実習ガイダンス説明

はじめに
 みなさんこんにちは、「W園」で児童指導員をしているものです。いまこの中にいるかたの内何人かは、当施設に実習に来ていただくのではと思うのですが、W園の概要とこれまで医学生の実習を受け入れてきた経緯から、実習に際してのいくつかのお願いについてもうしたいと思います。

1.施設の概要
 W園は、今年で創立40年となる知的障害児施設です。施設の概要についてはお渡ししたパンフレットの最後の方に簡単ではありますが書いてありますので、目を通していただきたいと思います。補足として、

a.知的障害児施設の役割について
 知的障害児施設とは、養育が困難とされる家庭や状況などを理由に、児童相談所を通して措置されてきた知的障害児を預かる施設です。養育困難とは、様々な理由がありますが、例えばそれまで父母どちらか(主に母親に比重は大きいとされています)が養育をしてきたが離婚になってしまい、母親も働かなければならなくなったため養育が困難になったとか、何とかこれまで養育してきたものの保護者が高齢になりつつあり、体力面や心理面で困難になったとかが挙げられます。
 知的障害でない場合は、保育所などが0歳から預かることが可能ですし、子供が大きくなっていくに従って自立していき、養育面では負担が軽減されていきますが、知的障害、特に重度であったり、自閉の症状が重かったりする場合は、成長と共に体力が付く分、より養育面での困難性が高くなると言えます。そうした中、離婚やどちらかの死亡、失業など社会的な困難が重なり、児童相談所に親が保護を求めたり、周りから勧められたりするケースが多いと言えます。(ちなみに、知的障害でない場合で養育困難であると認められた場合は、養護施設に入所するということになります)
最近は、知的障害者に対する地域生活が行えるような福祉制度が増えてきたりしています。しかし、実態として知的障害を持つ児童に関する福祉施策は必ずしも充実しているとは言えませんし、善し悪しは別にして、現実的にはこうした施設は未だ必要であるといえそうです。

b.当施設の連携について
 当施設では、児童相談所の他に、栗田にある養護学校などと連携をしています。さらに、現在、放課後支援事業といいまして、養護学校へ家から通わせている母親などが、働いている等の理由で学校が終わった時間すぐ迎えに行くことが無理であるという人を対象にした、いわゆる預かり保育を行っています。また、利用者以外の知的障害児を持つ家庭に対しても様々な事情(例えば旅行、冠婚葬祭など)から施設に一泊(数日の場合もあります)したり、必要な時間預かるショートスティやディサービスなどを行っています。要するに、当施設は知的障害児のための保育的機能や生活を総合的に担っているといえます。

c.当施設の現状について
 最近では、養護学校を卒業した後や成人になっても入所し続けている利用者が増えてきてまして、これは、他に受け入れる施設や制度が十分でないことが大きな要因ですが、入所定員の約半数が20歳以上となっています。ちなみに、男女比では男性が3/2を占めています。中には32歳になる利用者もいて、下は小学校4年生と年齢の幅やライフサイクルとして施設本来の役割から適さないこともありますが、これは福祉制度の拡充と共に解消されていくことを施設側としても期待していますし、残っている利用者に対して成人にふさわしい作業内容などを用意し、工夫しているところです。(例えば自閉症に適した構造化を取り入れた作業や他の知的障害者施設で行っている福祉的就労へ実習に赴くなど)

2.利用者の特徴
 施設の概要にも述べたとおり、利用者は知的障害を持っています。さらに、主な疾病としてダウン症、自閉症、てんかんなど知的障害と重複している利用者もいます。それぞれの疾病の病理的なことについて述べることについて控えさせていただきます。しかし、実習に来て頂いた際にダウン症と自閉症の利用者の区別は付くかと思います。とはいえ、大まかに当施設にいる利用者の特徴について述べておきたいと思います。
 当施設では、言語によるコミュニケーションが取れない、つまり非言語中心の重度の利用者が多くいます。中には、ほとんど意志が疎通できない利用者もいますし、指さしなどでコミュニケーションを行う人もいます。また、自閉症特有の言語はあるもののいわゆる反復語と呼ばれるものがありまして、例えば、学校から帰ってきて職員が「おかえり」と話しかけると利用者が「ただいま」ではなく「おかえり」と職員が言った言葉をそのまま繰り返したり、たずねたこと(例えば「帰省中家では何をしてきたの」)をそのまま繰り返して応えが返ってこないことなどがあります。あるいは自分のスケジュールを繰り返したり、「おかあさん」と連呼していたりと意志の疎通が取れているのかどうなのか疑問に思われることも多々あります。
 とはいえ、そうした中にも、会話としては長く続かなくても、職員が言ったことを全く理解しないわけでもなく、それとなく体に触れて促したり、本人が理解できる範囲で声をかけたりすると自分なりのペースで作業や日常生活などを営んでいます。
 以上のような特徴は主に自閉症の方が中心ですが、自閉症のない方も多くいますし、会話が成立する利用者も多くいます。実際に、実習に来る皆さんに話しかけてくる利用者のほとんどは、自閉症などは持っていない方たちだと思われます。ちなみに自閉症の方は約半数、ダウン症の方は7名ほど、てんかん発作を重複しているのが8名ほどいます。
 いずれにしろ、こうしたことについては半日あるいは一日の見学程度の実習であっても体験できることと思われます。

