ケイトケイト・ブッシュ(Kate Bush)
イギリスのエキセントリックな歌姫です。私の出会いは、ラジオから流れる、ピーター・ガブリエルとデュエット「don't give up」(ピーターの「so」に収録。これもまた名作)でした。その、まったりとした、しかし、何ともメルヘン漂う。まさに、英国のポップスに私は、はじめ一緒に歌っている人がだれなのか分からず悶々としていたのですが、のちに、彼女であることが分かり、一気に買い集め、その世界に惚れ込んでしまったのでした。
私が当時(高校生、90年初頭)の耳に届いてくるのは、マドンナだったり、マライヤ・キャリーだったり、セリーヌ・ディオンだったりして、その大味さにうんざりをしていました。もっとも、そのころには、ある程度聴く音楽も固まってきたのですが、それにしても、刑との出現は私には衝撃でした。
その、内面性を歌う深い歌詞、曲作りの精密さ、それらをひっくるめて世界の構築の堅牢さ、こういうのが優秀なアーティストであると思いました。最初、ピンク・フロイドの人がプロデゥースしていたのですが、三作目からすべてセルフで行うようになりました。どちらかというと寡作な人ですが、一つだけ挙げるのは少し難しいです。が、よく聞き込んだアルバムは「hounds of love」です。
トータルアルバムとして聴いてほしい音のつながり、世界の怪しさ、ある意味で一つの私的小説としての一応の結論みたいなものです。(あるいは、一つのベスト盤)前作、「dreaming」では、一時期、煮詰まりすぎて病院に行くような凝りようと、鬼気迫る世界から、ひとつ自分が表現したいものは何なのかという目標に関して、結論を得たような、憑き物が落ちたような、まさに個人としての芸術作品がそこにあります
とりあえず、彼女の声を聴いてほしいですね。その、繊細で、どこか怖くて。女性アーティストが好きなかたは、ここまで本格的な人がいるんだよと言うのを知ってもらいたいアーティストです。
最近は、「red shoes」というアルバムを最後に5年以上の沈黙を保っています。もし、気に入りましたら、どうぞ。

追記(2003.9.24)
この頃、やっぱり「hounds of love」を聴いてしまいます。このアルバムは、高校の時によく仲良くしていた女友達とかに貸していたこととか、私は美術部だったのですが、このアルバムに入っている「朝もやの中で」の曲のイメージをしながら朝顔が周りに茂っているなかで、真ん中にぼんやりとした光を書き込んだ絵を描いたこととか思い出したからです。歌詞の部分で言えば、[the light,begin to bleed,begin to breath,begin to speak,D'you know what?,I love you better now]のあたりです。絵の出来に関しては赤面の至りだけど、一生懸命書いているのを先生が見ていて高い点数をつけてくれたのも思い出しました。で、なんで思い出したかというと、今自宅の庭に10本くらいひもを伸ばして、蔦や葉が茂りながら朝顔がポツリポツリと咲いているのを毎日見ていることからと…安直といえば安直ですが…
でもやはり「hounds of love」はいいですね。いつもはCDを適当に5枚入れて流しっぱなしであんまり聴いていないのですが、「hounds of love」がはじまると聞き込んでいることが多く、どんどんと自分の心の中に入っていくような感覚になります。レビューの中に、「聴いている間は時間が止まってしまう」という事が書いてあるけど、全くその通りです。特に、「母親」から「魔女」のあたりはやばいくらいに「し〜ん」となってしまいます。[mother stands for comfort,mother will hide the murderer,mother hides the madman,mother will stay Mum]とか名文句です。バイオリンがあったり、アイルランド系の笛の音が入ったり、ミヒャエル・エンデの本を読んでいる(「鏡の中の鏡」とか)ときのようなシュールで静かな、でもこころの深みをのぞいているような、浸っているような世界…こうして夜は更けていくのでした。

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