ソーシャルワークの社会学{実践理論の構築をめざして}(世界思想社、加茂
陽)[369.1カソ]



コメント
社会構成主義の日本人による批判的な吟味もなされている理論書です。しかしながら、システム論に対する批判から、いかにシステム論から脱却した理論をうち立てるのかということに終始しています。社会構成主義(物語モデル)にたいする批判は、低位な相対主義に陥ることに対することであり、そのことについては、別の著書「ヒューマンサービス論」に詳しく展開がなされています。
基本的には、物語モデルの持つ価値基準の重要性を遠回しに表現しているものと受け取っています。

目次

第1章
第2章
第3章
第5章


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第1章考察の視点

1:新たなソーシャルワークの潮流
心理還元主義からシステム理論、サイバネティックスの思想を土台に臨床活動 へ導入
それらが有する理論的厳密性を犠牲にして、一つのアイディアメタファーとし ていう水準で試みられる。
一定程度の概念相互の力動的結合性、操作性を有しており、援助活動の地平を 開く。

2:基本的視点
概念にできる限り厳密な定義を施し、そして現実を対象としてそれの説明力を 測定する行為を援助活動のなかで取り除くことは出来ないはずである。 しかし同時に、概念やその結合体は論理的な作業のみでなく、あるメタレベル での前提を基本にして成立していることも認めないといけないだろう。 これらの2つの立場は確かに原理的に矛盾する。しかしそのことを了解した上 で、両者を認めなければならないのが、目下の社会化学の方法論の論争の到達 点であろう。

3:社会構成主義について
共通に受け入れられているカテゴリーや解釈方法は観察によって正当性が保障 されるとする信念を、一時的に放棄するように問い掛ける。
科学用語であっても日常用語であっても、世界を理解する用語が、社会的な文 脈によって構成された人工的産物であると考えることである。
世界解釈の一般化、定着化のプロセスに関することで、正解解釈の体型は検証 によって正当性が保障される、一般化する前提が否定され、対人間で相互調整 的にそれは生成されると考えられる。
合意を得た理解の形態がいかなるものであるかということは、社会生活で重要 な意味を持つ。それらは、人々が従事する諸活動と統合的に結び付けられるか らである。
社会構成主義的治療援助方法を徹底させれば、治療者の治療行為は、クライエ ントのメッセージに問題とみなされる何か本質的な意味を探す行為を放棄し、 そして、治療者対被治療者という権威構造からなる伝統的治療行為も断念し、 援助場面で、クライエントと相互に新たな、有意義な状況を構築することをも めざす共同作業の時点まで行き着く。



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第2章ソーシャルワークの道徳理論

1:考察の目的
自己決定の原則を例にとり、吟味してみると、「自由論」を軸にしてその概念 は相対立する人間間や社会間からなっていることが明確になり、援助者は援助 場面でクライエントの自己決定を尊重すると軽々しく言えなくなる。
2:自己決定と理性
ホリス「この概念が本当に意味しているのは、自己志向、つまり自ら選択を行 う権利は個人の高い価値を有する属性であるということである」 メタレベルの理性的援助者像を提示する。
クライエントが責任遂行能力にかけるなどの極端な状況では、ケースワーカー はクライエントに替わって決定をなさないといけない。
クライエント自身の理性的能力を引き出す技術である。
理性的能力を有しているという大前提の正当性の論証の困難さがある。
同様に非理性的であるという根拠がない。線引きは経験的になされることにな るが、理性とはという基準が存在しない以上、それは難しい。
確かにワーカーは、クライエントの自己決定という民主的理念とケースワーク という援助法や技法、そしてケースワーク関係の力動性という現実との調整を 企て、実際にクライエントが選択するのに必要な情報を持ち合わせていない場 合にさえも、クライエントはそれらに実際同意するであろうということ、詭弁 で自分自身(ワーカー)に信じ込ませてしまう。…ケースワーク過程において 援助されるということは必ず不可避的に影響を受けるということを意味する。
援助者の影響力の行使を容認するのは、その根拠になるのは経験的、理論的な ものである。 
理論などに寄るラべリングを容認した形で、逸脱が生じ、それは、経験的、理 論的に定義される。(超越社会規範としても)
経験的理論のレベルで純粋に病理を決定する際、社会の価値規範という不純物 が常にその体系のなかに入り込む。(イデオロギーも含む)
病理概念生成のメカニズムの多重的構造や説明理論自体の社会条件よりの被拘 束性があきらかになると、援助者がクライエントの行為の病理性の水準をきめ る理性的根拠が揺らぐ。
認識主体が対象を因果決定論的に把握し、説明する理性的能力の不在という事 態のなかで認識や行為選択の原則として、いわば賭けとしての自己決定的な認 識や行為が要請されることになるのである。

