体験的学習における福祉施設の役割についての一考察
知的障害児者への障害理解を中心として
熊谷和史
1.研究目的
いわゆる福祉教育の一環として、体験的学習(ボランティア体験、体験実習)として多様な学生が福祉施設を利用する。福祉教育のねらいはいくつかあるものの、一つに利用者との直接的な関わりを通して、病人、障害者、高齢者などへの学生自らが持つ否定的なイメージの是正にある。
ところで、福祉教育のあり方や成果は教育機関で行われるもののフィールドを提供する福祉施設側では教育的な取り組みが無い、あるいは期待されていないのが現状である。また、福祉施設側でその体験的学習がどのような意図で行われ、どのような効果があったのかについてあまり知らされない。
そこで本研究では、福祉施設を利用する体験実習の意味について考察し、福祉施設側で行いうる教育的方法について具体的に提案する。
2.研究方法
本研究は、福祉教育の一環としての体験的学習として、医療・福祉系が行う体験的学習、教員の介護体験、高等学校による介護体験・ボランティア体験など多様にある。福祉教育一般に目配せしながらも、特に、医療系・看護系学生が行う、福祉施設への体験的学習を焦点化する(福祉の近接領域として、障害イメージの変容についての先行研究が多くあるため)。
さらに福祉教育の対象は、高齢者、病人、身体・知的・精神障害者、生活困窮者など多様にあるが、中でも知的障害を中心に考察する。
研究方法として、まずなぜ福祉教育の一環で、福祉施設へ体験実習を行うのかその目的や意味について先行研究から論述する。
次に体験的学習として利用者に関わることの意味について考察する。中でも、関わる前に抱いている障害イメージが、直接関わることでイメージが変容するその意味を先行研究より考察する。
上記をふまえ、施設側のガイダンスで、学生が利用者と関わる前の障害イメージを意識化あるいは言語化を助長するためのシートの考案、提示する。また、実習後に自由記述のアンケートと振り返りの中から、学生がどのようなイメージの変容があったのかその実施状況を論述する。
その上で、こうした施設側からの働きかけが体験的学習において有効なことなのか、あるいは汎用化できることなのかを検証する。
3.研究結果
- 福祉教育の方法として、疑似体験型、施設訪問・ボランティア体験型、交流事業型が一般的である。福祉施設での体験的実習は、一義的には施設訪問ボランティア体験型に位置し、要素として交流事業も含まれると考える。そして、福祉教育の意義は大きく啓蒙教育にあり、障害者がどのように生きているかを体感し、健常者である我々自身の生活を考え直すきっかけとなることを期待している。
- ことに知的障害がどのような生活や行動をするのかについて、一般に知的障害そのものへの無理解や偏見が根強く、また間違った知識や認識があることが先行研究で明らかになっている。福祉教育は、実際に関わる事で知的障害に対する負のイメージの是正をし、正しい認識に結びつける意義が見いだせる。とはいえ、日常として知的障害者と関わるとき、その個を健常者が受容するかは別に論じないといけない事として問題提起されている。
- 施設側の取り組みとしてのシートの提案の詳細は学会発表の時に詳述する。大まかに本研究で提案する方法は、学生がどのように知的障害のイメージを抱いているのか。できるだけ多く語ってもらうことである。そうすることで、より負のイメージや間違った認識を体験学習中に意識できる。あるいは、最初からのイメージからぶれない形で終えた場合でも、知的障害への認識が深まることが確認できた。
- 効果および汎用化の検証については、実際に関わっている福祉施設職員が教材を用いる事で、利用者とは何かを話し合う機会を持つきっかけになること。それは授業とは違った臨場感があり、改めて、学びに来ている事を意識させる効果が見込まれること。また、言語化する事で、施設職員もまた利用者とは何かを再構築する手がかりとなる。さらに、障害のイメージを問う方法は、体験的学習のみならず、社会福祉士の現場実習の事前ガイダンスにも応用が出来る。あるいは、知的障害だけではなく、他の障害や高齢者、生活困窮者などあらゆる対象にも使用できると考える。とはいえ、具体的数値による効果測定や実証は今後の課題として挙げられる。
2008.6.30