アイデンティティ拡散症候群
後期青年期において自我同一性が形成される途中で社会から与えられたモラトリアムを利用し、様々な実験的同一かを統合していく社会的遊びが阻害されて、社会的な自己定義を確立することが出来ない状態である。


つまり、否定的アイデンティティの選択は自分の斬新的な努力では達成不可能な肯定的な役割から現実感を得ようと努力するよりも、よりたやすく、飛躍的にアイデンティティの成立を引き出すことの出来るような、役割や集団アイデンティティへの全体同一化によって起こる、つまり、ここでエリクソンは、ギャング社会にたいするすねものの徒党だけでなく、ひいては全体主義的集団をも念頭に置いている。しかるに、境界例の病理の中にエリクソンが発見したアイデンティティ拡大は、その後の急速な歴史社会変動と共に、公然化し、しかも一般化し、いまや、アイデンティティ拡散意識が現代青年一般の心理と化してしまった、とエリクソンはいう。いまや、あらゆるアイデンティティへの同一かを拒否して、あえてアイデンティティ拡散の状況を選び守り、モラトリアムに無期限にとどまろうとする青年が目立つようになってきている。このようにして、アイデンティティ拡散症候群を示す青年期患者が臨床場面で目立つその背景として、現代青年一般のアイデンティティ拡散が注目され、臨床的概念であったアイデンティティ拡散は、現代青年を理解する社会心理的な一つの鍵概念になった。

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