社会福祉施設労働者の専門職性についての一考察
kuma(W学園)
〔キーワード〕福祉労働論,感情労働論,職人の倫理

1.研究目的
 昨今景気・雇用情勢の悪化により,派遣労働者を中心に大量の失業者を生み出されている.しかし,その一方で,福祉分野,特に利用者へ直接的にケアサービスなどの対人サービスを行う業態(以下,福祉現場とする)での離職率の高さや人員不足は深刻である.このため厚生労働省は,雇い止めになった派遣労働者を福祉現場への就労支援を行っている.しかし,こうした派遣労働者が福祉現場に定着し,人材不足が解消されたとは言い難い.その要因に,不規則な就業形態や労働密度の高さといった労働条件の厳しさが指摘されている.
 ところで福祉現場に「やりがい」があるとする根拠に,専門性の高い仕事であることが挙げられる.確かに,社会福祉士や介護福祉士等の国家資格の整備と取得者の増加,あるいは福祉領域の大学・短大で専門教育を受けて福祉現場で働いている人々は増加している.しかし,その一方で福祉の仕事は「誰でも出来る仕事」(福祉労働者の専門職性の軽視)として喧伝されている.自己裁量権が高く専門的知識を活かした仕事に就ける者は少数いるものの,多数は集団的でシステム化されたルーティンワークに従事することになる.そこでは,無資格者や専門の教育を受けていない人と同列の価値で働くことになる.つまり専門知識が福祉労働の価値を高めている状況にはないといえる.とはいえ,労働者の専門職性の軽視(非熟練化)は他の業種においても同様に進められており,その原因は現在の労働環境を形成している主流のイデオロギー(新自由主義)や働き方のシステム(ポスト・フォーディズム)にあると考える.
 本研究では,新自由主義やポスト・フォーディズムがいかに福祉労働者の専門職性を軽視しているのかを考察する.その上で,福祉現場において必要とする専門職性とは何かについて考察し,提示することを目的とする.

2.研究の視点及び方法
 福祉労働問題を取り上げる場合,先行研究では,新自由主義かポスト・フォーディズムのどちらか一方から論じる傾向が多い.本研究では,福祉労働者の専門職性の軽視は両者が密接に結びついているとする視点に立ち総体的に論じていく.
 研究方法は,文献研究であり先行研究から,1.福祉現場の専門職性をないがしろにする言説の諸要素を取り上げ,批判的に論じる.2.対抗的な言説として「職人の倫理」を手がかりに,専門職性を改めて考察(再構築)し,いかに現実的に適用しうるのかを検証する.なお本研究は主に社会福祉施設等における福祉労働について考察を行う.

3.倫理的配慮
 本研究は主に文献研究である.先行業績,引用等について日本社会福祉学会の定める研究倫理指針を遵守する.

4.研究結果
 福祉の仕事は従来から専門性の追求よりも,思いやりや奉仕の精神が強調されていた.しかし,現在の福祉労働者の専門職性を軽視はそれとは別の要因が加わっている.それは,新自由主義が推進する労働の流動化・柔軟化.ポスト・フォーディズムの特徴,労働者の感情すらも商品化するといった人間性の搾取である.特にポスト・フォーディズムのこの搾取を巡る問題群は「感情労働論」として論じられている.
(詳細は当日資料を配付する)

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