精神障害者をとりまく現状と問題点(その1)
これまでの調査を通して

はじめに
救護施設
援護寮
生活保護
県の統計調査
今後の課題として
おわりに

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はじめに
生活保護、精神保健福祉制度を利用している精神障害者の現状を福祉事務所、救護施設、県の統計室などから調査を行う。具体的には、精神障害者の実態を「入院患者実態調査」、「福祉概要」「保健所概要」などの統計や機関の職員などから把握することを目的とする。

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救護施設
6月3日に訪問する。そこで、「業務概要」といくつかの研修資料をいただく。
園長補佐より
精神障害者は救護施設では定着した対象であり、最近は、ホームレスの利用者に振り回されていると話される。都市から生活基盤の喪失により流れてきた例が2~3件あった。
精神障害者の場合は、ホームレスと同じように、知能が高く、施設での生活に満足をしていない人が多く、日常の作業などへのエスケープ、けじめを付けないなどが目立つ。また、ここにいる存在意義に悩むケースも多い。また、人によっては病院の県内と施設を行ったり来たりする人もいる(いわゆる寛解であっても急激に悪くなる人)。
施設側としては、どうしても、施設にいたくない、納得できないと主張する人であれば「ここでの生活がイヤであれば、ここにいる理由はないですよ。どうぞご自由にしてください」というスタンスで接する。
また、主に、精神障害者で生活の基盤が喪失した人にとっての受け皿がないこと、入所に対して試行期間などを設けることが出来たら、入所者にとっても納得の出来る部分が多くなるし、選択にもつながるのではないかと話される。
また、施設側としては、(象徴的な)ケースを見る、実際に利用者にインタビューをするという程度しか貢献できない。よって、今後は具体的にどのようにしたいのかを指導教官と話し合って訪問してくださいと話される。

実際、専門施設の範疇に入っていない人、重複障害の人も多く入所しており、むしろ、専門施設への入所が可能なケースに関しても、他の施設に移るタイミングを逸している人、他施設が満床で待機している昔から措置されて入所の人も多くいる。そのため、救護施設での高齢化が進んでいる状況であり、精神的なケアの他にもさまざまなケアを扱っており、多様化、重度化している。
救護施設から養護老人ホームなどへの移行に関しては、高齢化しているのもかかわらず、移行が難しいとされ、入所事由の要件が満たされない、あるいは敬遠されるケースが多い。精神病であるという理由では入所できないし、重複、糖尿病を併病しているなどのケースはほとんど無理であるとも話される。また、金銭的にも例えば老人福祉法に移行すると生活保護での障害加算は消失し、年金による受給になり、手元に残るお金が減ってしまう。また、無年金のケースもあるため、ほとんど貯蓄が出来ないともはなされる。
金銭的なことに関連して、生活保護の上限額により、14万円以上は貯蓄できない、作業においても月に8千円程度しか認められていない。また、精神障害者は、他の障害に比べ、障害の認定が難しく、また、低く認定されるため障害年金の受給額が他の障害者に比べて低い。しかしながら、他の重度の知的障害者などに比べて、知能も高く、要求も多いため購買力が高いが金銭がないということもまた、不満を蓄積させていると話される。
ちなみに、作業に関しては仕事、園外作業では、おもに農協の委託、地元の鉄鋼などで行っている。農繁期ではかなりの人手がかり出されるが、以前よりも、高齢化が進み、働ける人は減ってきている。また、利用者からは、馬鹿馬鹿しいという声も聞かれる。また、年金が受給されていない人には、14,000円が施設から小遣いとして受給されている。
「業務概要」に関しては、統計になるものはあまりなく、作業の計画や業務分担が大半である。資料自体は、昭和50年度よりある。統計に関しても、厳密性を求めることは出来ないが、「委託福祉事務所別人員」「年金の受給状況」「年齢状況」「在園年数」「障害の種別」「療育手帳所持調べ」等がある。現在お借りしているものの中で平成10年の業務概要が新しく、精神障害者は全体の32.9%であり、精神障害福祉保健手帳を所持しているのは一人である。また、年齢では50歳以上が72.2%であり、在園年数に関しては20年以上になるものが52.6%である。一概にはいえないが、長期化、高齢化が推測され、精神障害者の割合も多く、保健手帳の所持はほとんどいないといわざるを得ない。

