第2部 専門職としての施設職員
第1部では、施設職員であるからこそ労働権を大切に仕事をするべきであると論じた。そして、あえてはじめに述べたのは、理由がある。これから述べる施設における専門性のあり方はよく論じられる。支援・援助・処遇(以下、援助)の内実を良くしようとする会議は使用者にとって分かりやすいし、肯定的に捉えられる。あるいは、使用者にとって都合がよい。なぜなら労働権という管理者にとって面倒くさいことを考えずに職員が働いてくれるからである。使用者にとって、良い援助をしようと指向するだけの職員は使い勝手の良いコマでしかない。だからこそ、最初に労働者としての意識を持つことの重要性を述べる必要があった。良い援助をすることと労働権を固持することは両立するべきである。
ところで、現在、施設福祉は非常に肩身が狭い。施設否定論が台頭し、セミナーや研修に行くと施設職員に向かって否定的な言説を吐き、受講者に自己批判をさせている講師も散見される。それが救われるものであればよいが、おちも何もなく、ただ自己否定され洗脳されることがある。つまり、あなた(施設職員)達のやっていることは利用者のためにはなっていないと。
また、福祉施設の職員に専門性があるのかという問いが学説的にも投げかけられている。施設内の日常業務はソーシャルワークなのかケアワークなのかという論議はいまだにあるし、決着は着いていない。あるいは、専門性が無くても仕事はできるとうそぶく人もいる。ただ業務をこなす〜生活支援のルーティンワークをこなすという意味〜だけでは一見誰でもできることである。その表層だけを見れば専門性はいらないように映る。
実習生が現場実習をする中で一番悩むのは、日常業務の中には専門性があるのかである。実際に現場(日常業務)の専門性を明確に示すのは難しい。しかし、実習生が悩むのは、あくまでも業務の表層上のことである。日常業務がいかに専門性を必要とするのか(あるいは、奥深いか)を説明できるかは職業人としての我々の力量が問われているともいえる。そして、その力量は自分自身の仕事のあり方を問い、検証する中で育まれるものである。そのためには、職場に関わるあらゆる情報を精査し、自分で考える。そして、自分自身の仕事のあり方を構築することである。
こうした仕事のあり方を模索し、実践していく中で自分なりのスタイルを身につけていく。それこそが専門職としての自律であるといえる。
- 第5章 施設を巡る言説を整理し、最終的に肯定的に論じる。しかし、都合の良い言説だけを列挙するのではなく、批判されている言説を検討し施設の持つ限界と見通しについて述べる。
- 第6章 対象理解について、利用者という存在を援助者はいかに捉えるべきなのか。その視点と範囲について述べる。
- 第7章 援助者としての振る舞いについて、福祉労働の特質の一つである家事労働、感情労働などを再考する。あるいは、現場職員は専門職であることを確認する。
- 第8章 実際的な業務における専門性発揮のあり方について、その具体的なモデルを提示し、日常業務の内実を豊かにしていくのは職員の創意工夫であることを確認する。