修士論文構想

「精神障害者福祉施策再編に関する一試論」

生活保護制度と精神保健福祉制度の連関から

A.はじめに
 一般に救護施設は精神障害者が割合として多く入所している施設である。また、生活保護施設、特に救護施設はよく「最後の砦」とか「最底辺を支える施設」と言われている。
以前、私が勤めていた救護施設の利用者は、農作業の手伝いなどで地域住民に重宝されている一方で、精神障害者に対する偏見が強い言動などもよく聞かれた。さらに、利用者本人からも、「こんなところ(施設)を出てやる」とか「生きていてもしょうがない」といった言動や入院中の暗い体験などをよく聞かされ、やるせない気持ちになることがあった。私は、毎日施設で働きながら生活保護を受けて生活している精神障害者は二重の意味で社会的烙印(スティグマ)を背負っている存在であると思い続けてきた。
 その一方で、近年精神保健福祉は、例えば、長期入院によりいわゆる施設病になっていた精神病患者が在宅や地域へ開放、あるいは社会復帰へと施策的に図られ、充実しつつある。しかしながら、精神保健福祉の一つの理念である「自立」として重要な要素である「就労」に関しては、賃金も含め、まだまだ十分な雇用の確保がなされているとは言えない。また、在宅で生活している精神障害者のほとんどは家族によって扶養されているか、生活保護によってなんとか生活をしているのが現状である。なお、私の地元であるQ市の生活保護受給状況では「医療扶助 入院外 精神障害者」は微増の傾向にある。このように、精神保健福祉が充実してきているとはいえ、精神障害者と生活保護は今なお密接な関係にあると言える。
以上、精神障害者を巡る福祉制度は主に生活保護による生活(所得)の保障と社会復帰など精神病者ではなく、精神「障害者」としての施策として精神保健福祉が両輪となって成立しているといえる。
では、実際のところどの様に運用されているのか、問題点はどこにあるのか、将来的にどのような制度(あるいはサービス)の連関や改善が必要なのか深く研究してみたいと思った。

B.研究目的
精神保健福祉分野は、他の障害の分野に比べて遅れているとされている。なぜなら、歴史的に精神障害者を障害者ではなく、病者(患者)として、あるいは社会的防衛の存在として捉えられてきたためである。よって、精神保健福祉分野の施策や活動にはまだまだ未整備な部分や問題点が多くあると思われる。
例えば、精神保健福祉においては「自立」が一つのキーワードになっているが、精神障害者にとって生活保護を受給して一人であるいは共同アパートなどで生活することも自立の一つの形態であると捉えられている。しかしながら、受給者自身はできることなら生活保護から何とか抜け出したいと思う傾向が強い。それは、制度的に様々な制約があり、例えば共同作業所などで得た低い工賃も収入認定され、また時々生活状況がチェックされるという不自由さに縛られるからである。しばしば、精神障害者にとって国で定められた最低生活水準が最高の所得水準となっているケースも多いのである。
精神保健福祉では、所得保障と言うよりもむしろ上記のように自立に向けた様々社会的支援を中心に捉えられている。社会福祉基礎構造改革など、一連の制度改革において、グループホームなどが新たに法定化され安定的に運営しやすくなり、新障害者プランによりハード、ソフトの拡大が図られ、支援費制度、地域権利擁護制度の創設などにより人権に配慮されたものとなってきている。しかしながら、こうした制度の充実と当事者のニーズは合致したものになり得ているのかという点では、まだ大きな開きがあると思われる。
例えば、全家連の「第3回地域生活調査」におけるニーズ調査では「グループホームの利用希望」は、「利用したい」が約40%であり、「利用したくない」が50%、むしろ、アパートなどで一人で暮らしたいという人が多いという結果が出ている。また、「自立とはなんですか」という問いに対し、「独立した生活」が約30%で、「経済的な自立」が27%である。また、「将来一番したいこと」として、「結婚」約27%、「仕事」26%となっている。なお、「仕事」には作業所で仲間との帰属感などを求める回答も含まれている。いずれにしろ、生活者としての「場」を確保していくことは精神保健福祉において重要な役割であるが、当事者の本当のニーズは少し違うところにありそうである。
このようにニーズの充足や制度の活用に関して様々な制約や限界が現在あるが、福祉制度の利用を積極的に進め、小さい作業所出発し地道に発展させ多施設に育て上げた社会福祉法人の活動や生活保護を受けながらも共同アパートから授産所で仲間と生き生きと働いている利用者などがいる。また、救護施設でも園外作業に定期的に通い、雇用主からも信頼され、「賃金を抜きにして病院にいるよりもずっと良い」と静かに話してくれる利用者もいた。
本研究では
、上記のように、生活保護と精神保健福祉は密接につながっているという視点で、両制度の捉え直すことが可能な部分や問題点を明らかにする。そして、精神障害者にとってよりよい暮らしとは何か、それを実現するためにはどの様なことが必要か、または、現在行われている施策のどの部分を改善あるいは拡大させるとよりニーズが適えられるのかなどを具体的に考察することを目的とする。

C.研究対象


D.研究方法
*できることなら、精神障害者自身への聞き込み調査などを行いたいと思っている。(実際には、インターネット上でのやりとりも含まれている)
つまり、精神障害者の現在置かれている状況を統計、調査や先行文献から浮き彫りにし、制度論としての生活保護と精神保健福祉を比較、あるいは性質などを明らかにし、現時点での精神障害者像を構築する。それらを踏まえて、現在の阻害要因や困難性を実証し、制度に内在する展望や理念または現在の実際の活動などから将来の指向性について仮説を構築する。このことは、精神障害者が現在抱えている問題の軽減や除去を実際的な視点で捉える試論である。

E.おわりに
精神障害者は、現在でも偏見が強い障害である。それだけに、福祉の分野での権利擁護などの代弁(アドボカシー)が必要である。また、精神障害者とそうで無い人の隔てのない社会の構築は、主に就労等などを通じて、一般社会の中で当事者が「生きている」という実感や自信を持てるような環境が必要であるし、そのための制度的な改善によりはじまるのではないだろうか。そうした視点から、現在とりまく環境を論述していきながら本研究を進めていく。

修士論文構成案

序章
問題点と研究目的及び方法

第1章 精神障害者の定義(概念整理)
精神障害者の定義(歴史的に精神障害者をどのように捉えてきたのかなど)

第2章 精神障害者の実態について
1.統計から見る精神障害者について(歴史的推移を中心に)
a.医療との関係の推移
b.生活保護受給の推移
c.精神保健福祉のとり組みの推移
d.家族、当事者のニーズについて
2.考察及び検証(歴史的な制度の変遷など)

第3章 精神障害者福祉の取り組みと実情
1.救護施設など生活保護のとり組みと実情
2.精神病院のとり組みと実情
3.保健所など行政のとり組みと実情
4.精神保健福祉のとり組みと実情
5.考察及び検証(制度の展開を中心に)

第4章 制度における理念と実際
1.生活保護制度の理念と精神障害者の関係
2.精神保健福祉制度の理念とその方向性
3.考察(「精神障害者にとって」両制度の理念は何をもたらしているかなど)

第5章 制度の連関性について
1.生活保護制度と精神保健福祉制度の連関性(実際の運用などを挙げながら)
2.課題(現状を中心に)
3.展望(将来的な視点で)

終章

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