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援護寮
県で行っている援護寮を園長補佐の紹介により訪問し、スタッフの一人より説明、施設内の案内をしていただく。
援護寮は、ある程度病状が落ち着いている人を対象とした集団生活などを通して生活感を身につけることを目的とする。主に分裂病患者を対象にしている。理由として、アル中やてんかんでは援護寮の主旨にはずれる行動をとりやすいということが話される。問題行動、輪を乱す行為は、他の利用者~分裂病患者にとってかなりストレスを及ぼすということが主な理由のようである。つまり、分裂病患者のための日常生活感の回復を目的としている。
県の精神保健福祉政策の一環であるが、すでに民間の病院で様々なとり組み、ディケア、通勤寮、ショートステイ、グループホームなどが行われていて、需要が少ないとも話される。しかし、援護寮の他に、医療センターや病院も一緒になっているのになぜ、そこから援護寮にシフトできないのかと訊ねると、開放病棟に分裂病患者が少ないこと、ショートステイのシステムがないため、試行するということが難しく、援護寮の対象になる人がいないということが話される。
援護寮にはいるための条件が、医師とスタッフによる厳正な審査が2回行われ、利用条件が厳しいこと、精神保健福祉の資源が実質、援護寮と病院内での簡単な作業しかないため病状に応じた選択肢に乏しく、全体的な生活支援が出来ないことなどが話される。
制度的に、グループホームは期限がないため、空きがない。福祉ホームは2年の延長が可能。援護寮は1年の延長のみである。また、職親制度は開拓や交渉を行い、受け入れはよいが金を出さないということが往々にあると説明する。
地域や家族については、県の精神医療センターの場所に、民家が少なく、また県全域を扱っているため、地域や人目を忍んで受診や入院をしに来る人が多い。よって、地域とのつながりを逆に求めたくない人が多い。家族の無理解は依然として強く、病状がかなり悪いときに入院などをするため、患者に対して家族がかなりの恐怖感を持っている人が多い。よって、家庭に戻りづらくなっている人が多い。また、病気に対する無理解も多く、一見すると精神病の状態が家族などには怠惰に見えることがあり、そうしたことを含めて調整が難しいと話される。
患者自身についての印象について、発病するまで学歴が高い人も多く、プライドも高い人が多い。しかし、病気との関係でそのギャップに苦しむ人が多いとも話される。
最後に、この援護寮は環境がよすぎて、(冷暖房完備)たとえば、冬にはストーブに使う灯油をガソリンスタンドで給油するとか必要がなく、生活感に欠ける嫌いがある。実際には、料理や洗濯、身の回りの片づけは行うが、もっと行わないといけない様々なこと、買い物や公共機関の利用などが立地条件によって制限されている。と話される。また、作業に関する報酬なども、公的な機関なため与えるのが難しく、現在は、ほとんどボランティア的なことでごまかしている部分も多い。

印象として、空き部屋がかなりあり、しかし、設備や建築状態はすごくよい。福祉資源のリンクがうまくいっていない印象が強く、生きた制度運用がなされていないと思われる。
また、精神保健福祉としての取り組みはむしろ、病院の方が発展しており、話を聞く限り、むしろ民間の病院の方がうまく結びついていると思われる。実際に、とある病院では、老人保健施設、精神障害者のための通勤寮、痴呆老人のグループホーム、ショートスティと抱え込んでおり、このあたりの発展は医療法人が強いことが伺える。もともと、精神障害者は契約によるサービスが多く、病院にとっては馴染みやすい領域なのではないだろうか。

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生活保護
「福祉概要」の項目にある、生活保護の統計を一本にまとめる。大まかに統計を読む限り、医療扶助や「傷病による開始病類別分類」でも精神障害者が大きな割合を示していることが分かる。また、「保護の廃止原因別状況」は、傷病の治癒は極端に少なく、このことは、精神障害者の医療扶助での通院数の維持などから、直ることなく生活保護を受け続けていることが推測される。

ケースワーカーから少し話を聞くと、精神障害者のカテゴリーは、もともと精神障害者は病状として捉えられてきており、その名残として、統計にずっと残ってきていると話される。(身体障害者、知的障害者も生活保護を受けているケースもある。)
そもそも、他方優先の原理によって、現在は精神保健福祉法の32条を適用して、障害者としての制度が確立しており、生活保護が自己負担分を適用しているケースが多いと話される。

このことについて、精神障害者は他の障害と違って障害認定が他よりも格段に低いことも事実で、そのため、障害基礎年金だけでは暮らせないことが多く、結局生活保護を受けるケースが多いのが現実のようである。

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県庁などの統計資料より
情報公開室、県立図書館より、保健所の「業務概要」を中心に統計を収集する。「精神保健センター所報」では、「精神病入院患者の実態調査」が行われているが、協力している病院が全病院というわけではなく、また、時系列にして並べると穴があるが、保健所の概要などから推測してだいたいの精神障害者数や様々な項目が関連づけて推測することが出来るものと思われる。ちなみに、精神衛生センター時代の患者動態調査は、精神保健福祉センターに保存している可能性があるので、そのあたりを調査する必要がある。当面は、収集した段階での統計の作成を目指している。