3.実習に際してのお願い
なぜ福祉施設で実習をするのかということについては、大学側でお話や書類があるかと思いますので、私は施設側として実習をしていただくことについてのいくつかの基本的なことについてお話しいたします。
A.関わり方について
 利用者は実習生が好きで何かと刺激を求めていろいろと話しかけてきますし、好意的です。そうした意味でも安心していただきたいと思います。あるいは実習生に甘えても来る場面もあるかと思います。といっても、職員が厳しいというわけでもなく、やはり職員はどこまでも職員であって、やはりその辺の線引きは利用者の方でもしているんだと思います。医学生の実習生でこれまで怪我をさせてしまったりとか暴言を吐いて泣かせてしまったと言うこともないので(他大学でも同様ですが)大変好評です。
 しかしいくつかのことについて念頭に置いてお話や関わりを持ってもらいたいと思います。
 ひとつが、出来ない約束はしない。これは、利用者がついつい甘えから、これをやってとかあれをしてとか話してきても安易に承諾して約束してはいけません。約束したことについては利用者はいつまでも覚えていますし、約束が果たされないことに対して不満を強く持つ傾向があります。すぐに出来そうなことは承諾しても良いのですが、「出来そうかな」「出来ないかな」と思ったら、職員に話してみるとかそれとなくはっきりと「できないからごめんね」といったように断っていただきたいと思います。断っても利用者は傷つくということはそんなに無いかと思いますし、不満は約束を守らないよりもずっとましなのです。気になるようでしたら職員に話して調整していただきたいと思います。
 もう一つが、利用者に対して拒否的な態度は出来るだけ謹んで欲しいと思います。初めての自閉症や知的障害児との関わりで、少なからず動揺や怯むような気持ちも出る方も中にはいると思いますが、それが露骨になったり、冷たい態度は、利用者や職員には見えてしまいますので慎んでいただきたいと思います。利用者の人たちは皆明るく、楽しい人たちばかりですので、話しかけたり(さりげない挨拶や、笑顔など)や話しかけられた場合は内容が分からなくても聞いてあげたりと優しく接していただけたらと思います。ただし、滅多にありませんが強く叩く利用者、あるいは利用者が暴言を吐くなどがありましたら、そうしたことについてははっきりとした態度で拒否していただいても構いません。

B.その他
 半日か一日の実習ですが、利用者と関わるために動きやすい格好をしていただきたいと思います。内容的には一緒に散策に出掛けるとか軽い運動程度を行うと思いますので、内ズックとスニーカー類の履き物を用意してもらいたいと思います。また、それに伴って、汚れても良い格好…といっても汚い格好ではなく、普段学校に行っているような格好で構いません。
 その他、細かいことかもしれませんが、以前にもあったことについて補足させていただきます。
 一つは、利用者からしつこく住所や電話番号などを聞かれても教えないで欲しいことです。他大学や短大の実習生などにもお話しているのですが、電話番号を教えてしまったばかりに、頻繁に利用者がコンタクトをとって実習生が困ってしまった経過があります。名前などは別に構いませんが、ぜひ、住所、電話番号を聞かれてメモをくれるように利用者に言われても、「そのようなことは出来ない」とそれとなく拒否していただきたいと思います。
  また、貴重品は肌身離さず持ち歩くか、持ってこないことをおすすめします。以前医学生の実習生が朝に携帯電話を施設内で落として無くしてしまい、見つかるまで捜したことがあります。実は、落ちていた携帯電話を利用者が拾ってそのまま返すに返せずにあるいは言い出せずにしばらく持っていたことがあったのです。中には、盗癖や収集癖のある利用者もいますので、財布や携帯電話などは注意していただきたいと思います。
いずれにしろ、知的障害児・者といわれる利用者とのつきあいを通じて、こういう人たちもいるんだと認識することだけでも大きな事と思います。ぜひ短い間だと思いますが、楽しい実習になればと思います。
(2004.5.18)

感想
はじめてのガイダンスなるものに参加して、汗だくだくで、学生の顔を見る余裕もなく、ひたすら原稿を読み、読みながら補足した方がよいかなと悩みながらの説明でした。国立大医学部の学生を相手に何を喋ればよいのか悩みました。原稿は素でゆっくり読むと15分くらい。他の資料も交えながらの説明しながらだったので、規定の30分きっかりでした。

ホームインデックス