画」し、自らの生活を「自己選択・自己決定」できる創造的・主体的な市民像と、現在の閉塞した学校教育に対して「ゆとり」ある教育の中で「生きる力」を育もうとする教育課程の転換を意図した新しい教育課程との一つの接点として「福祉教育」を位置づけてみることができる」とされる。この視点は、現在もあまり変わっていないように思える。この他、原田(2005,P.12)では、「福祉教育は、「児童・生徒のもの」という狭い考え方を払拭して、むしろ福祉教育を地域福祉推進の視点から、社会福祉関係者が教育関係者と共同していくことが大事である」と述べている。しかし、その一方で「今日の福祉教育の3大プログラムとして「疑似体験」「技術講習」「施設慰問」がある。そこでは、福祉教育と称しながら、「貧困な福祉観」を再生産していると言えないだろうか」(原田〔2005,P.13〕)という批判もある。
- [9]保育士資格取得のためには法的にも「指定保育士養成施設における保育実習の実施基準」に定められているとおり、入所型の障害児(者)施設等での実習が必修となっている。県内では入所型の障害児施設は少ないため、地元や近県の保育士養成の短大などでは貴重な受入機関となっている。
- [10]社会福祉士をソーシャルワーカー、介護福祉士をケアワーカーと区別しても良さそうだとした上で、中村(2004,pp.174)は「医師よりも強固な法的な役割規定が存在しない以上、所属する組織が定める役割が決定的な位置を占め、例え、職種間の役割の違いをいくら強調しても実効性は乏しいものとなる。すなわち、一般にはソーシャルワーカーと分類される福祉施設の児童指導員や生活指導員の多くは、ソーシャルワーカーも自らの業務に含まれながらも介護福祉(ケアワーク)の役割も期待され、従事している」と述べ、さらに、当園では保育士と児童指導員の役割はまったく一緒である。それが問題かどうかは個人的な感覚によるが、利用者の生活を支援する現場として動いている。
- [11] 日本社会事業学校連盟ほか(1996,P.11)では、「入所施設におけるソーシャルワークとは、児童施設であれ成人施設であれ、入居児・者とその家族を含む施設外関係者、関係社会機関、地域住民などとの関係調整活動、施設内の対人関係調整を含む処遇環境整備、集団活動の積極的利用、心理・社会問題の個別的な解決援助等々」と明記し、さらにケアワークと区別されずにまたはソーシャルワークの意義について認識が浅いために未分化であると述べている。
- [12] ケアをするされるという立場の関係性について、鷲田(2001,PP.207-208)で、「ケアの様々な職務というのも、いうまでもなくそういう「感情労働」のひとつだろう。患者に対してよそよそしくしてはいけないし、深い共感なしにはできないことも多い。しかし、同時に職業人としての冷静な判断が強く求められるのも、この仕事の特徴だ。世話と労働という二つの局面を日常的にうまく重ね合わせ、時に内面でその二つの顔に引き裂かれる思いをすることが多いのが、ケアの仕事だ。中略。仕事に自分を同一視し過ぎて燃え尽き、感情のひどい消耗や麻痺に陥ったり、そういう役割として身に付いたじぶんの演技を、不誠実なもの、偽善的なものと一人で引き受けて、自己についての否定的感情に苛まされたりする」と述べ、そうした関係性に「まみれ」ながらも相手から下りずに「まみれ」を自らの意志で選び直した人には、共通して人との距離感に加減とか塩梅とか、潮時とか融通があると考察しそうした対人関係のあやとは「ほんとうは経験を積んだ人の深い智慧をあらわす」鷲田(2001,PP.220)と。そういった「まみれ」を尾崎(1999)は利用者との関わりにおける「ゆらぎ」と表現している。さらに、ゆらぎは利用者との関わりを育て、深めることによって起こることとし、それは、「クライエントの生活人生を多面的に理解すると同時に、クライエントや家族と援助者が生きている社会の仕組み、構造、あるいは生活世界のリアリティを見抜き、描き出す力の基礎」(1999,PP.292-293)となりうるとされる。当然、ゆらぎ続けるわけには行かず、どこかで線引きをするものの、利用者への洞察と引き際のぎりぎりの内省が求められると言える。
- [13] 援助者としての関わりについて、松浦(1993)や山下(2002)など。社会制度では脱施設の賛否について、野沢(2003)や塩見(2003)。障害構造について、中野(2002)や佐藤(2002)など。虐待や職業倫理については米澤(2000)や空閑(2001)など。その他理論構築についてとか障害者文化とかその都度興味深い論考を見つけた場合はできるだけ新しいものを提示している。松浦(1993)は実習生にとって興味深い論考のようであった。
- [14] H大学の社会福祉士実習の手引きなどでは生活モデルを援用したものなどを参照。
- [15]S短期大学介護学科の実習マニュアルを参照。実際に、4段階に分けて行われるも、個人情報や身体状況について詳細なチェックがあり、一貫性がある内容となっていた。
