A.はじめに
先に提出した、学習障害では書字や文字などの感覚統合上の問題が大きいのではないかと考察した。このことは、言語習得障害などの言語遅滞にも当てはまることが大きいと思われる。また、私の職業柄(知的障害児施設、児童指導員)、喃語でしか話せない知的障害者など言語に関する障害が多いことから、このレポートでは言語発達遅滞について文献や理論からどのように捉えられているのかをまとめたい。

B.言語獲得、習得について
脳の発達によって言語は獲得するという視点
言語活動には「聴く」「話す」「読む」「書く」といった機能があるが、「聴いた言葉の意味を理解する」能力がもっとも基本である。 これはウェルニッケ感覚言語野の機能に依る。話す能力に関しては前頭葉のブローカ運動言語野の機能に依る。

また、記憶には7秒程度しか続かない「即時記憶」、2年以内に消失する「中間期記憶」、 2年以上の記憶に不可欠の「長期記憶」の3つの機構がある。
認知体験と技能とは別系統で 記憶される。認知体験の記憶機構は、感覚統合脳に到達した情報としては 数秒以内に消失。それ以上保持するには内側辺縁系内にある海馬へ送られなければならないが、海馬は中期記憶程度(2年が限界)である。更に長期保持のためには再び感覚統合脳へ 戻されて神経回路網の改編が必要と考えられている。
大脳左半球、右半球で機能が分かれることを「一側化」とよんでいるが、この一側化が2歳を過ぎると固定化してくる。(塑性が高いため修復は可能である)しかし、第一言語(母国の言葉)は幼児から老齢に至るまでのどの時期にあっても習得が可能というわけではない。 大脳の一側化が確立される時期(思春期前後−12歳)を境に獲得要件が難しくなるとされる。

コミュニケーションツールとしての言語について
言葉は、情緒の安定性を基盤に、他とのやりとり関係の育ちや、表象能力、音にかかわる微細な協調運動能力の育ちなどを要因としながら発達していく。その他 言葉の発達には、子どもの持つあらゆる能力が反映される。記銘力やコミュニケーション活用能力、当然ながら語音そのものの認知といった力もその一つであろう。 言葉の役割としては、幼児期、学童期にはコミュニケーションの道具といったことが一番重要であろうと思われる。それには勿論、言葉を使って自己の感情をコントロールしたり、行動を調整するといった意味合いも含まれる。

 言語と認知が密接な関係を持っているということそのものには論議の余地はないようだが、認知が言語の前提条件かという因果関係については、未だ結論は出ていない。近年では、言語を認知発達を基盤にした乳児期におけるコミュニケーション機能が発展したものとしてとらえる語用論の立場が脚光をあびてきている。
脳の発達によって言語が獲得されていくが、まだまだその内実については分からない点も多く、コミュニケーションツールとしての言語の発達は、様々なルートを辿り、一本筋ではないと思われる。ただし、視覚、聴覚、嗅覚、触覚など5感の認知能力とそれを統合する感覚器官によって言語が表出するものと思われる。

言語習得障害と教育について
聴力や知能は正常範囲であるが言語の中枢機能障害のうち失語症的な原因によって起こったと考えられる言語障害を指す。成人失語症と異なるのは、習得した言語体系を全く持たず言語という概念を全く知らないことである。本症は症状の型から運動性、感覚性、混合型にわけられる。

教育に関して
サイレント型からエコラリア2型の順で重度から軽度とされており、このことは言語習得障害の言語教育を行った結果の回復過程にもみることができる。
言語習得障害児は自分の母国語に対し、ちょうどわれわれが耳慣れない外国語を聞くように声は聞こえているが、その意味が分からなかったり、分かっても自分からいうことができない状態と類似している。従って、言語を以下に多く与えても無意味である。最も重要なことは、いかに言語をこれらの障害を持つ子供に導入するかである。

C.知的障害による言語発達遅滞と教育について
知的障害に伴う場合は

など、先天性の知的能力の低さに依るところが大きい。感覚統合や脳の機能などに照らして考察すると、発達に関する全般的な障害とみるべきである。

教育に関しては、言語発達とことばを育む基礎力を重視する。ポイントとして、

2に関しては、知的機能の低さのために多くの要素に対して注意が払えないことがある。また、形・色・大きさ・模様・位地などの要素間で好みや固執性(特に位地)があり、それがすべての要素に注意を振り分けることを困難にしている。そのため、

いずれにしろ、知的障害は全般的な発達の遅れであり、言語の遅れが一番目に尽きやすいが、他の社会性や認知能力、微細運動などの遅れもみられる。しかし、自閉症と比較すると言語発達は良好なことが多く、言語能力や認知能力は少しずつであっても発達していくとされる。
私見ではあるが、私の勤めている知的障害児施設では、自閉症やダウン症、てんかんなどと知的障害が重複した利用者が入所している。
言語に関して、発達が著しく遅れているケースも多く、言っていることはある程度分かるが、話すことができない人、簡単な言葉掛けしか分からなく話せない、または喃語や指さしでコミュニケーションを図ってくるケースなど様々である。
上述に当てはめて考えると、やはり認知能力により言語によるコミュニケーションの制限が大きいと思われる。また、自閉症との重複のあり・なしでは、自閉症を併病していない利用者の方が感覚が正常であるだけに、コミュニケーションが良好な傾向にある。
また、ダウン症と知的障害を重複している利用者は、8才の頃から入所してきて現在10才になるが、徐々にではあるが言葉になっていくなど発達をしているケースもある。このことは、脳の発達と関連があると思われる。

D.おわりに
言語発達遅滞とは、発達途上の子どもが「予期された時期に、予期された伝達手段を介して、予期された正確さで、情報伝達(コミュニケーション行動)ができない」状態にあることを示す大まかな症状名である。
そのなかから、主に言語習得障害と知的障害の違い、教育の相違について述べてきた。
参考文献
『メンタルケース・ハンドブック』(菱山珠夫他,中央法規出版,1994)
『脳と心の地形図』(リタ・カーター著,養老孟司監修,原書房,1999)
参考にしたサイト
言語発達遅滞
言語の障害とその援助を考える
言語発達に学ぶ視聴覚障害
横浜コミュニティ研究会
言語発達・失語症
知的障害児のことばの指導について


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