A.はじめに
社会保障は、昭和25年の「社会保障制度に関する勧告」において、または現行憲法における最低限度の生活の保障から出発し、現在では、広く国民の健やかで安心できる生活を保障することが社会保障の目的となっている。社会保障は、そうした意味からも現代においてはごく自然にシステム化され、組み込まれた制度であると言える。
本レポートでは、そもそも社会保障とは何かを述べ、大きくその範囲を捉えながら、現在、問題となっていることについてまとめることとする。このことは、今一度「私たちにとって」社会保障とは何かと捉え直すことができると考えるからである。

B.社会保障の本質と歴史的な経過について
社会保障という言葉が公的に使われたのは、1935年、アメリカにおいて制定された「社会保障法」が初めてだといわれている。また、社会保障は市場経済や自由契約を補完し、国民全般の最低生活保障を「政府の責任」で行うものと理解され、第二次世界大戦後に先進国で急速に普及していった。日本では、1950年に社会保障制度審議会が作成した「社会保障に関する勧告」が日本における社会保障制度の出発となった。その社会保障制度審議会が成立した背景には、第二次世界大戦後において、GHQによる指導の下、旧生活保護法・新生活保護法の成立、憲法25条の制定、福祉三法、失業保険法と労災保険法の制定等がなされていったが、1945年にGHQが軍人恩給の停止を指令したことから、実質的に恩給に代わる代償制度を検討するために審議会が制定されたという経緯がある。
よって社会保障とは
、憲法25条が謳っているように、国民の生存権に基づいて、国家が国民の最低限度の生活を保障することにあり、そのことによって資本主義社会の安定を図ることにある。その、具体的制度(政策)として、救貧制度と防貧制度を統合したものという要素を含んでいるといえる。
つまり、社会保障とは救貧制度としての公的扶助、防貧制度としての社会保険によって成り立っていると言える。(社会福祉や公衆衛生は具体的な制度であると考える)その財源は、社会保険料と税であり、具体的なサービスとして現金給付、現物給付と2種類がある。
また、社会保障は時代的なニーズを反映し変化をしている。大まかに、上記のように昭和25年の勧告を出発点に、絶対的な貧困の中で最低生活維持に主眼がおかれ、昭和30年代半ばにおける国民皆保険・皆年金の確立から経済の高度成長期を背景に制度が拡充していった。現在では、出生前から死亡までのライフサイクルのなかで、病気や怪我、障害、育児、失業、所得の喪失などの様々なリスクに対応し、従前生活保障(最低生活以上)を水準とする社会保障制度として普遍的に給付するにいたっている。

