イリヤ

『イリヤの空 UFOの夏』
(秋山瑞人,角川電撃文庫)
【入手容易】

現在2巻まで出ている(2002.1.27)また、電撃HPという雑誌に連載されている。詳しくは、本棚の11月12日に書いてあるので、まぁ読んでください。
本来は、ある程度まとまった形で巻数がある小説を紹介しているのだけど、あまりに面白いので紹介をしてしまいたいという気持ちが強い小説なのです。

背景は、どうやら日本の田舎を舞台にしているらしい。そして、どこかの国と戦争をしていて、かなりやばい状態にあるらしい。小説の場所は、基地があり、しかも結構重要らしい。そして、戦争は長く続いているようで、けれども、侵略は陸地ではまだ行われていなくて、経済的にも制約もされずに一見のほほんと暮らしているようだ。
主人公の男子生徒は、どこにでもいるような中学生、その先輩はどこにでもいなさそうな強烈な個性を持ったCIA志望のバイタリティあふれる、別の描写でいえば、裏の実力者(裏番長?)みたいな感じ。そこに、ちょっと素性の知れないエキセントリックな女子生徒(イリヤ)が転校してくるところから、物語は始まる。
どうも、その女子生徒は、基地の子供で、しかも機密の多い任務があるようである。そして、そのトップシークレットを守るために、大人が監視をしながら生活をしている。そして、その任務はいつもは故障気味な電話から指令が下るようである。そして、彼女はいなくなる。そして、何事もなかったように現れる。ちょっと、危ない感じなのだが、ミステリアスでそしてエキセントリックである。
主人公を幼子のように信頼をして、慕い、ストレートな感情をあらわにするかと思えば、彼女の独特の沈黙や拒絶で振り回される。主人公もその主人公を友人以上恋人未満で意識している女生徒も、見守る大人達も…

まぁ、かなりずれまくっている、イリヤの行動がすごく笑えるというか、その描写がうまいというか。それに、設定が外の緊迫した状況と田舎の中学校の夏休み明けのだるい日常のギャップ。そして、外の脅威に関わっているイリヤの非日常性という二重の構造が、妙にマッチしている。また、文体も会話のテンポがよく、笑わせるところへの流れが自然で良い。
もっとも、イリヤのぼけっぷりが「萌え萌え」でありながら、媚びずにマイペースなところがすごく読んでいてかわいい。また、本棚の方にも書いたけれど、中学生という思春期を舞台に書いているのが良い。高校くらいになると恋愛というのに明確なテーマに向かって書かざるを得ないけど、自分の気持ちに気づくとか、告白するとか、相手の気持ちが伝わらなくてヤキモキするとかそういった葛藤を盛り込んでしまいがちだけど、中学生は、自分の気持ちも良く分からないところもあって、まだ、子供として無邪気な所もあって、だけど、小学校のようにただ単に単純に生きているわけでもない。そうした、ほのぼのとしたけれども深刻な葛藤を所々に挿入して、大人との関わり、人との関わりを書いていて、いろんな意味で一つのテーマに向かっていくというよりも、夏を舞台に様々な想いが、日常が、冒険が展開されていて、面白いのである。

目次