3:自己決定の構成主義的解釈
行為を分離した一こまとして捉えるのでなく、それを連鎖と捉える「パンク チュエイション」

本論のまとめ
状況は行為の流れであること
そしてこの流れは
(1). 行為者が
(a). 認識や行為選択法に影響を与える自らのある認識枠に影響され
(b). 他者の行為を解釈し
(c). その後他者への行為を選択し
(d). そして他者からの行為を解釈し、自らの認識枠を修正する一連のフィード バックメカニズムと
(2). 同様な他者のメカニズムと
(3). 両メカニズム相互のフィードバックメカニズムより形成される。
WはCLの認識内容や正当性の根拠のコンテキストに気づき、CLもWの認識や評 価のコンテキストに気づき、お互いのコンテキストが明示され、現実の多義的 構成の可能性をCLが意識したならば、W対CLの関係は現実変容力を持ち、生成 的である。
つまり、自己決定は他者とのメッセージ交流のなかで構成されることによって しか具現化しない非決定論的決定である。
自己決定は他者の解釈行為によって具現化される他己決定と呼ぶこともできる であろう。
援助活動にあたって、自他の関係性の問題の変容を求める訴えを聞き入れる場 合、CLのそのような訴えの背後にあるCLの自他の認識システムが、CLが訴える 関係の問題と結びついているという前提に立つ。


4:結論
安定的な価値規範が構造化されたシステムとして社会システムを位置付けたな らば、そこでの認識や行為は全て理性的、決定的なものとなって、主体概念が 消滅するため、自己決定は主体なき決定となる。
全体社会レベルを均衡的構造として捕らえる構造機能論的発想や、心理過程に 病理発症を還元し、それを直線的院がモデルで分析していこうとする心理モデ ルは観念的であり、さらに、規範概念としての逸脱を心理学的概念に還元して 説明する手法は、方法論の混乱であり、これらの理論枠に依拠するソーシャル ワークも同様の難点を有する。
ドミナントストーリーからオルタナティブストーリーへ



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第3章ソーシャルワークの社会理論
システム理論の臨床化には、症状の展開にシステムの均衡維持機能を与える理 論的立場に対して
症状を媒介にして情報が環流するシステムの変動ないしは進化の体系化を試み たもの
システム内で環流する情報の解釈にも、それを主観的に意味付けられたものと して位置付ける臨床理論に対して
人のコミュニケーションの構造をより被規定性を強調するものという対立も観 られた。

