死せる神の島

『死せる神の島(上下)』
ソードワールドノベル
(富士見ファンタジア文庫,下村家恵子)
【入手可能】

数あるソードワールドノベルを一つ挙げるとしたらとりあえず、この本を薦めることにしている。(といっても、今まで薦めたこと無いけど)いうまでもなく、ソードワールドはTRPGの一形態で、和製のTRPGの中で一番メジャーなジャンルである。ロードス島も始めはTRPGのリプレイでコンプティークで連載をしていたところから派生していったのだが、ロードス島もまたソードワールドの一部の島という設定であった。(これについては、後付の疑いもある。始めにロードス島があったのではないか。それを拡大していったんじゃないかという疑い)
その後、ソードワールドは、純粋にTRPGとして定着し、シナリオ、リプレイ、ハウツー、小説と増殖の限りを尽くしていった。TRPGとしてのシステムの簡単さ(サイコロ2つですむ)やファンタジーが流行っていたこともあって、ホビット、小人、妖精、魔法なんかが一つの流行の言葉でもあった。ドラクエの爆発的な売り上げは、そうしたファンタジーの領土を拡大するのに1役を買っていたし、没落の傾向にあったとはいえ、ゲームブックもまだ書店に行けば平積されていた時期の小説である。
「死せる神の島」はソードワールドノベルの初期の小説で、ドラクエの人気からゾクゾクとファミコンでRPGが出ていた時期でもあって、勢いに乗ってソードワールドのRPGとタイアップされた素材でもある。ソードワールドの主要な都市や遺跡を俯瞰しながらキャンペーン形式でドラマ仕立てになっている。

蛇足ながら、このソードワールドは一度あんまり見向きもされなくなっていた時期もあったが、リウイシリーズ、TCG化、ルールの完全版の発売などで、ソードワールドの世界をずらしたところで盛り上がってきている。西方諸国を中心に今は展開している。(昔は、小説でも遺跡群探検が中心であったが、いまは、王朝などの人間ドラマを中心にしているようだ)

脇道にそれたが、短編が主流であったノベルも、「死せる神の島」から少しずつ長編のものが書かれるようになってきた。(そのころのシナリオ集も短編ものが多かった)
短編が多く出ていたとき、作者の下村さんのキャラクターも度々短編の中に登場していて、それが、この小説の中にもいいコンビとして描かれているという「萌」が存在しているという理由で本当は薦めているに過ぎないのでした。(^<^)
それは、若いエルフのシラルムと若いグラスランナーのプラムのコンビなのです。この本では、あくまでも脇役的な存在なのですが、短編では、私の記憶が正しければ3作くらいに渡って、プラムとシラルムの出会いやプラムの救済をする冒険が描かれていました。プラムが心を失っているとかそういう設定で、普段は飄々としている(あるいは道化的な存在の)シラルムがひょんなところから救済するという話があります(『ロマールの罠』:「立ち枯れの森」)。実は、シラルムは人の気持ちに対して深いところで悲しみとか共感を持つことのできるキャラクターとして描かれ(ピエロの涙、あるいは素顔、あるいは優しさ)、プラムが全幅の信頼と愛着を持っているという関係が、父と娘、兄と妹、子供っぽいしかし深刻なプラムの心配や焼き餅とかそういうのが描かれていて、ソードワールドノベルのコンビとしては一番好きな関係なのです。
シスラムは、一応この小説でもちょっと達観して、冒険慣れをしているキャラクターとして描かれている(短編でもそういう設定であったが)そして、一緒になって冒険を続けているプラムとの掛け合いも手伝って、私の中では、結構中身の濃い関係性というか物語性を醸し出していると思っています。そういう背景なしにこの小説を読んでも、結構つまらないのかも知れませんが、先に言ったように、ソードワールドの雰囲気を万遍なく伝えたスタンダードな構成は、初めての人にも、短編しか読まなかった人、最近は行っていく人にも勧めたい小説です。
ちなみに、この本は、古本屋を数軒回ると手に入ることができます。

おまけ
ゴーグル(google)で検索をしたら以下のようなコアなサイトを見つけました。
作者のサイト
死せる神の島のファンページ
月の小径〜死せる神の島のページがある
富士見ファンタジア文庫のブックリスト
ソードワールド系のブックリスト

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