福祉施設における職員の自律性獲得についての一考察
労働者意識・専門性・倫理の連関を目指して

要旨
 福祉施設に就職した新人や若手は、何かしらの希望や志を抱いて施設で働こうと思ったはずである。しかし、毎日のルーティンワークの単調さ、利用者の管理された集団生活、あるいは、職員は低賃金・過重労働にさらされ、考える余裕がない状況におかれる。そして、いつしか、やる気を失い、現状を追認し、思考を放棄し、流されがちになる。また、自己研鑽をしたいと思っても、現状を変えられるはずがない、学校で学んだ理論は実践で役に立たないと諦めがちである。
 本論では、現場職員が、流されがちな自分の現状をいかに打破し、希望を取り戻せるのかを考察している。それには、まず職員一人一人が自らの手で現状を知ること。そして、考え、思考の枠組みを広げること。その上で、集団において浸透させていくことである。
 本論では、現状を知るために、福祉施設の中にある多様な要素の中から、労働環境、専門性の所在、倫理のあり方を取り出している。そして、それらの諸要素が、施設・一職員・職員集団にどのような影響を与えているか、現状分析、学説の概説などを通じて考察している。さらに、一職員が主体的に関わる上で、諸要素をどう考えたらいいのかをモデル化している。
 労働環境は、まずもって使用者との対等な関係作りをしないと良くならない。そのためには、現状を分析し、労働権として何が保証されているのか・されていないのかを知る必要がある。つまり、一人一人の職員が労働者意識を持つことが必要である。
 専門性とは、施設の社会的位置づけ、利用者への認識、日常業務について、自分なりに、丁寧に考え、構築し、積み重ねていくことである。その上で、業務上へ具体的に反映させていくように集団に働きかけていくことが一職員の専門性獲得につながっていく。
 倫理とはいったい何かについて、自分なりに現実に引き寄せて実感を持つこと。そして、利用者と関わる中でどうすることが倫理に適っているかを考え、実践することである。倫理に向かって実践をすることは仕事に対して、自己の誇りや肯定を持つことができる。
 その上で、それらの諸要素が一職員の中でいかに連関しているかを考察している。労働環境と業務内容を良くしようと思うこと、そして、倫理に向かって働こうと思うことが一体的に結びつけられてこそ、一職員は現状に抗して、自律性を獲得していくのである。
2007.2.14

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