1:折衷主義者達
ホリスの分類
1). 支持的機能;共感的傾聴や受容、CLの価値や固有性を受け入れようという態 度
2). 直接的指示;アドバイスや提案
3). 探りを入れ、表現させ、喚起を図る事;CLの感情を表出させる
4). 人ー状況の反省的考察;CLの現在の状況や関係に焦点をあわせる技法。
他者についての、あるいは外的、客観的状況の認識や理解の方法に関して
自らの行動の特性やそれが他者におよぼす影響の理解について
特定の状況下においてどうしてそのような行動をとったのかの理解に関して 内的感情や自己概念、態度、価値などの解釈の仕方について、援助を受ける。 人状況の反省的考察は、ある行動をとった事の是非の理性的話し合いやその事 を考え抜くよう援助する技法である。
5). パターンや力動性の反省的考察;CLが防衛やそれがおよぼす影響を含めて、 自らの行動パターンに目を向けそれを考察するよう援助する方法。
6). 生活史についての反省的考察;不適応行動の力動性に深い洞察が得られるよ うCLを援助する
1〜3感情面をサポート4を含めて自我支持的技法
5および6は内面理解を深化させ自我機能を変容させるぎほう、自我修正的技 法
1〜3は新たな支える治療的人間関係を導入する事で変容する力をCLに与える 技法
4は自我の一次的自律機能の強化、修正に関する技法
5、6は不安処理、二次的自律機能に介入する技法。
このように諸技法は、援助関係によって自我機能全般が変容強化される土壌を つくり出したり、さらにそれをもとに、弱体化している自我機能に直接働き掛 けたりする自我機能の評定、介入を焦点とする体系である。
関係性を自我の精神装置として位置付けるのでなく、人間相互の関係の中で展 開する力動的規定性の水準に高めたのがシステム理論にステップできなかっ た。
相互作用的視点は状況理解の概念としては成立しても、実際の介入は個人か環 境かのいづれかに向かうものであるところから、それは具体的援助理論となる ことはできず、介入段階では従来の援助モデルが選択されるべきである。自我 機能という内的なものと環境の変容というイデオロギーおよび外的な働きかけ の混同、同居、混沌
人の状況を関係性より分析する認識論的視点に依拠し、介入する援助体系を求 める事である。

2:情報環流システムの進化
操作的(オペレイティブ)な介入の否定
システムの定義の共通点;それには自らを構成するいくつかの単位がある事、 そしてそれら諸単位は固有の結合を示している、すなわち構造化されている 事。
均衡という考えは、構造的アプローチにおいて強調した点である。家族システ ムの中で症状が発生する事態では、このシステムが解体に向かっている、ない しは矛盾増幅過程にあるとする分析の前提は常識であった。
しかし、この症状が実はシステム維持機能を優している事が分かる。この症状 を軸にしたシステムの構造化によって、一層重大なシステム内の対人関係の顕 在化が妨げられている。
成員は家族の均衡状態を保つために、症状を維持させるコミュニケーションを 行う事に意識的、無意識的に合意しているのである。
このような構造論的アプローチに欠如しているのは、マクロな時間、生活史へ の考慮であり、目の前の維持機能を指摘するところから全体の家族システムそ のものを変容させようとする援助の視点の欠如である。ーゲシュタルトの切り 替え(クーン)
ある場合では症状としてあらわれる生活上の問題を、情報が環流する中で、停 滞したり進化したりするシステムの力動性より考察し、介入作を追求する視点 この情報の環流は、他者へ向けられたある情報が、その他者である主体にある 主観的な意味づけがくわえられ、処理され出力されるいくつかの意味のレベル を持ち合わせているのが通常である。(ベイトソン;二重拘束)
状況を情報環流過程と位置付けつつ、構成主義的なコミュニケーション分析の 手法を導入し、行為伝達の重層性ないしは現実への意味づけを与えるというコ ンテキストの諸レベルという発想を取り入れ、それを情報環流過程に入れ込 む。

3:意味づけの構造と行為の規則
ベイトソンの二重拘束の定義
二人以上の人が密接な関係にあり、その関係は全員にとって心理的、身体的に 必要とする
この文脈においてメッセージが伝達される。
何かを主張するもの
主張したものに対して何か主張するもの
これら二つの主張は互いに相容れない
最後に、メッセージの受け手はこれらをメタコミュニケートしたり(裏をとっ たりコメントをしたり)、その場より引っ込んだりする方法で、このメッセー ジの枠組みから身をひく事を妨げられている。それゆえ、メッセージ自体は論 理的に矛盾しているにも関わらず、それは語用論的次元では現実味を帯びる事 になる。
二重拘束は特殊な状況であり、日常におけるコミュニケートは言質を取り合 う、言葉の主観的なやり取りの場としての進行であり、表出する声の意味をメ タコミュニケートしている。(あるいは、メタメッセージ、解釈コードの重層 的構造)