C.社会保障の範囲、機能について
上述のように、社会保障は国民の生存権の保障であり、基本的に社会保険と公的扶助によって成り立っていると言える。しかし、その範囲は時代とともに拡大し、今日においては最低生活水準以上の普遍的な給付となっている。
具体的に保険料の拠出を条件に給付する制度では、医療保険、年金保険、失業保険、労災保険、介護保険の5種類があるが、そのうち医療保険と年金保険はそれぞれがいくつもの制度から構成されている。公的扶助は主に生活保護であり、公衆衛生および医療には、国民の健康を守る予防の他、国公立医療機関の整備などの事業が含まれている。社会福祉は、心身障害者、児童、老人など、生活上の困難を持つ人に、個別的な援助を行う制度である。
しかしながら、制度の拡大に伴って、例えば、1983年の老人保健制度は、社会保険形式であるが公費の補助も多く、社会福祉の性格も強い。また、医療以外にも公衆衛生にも該当するものもある。(このため、新たな枠組みとして老人保健は位置づけられている)
また、1972年に成立した児童手当制度は、雇い主から保険料を徴収しているが、児童手当を受けている人から保険料を徴収しているわけではないため社会保険とは言えない。児童手当には所得制限があるが、生活保護のような資産調査は行われない。ほとんどの児童を対象とするため社会福祉に馴染まないといったといったものも含まれている。
このように、拡大に伴い様々な要素を組み合わされた社会保障制度が成立した。なお、社会保障の範囲について補足すれば、上記の、公的扶助、社会福祉、社会保険、公衆衛生および医療、また老人保健の5つが狭義の社会保障であり、広義の社会保障とは、狭義の他に恩給、戦争犠牲者援護が含まれる。また、関連制度として住宅や雇用対策が含まれている。
こうした制度を支える機能(システム)として、社会的安全装置、所得再分配、リスク分散、社会の安定および経済の安定・成長が挙げられる。社会保障が、広く国民に健やかで安心できる生活を保障するという理念の下で、社会的安全装置は総合的なセーフティネットとして、相互扶助的に社会成員が生活の中で起こりうる困難、障害などリスクを分散させるシステムとして、所得の再分配を通して、景気の低迷期などに際しても十分に生活に安心感を持たせ、貧困などに容易に落ちることなく安定した活動が可能になることを意味している。
このように、社会保障は、あらゆる生活のリスクやライフサイクルに合わせた安全のネットとして機能しているのが分かる。その背景には、社会不安の除去によって資本主義の安定を図ることにあることが分かる。
なお、所得の再分配においては、公平性という評価基準があり、その中に垂直的公平性と水平的公平性および世代間の公平性がある。
垂直的公平性
とは、例えば、課税に関して負担能力が違えば課税上の異なった取り扱いをするのが公平であるという考え方である。そのことによって、相対的に豊かな個人から所得の低い人へ再分配を行うことによって、所得格差を是正することである(生活保護はこの垂直的公平性の機能に依拠している)。
水平的公平性
については、保険的な危険分散の再分配として、拠出を条件に給付する制度のように、高所得者が低所得者のために支払うというよりも、ライフサイクル上予想される事態に対して各自が備えるという要素が強い。
最後に、世代間の公平性については、社会連帯や社会成員による相互扶助という視点が入り込んでいるが、従来の社会保障は、同時代での所得再分配という観点が強かったが、近年の少子高齢化にともなう財源の危機や世代間の格差が広がっている昨今にあって、どの様に公平に(あるいは効率的に)分配できるかが大きな問題となっている。
いずれにしろ、社会保障は、公平性と所得の再分配(市場経済によって行われた所得分配を公的施策によって事後的に修正されたこと)を通じて社会全体の安定を国家の責任の下で行う制度であると言える。

D.現在の問題点について
社会保障には現在、さまざまな問題点があるといわれているが、私は、主に社会構造の変化に伴う財源の減少によって、社会保障そのものの捉え方(分配、公平性、効率性等々)を変える必要があるが、そのための十分な国民的合意(コンセンサス)が得られていないことにあると考える。これまで、高度成長期によって税収も社会保険料も順調に増え、潤沢な税源を制度の拡充に回すことが出来た。しかし、景気の低迷による税収や社会保険料の減少、高齢社会による医療費、年金、福祉の受給者の増大。それを支える生産世代は、少子化によって支える人が減っていること。また、よく言われているように核家族化は私的扶養や介護から社会連帯による扶養や介護の比重が増えることを意味している。そのため、世代間の公平性をいかに図るかが重要になってくるが、世代間の格差は広がって行くばかりであり、これまでの社会保障の水準や格差を考えたとき果たしてコンセンサスが得られるかどうかが問題となっていると考える。このままでは、社会保障の赤字財源は増え続けていき、本来国民に安心を保障するための制度である社会保障が不安定になってしまえば本末転倒である。よって、これまでとは違った認識で社会保障に対する受給、または徴集がなされることを受け入れるために社会保障の原理の一つである公平性を捉え直す必要がある。そうした一連の中で、介護保険の創設、あるいは、社会福祉基礎構造改革、医療改革による自己負担の増大などがなされているが、他の関連制度との関係や今後の社会構造に対応するための総合的な施策や政策(システム)の中で十分に議論され、社会保障制度の変革が本当に必要であると実感が持てるものにする必要があると考える。

E.おわりに
改めて、社会保障とは何かと考えたときになぜ社会保障は必要なのかということを考えた。一見、自明に見える社会保障の必要性も資本主義、経済あるいは歴史の変動の中で捉えたときに、その制度や施策のあり方は全く違い、社会そのものの捉え方も変化している。今回は、詳細に歴史的な変遷や制度内にある問題点について触れることが出来なかったが今後の研究としたい。

参考文献
『構造的転換期の社会保障』(森健一・阿部裕二、中央法規、2002)
『社会保障論』(一圓光彌、誠信書房、1997)
『社会保障入門』(竹本善次、講談社現代新書、2001)
「公的年金改革と財政に関する一考察」(阿部裕二、東北福祉大学研究紀要、1997)
『戦後社会保障の形成』(北場勉、中央法規、2000)

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