- [16] 矢野(2004,P.79)では、保育士の資格は「保育所のみならず、乳児から障害者、高齢者などすべての福祉の現場において働くことのできるオールマイティの資格である」と述べた上で、「既存のカリキュラムでは、障害に関して基本的なことも満足に得られないまま資格を取得して卒業していくのが現状」と考察し、「保育所における障害を持った子供の受け入れは年々広がっており、専門的な知識は不可欠」と述べいる。
- [17] 佐野(2002,P.52)は、社会福祉士実習が保育実習や介護福祉士実習と区別するために「現場において学生が主体的に利用者とコミュニケーションをとり、利用者や職員の動きを業務に支障がない範囲で観察できる自由な時間と場所の確保」が必要と述べている。つまり、ケーススタディの時間の確保をさすが、保育実習であれ介護福祉士実習においても必要なことである。
引用文献
- 1)空閑浩人「組織集団における「状況の圧力」と援助者の「弱さ」」『社会福祉学』第42巻1号,社会福祉学会,44-53,2001
- 2)竹内章郎『「弱者」の哲学』科学全書49,大月書店,1993
- 3)今泉義之『生殖の哲学』シリーズ道徳の系譜,河出書房新社,2003
- 4)阿尾有朋ほか「一日ふれあい体験が中学生の障害児・者に対する態度に及ぼす影響」『東北大学教育学部研究年報』第48集,207-219,2000
- 5)石川杏子ほか「大学生における知的障害児への態度に関する研究」『明治学院大学文学研究科心理学専攻紀要』第6号,25-34,2001
- 6)佐藤俊昭「保育実習で何を学ぶか」『社会福祉研究室報』第11号,東北福祉大学社会福祉研究室,9-12,2002
- 7)石本真紀ほか「学生の成長によりそうことの重要性」『中京大学社会学部紀要』18-2,1-29,2003
- 8)池田雅子「社会福祉実習指導の現状と課題」『北星論集』第29号,357-373,1992
- 9)由田美津子ほか「実習の評価から見る人間福祉学科の介護評価の実態について」『北陸学院短期大学紀要』第35号,239-248,2003
- 10)鈴木摩耶「社会福祉実習生の不安について」『東洋大学社会学部紀要』第40-3号,151-171,2002
- 11)牧野田恵美子ほか「社会福祉現場実習の現状」『社会福祉』42,日本女子大学社会福祉学科,61-71,2001
- 12)河野貴代美ほか「社会福祉実習について(パート2)」『帝京平成大学紀要』12巻2号,53-62,2000
- 13)河野貴代美ほか「社会福祉実習について(パート3)」『帝京平成大学紀要』13巻2号,27-33,2001
- 14)佐藤俊一『対人援助の臨床福祉学』中央法規,2004
- 15)高木邦明『障害者福祉と実習教育の展開』中央法規,2000
- 16)森上史朗ほか編『保育者論の探求』2,ミネルヴァ書房,2001
- 17)竹内美保「社会福祉士実習教育におけるケアワークの概念規定の検討」『関西大学社会福祉学科研究紀要』第7号,175-189,2004
- 18)中村敏秀「社会福祉援助技術論」『長崎国際大学論叢』第4巻,169-182,2004
- 19)田中治和「福祉実習の記録方法についての一考察」『社会福祉研究室報』第4号,東北福祉大学社会福祉研究室報,88-94,1994
- 20)日本社会事業学校連盟ほか編『新・社会福祉施設現場実習指導マニュアル』全国社会福祉協議会,1996
- 21)鷲田清一『<弱さ>のちから』講談社,2001
- 22)尾崎新『「ゆらぐ」ことのできる力』誠信書房,1999
- 23)松浦剛「福祉の本音と建て前を考える」『老人生活研究』269,老人生活研究所,15-30,1993-8
- 24)米澤國吉「知的障害児施設における発達支援と職員の意識改革」『青森保健大学紀要』2,1-7,2000
- 25)中野敏子「知的障害者福祉と障害定義の課題」『社会学・社会福祉学研究』112,明治学院大学社会学会,33-61,2002
- 26)佐藤久夫「国際生活機能分類(ICF)とその活用」『日本社会事業大学紀要』49集,3-20,2002
- 27)山下英三郎『対人援助職における「受容」の再考察』『日本社会事業大学紀要』49集,201-214,2002
- 28)塩見洋介「日本における脱施設政策の批判的検討」『総合社会福祉研究』23,44-53,2003
- 29)野沢和弘「障害者と家族の地域生活の課題」『社会福祉研究』第87号,33-39,2003
- 30)原田正樹「福祉教育プログラムの構造とその実践的課題」『月刊福祉』,全社協,34-39,1999-2
- 31)原田正樹「福祉教育実践のクオリティを高めていくために」『月刊福祉』,全社協,34-39,2005-3
- 32)佐野治「ケア実習と区別されない社会福祉援助技術現場実習下における実習指導に関する一研究」『愛知県立大学文学部論集(社会福祉学科編)』第51号,45-53,2002
- 33)矢野洋子「障害を持った人たちを支援する「保育士」養成のための取り組みについての検討」『福岡教育大学障害児治療教育センター年報』17,73-80,2004
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