また、精神保健分野では、秋田県環境保健部公衆衛生課→秋田県福祉保健部保健衛生課→保健所概要→秋田市保健所概要というながれで、統計が引き継がれている。

精神病入院患者の実態調査からは、実際に治療に当たっている人たちの実態を把握しながら、保健所概要から精神障害者の全体的な数字や入院にいたった経緯、取り組みや社会資源の発達などを把握していきたい。

入院患者の実態調査では、平成12年度の調査が現在入手する中で新しかった。入院患者について、「在年別」では50歳以上が77.18%であり、在院期間別では5年以上が43.63%であり、20年以上は16.07%である。分裂病の患者は全体の55.18%であり、精神病とは分裂病であるというくらいに多い。退院患者に関しては在院期間別にみると、3ヶ月から6ヶ月未満で77.81%であり、5年以上では4.5%と逆に少なくなっている。また、入院患者は4,212人であるに対し、退院患者数は311人であり、入り口はあるが出口がないといわれる精神障害者の医療の一面が見えるものとされる。退院後は家族と同居している割合が46.62%であり、その後の通院状況などは保健所概要などから推測していきたい。また、外来患者については、総数が7,842人であり、入院患者のおおよそ2倍近く何らかの形で医療にかかわっていることが伺われる。

保健所概要では、平成8年から秋田市に関しては市町村業務となり分離している。それ以前の資料では、精神衛生単独で概要を発表しているものは昭和45年(種目によっては42年より)から、県の保健所概要は35年から資料は揃っている。まだ、詳細には分析していないが、入院患者の実態調査の入院数に近い数字であることから、「医療費別在院患者数」での生活保護、措置、その他(健康保険など)の推移などを見ることが出来ると思われる。現在は、入院患者の生活保護での構成比は18.33であるが、昭和42年の「精神衛生」では、37.5%であり、措置は平成13年では1.59%であるが、昭和42年では34.5%、保険利用などその他では、平成13年では80.08%であるのに対して昭和42年では28%と大きな変容があり、統計の背景などをとりながら実証していくことによって、精神障害者の歴史的な制度の変化を捉えていくことが出来るものと思われる。また、在宅での病類別などで入院、通院だけでない総数を把握し、精神保健福祉相談などの種目から、どのような相談が寄せられているのかなどを把握することが出来ると思われる。

現在、精神保健福祉分野も支援制度の導入に向けて社会資源の充実がなされてくると思われるが、実際には、病院を母胎にした様々な福祉的なサービスがなされているのが現実である。よって、入院患者とその実態、福祉の統計と比較することによって、まだ、基盤が弱いことが実証されると思われる。また、こうした統計とともに他の障害の福祉施策の統計を取ることも必要になると思われる。

一つの統計調査では、不十分なものは他から関連させていくことで埋め合わせていきたい
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今後の考察として

1.
他の疾病での入退院の状況などが統計により比較することによって、精神病者の社会的入院が明らかになると思われる。
2.
救護施設同様に、知的障害者の更生施設での高齢化が問題になっている。支援費制度が導入されることによってどのように変わるのかなどを考察することによって今後の方向性が明らかになると思われる。
3.
無年金問題に関しては、文献では明らかに存在するが、実証するための基礎資料が揃わなかったため論述を控えたが、この問題は、精神障害者にとって根本的な問題になりうると思われる。
4.
精神障害者と精神病者の区分がどのあたりにあるのかをより深く考察する必要がある。
5.
障害判定や制度的なものが、他の障害に比べて金銭的に保証されているかどうかも比較の中で捉える必要がある。
6.
歴史的な推移もあるが、精神障害者の行政での管轄が保健所であり、他の障害に関しては福祉事務所の管轄になっていることは、やはり特別な区別を行っているのではないだろうか。現段階では、素朴な疑問でり、その理由などを考察していく必要がある。

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おわりに
精神障害者をとりまく環境で、生活保護、精神保健福祉を中心に資料の収集や調査を行って、はじめにたてた研究計画による両制度の比較というよりもむしろ、実態は、生活保護を受給しながら精神保健福祉制度を利用している人もまた多いのではないかと思うようになっている。また、精神保健福祉は医療と密接に結びついていて、病院内にさまざまな精神保健福祉施設などがあり、むしろ、福祉単独での取り組みは未だ少ないのではないかと思われる。
今後は、生活保護の制度的な欠陥や精神保健福祉制度の現状などを文献などから考察していきながら、統計の背景をより詳しく理解していくようにする必要がある。

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