クロネンの「構成規則」
内容:発語の内容
発語の行為:言語的非言語的メッセージの対人関係上の意味
エピソード:相互行為のパターンについての概念
関係:どのようにあるいはいかなる条件で、二人以上の人が関わっているかを 示す概念
生活像:社会的行為の中での自己概念
家族神話:どのように、社会、個人の役割や家族関係があるべきかに言及する 高次の一般的概念
エピソードをコンテキストとする発語内容の解釈から、発語内容をコンテキス トをエピソードの意味付けへと、コンテキストの逆転が生じ、さらに意味の構 造が連鎖的に変化している。(ストレンジループ)
ないしは、相手の言い訳的な構造が増加すると、それまでのエピソードの解釈 を一層強化することになる(チャームドループ)
そして、これまでの関係や自己像のレベルが一層強化される。これらの、意味 のレベルからなる「構成規則」は、ある主体の意味の構造の変化あるいは硬直 化は、他者の意味の構造に影響をおよぼすところから、それは相互作用を強化 したり、変容させたりする原則でもある。

CMM理論
行為を導く「制御規則」
それらの変数の一つは、行為選択の基準をあらかじめ示す機能を持つ「先行的 力」で、それは自己像、エピソード、先行する他者の行為などである。
第2は、他者が欲する反応を考慮して自己の行為を形成していく力「実践的 力」である
最後は「反映欲求および結果」である。行為者はそれまでの関係や自己像を維 持する反応を求めるし「反映欲求」また、実際に得られた他者の反応は、行為 者の「構成規則」ないしは先行的力を強めたり、変容させたりする「反映結 果」

新たな装いの援助理論は
システム的な情報環流のフレイムワークでもって、人の不適応を説明し、そし て介入の技法を示す理論体系であること
循環的因果関係が説明原理としてその理論体系の中に展開していること
そのくり返される因果関係の流れを矛盾の概念を取り入れ、質的な変化として 説明するものであること
人の相互作用の特徴である意味づけのプロセスがその体系の中に含まれること
4:臨床化の試み
家族を情報環流システムとして位置付ける場合、例えばトムでは、基本的な治 療法の特徴は、家族システムの成員が自らのシステムとしての動きを対象化 し、理解することになるような新しいノイズ(質問)をシステムないに投入 し、システムの情報環流構造を変化させることであると考えられる。



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第五章高齢者へのソーシャルワーク援助

3;援助方法論上の考察
現代社会では、あらゆる事物が商品化の法則から逃れることは出来ない。そこ では、人やものとしての価値は商品としての価値の意味となる。
最も親密な結合が存在するはずの家族ないにおいても、上記の定義はあてはま り、そこでは人格という形而上的、超越的価値は行為の最優先的基準では無 い。
しかし、現代社会では、そして家族も、人格という価値を建て前では最優先す るシステムである。
全体社会レベルでの、他者を尊重し、愛するべきという広域は
ンと社会的に有効であるべきという規範との、規範構造上の矛
盾は、家族の行為規範の矛盾となってあらわれる。
現代社会では、老いは商品としての価値がゼロ、あるいは負に低下していく発 達段階である。
それゆえ、家族ないでの老人へのメッセージの伝達は、人格の尊重と無用性と いう相対立するレベルにおいてなされる。
しかも、家族は唯一の人格結合の場所であるところから、成員はこの事態から 離れることが出来ない(2重拘束)
高齢者のこの事態克服への苦肉の戦略は次第に常軌を逸したものになる。そし て、他の成員はこの戦略に巻き込まれる。(逆二重拘束)



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