心の病に効く薬
風祭元
有斐閣選書1980年

コメント
古い本ですが、まぁ、ざっと読むには良いかと思いました。薬について調べていたのですが、総体的な指針がなく、こうした概説書を求めていました。しかし、薬と精神病の関係は奥が深く、また、調べきれないことを痛切しました。少なくとも、素人として。唯一知ったことは、このような薬が現在、社会的に暮らすということを可能もしていること。精神病は、治療しないことによって、社会の成員として認められないこと。それは、薬という媒体を介しているということでした。薬が、ひとつの装置として、患者とされる人たちに社会生活を保障して「やる」という意味で。

目次
精神薬理学の歴史
向精神薬の効果の臨床評価
ノイローゼに有効な薬−抗不安剤−
不眠症に有効な薬
躁鬱病に有効な薬
分裂病に有効な薬

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序章−こころのはたらきと薬−精神薬理学の歴史−

脳の働きと化学物質
心の働きは、何らかの脳の中での物質の影響を受けていて、向精神薬はその物質に働きかけて、正常に戻そうとするもの。
精神薬理学は、脳機能に作用する薬の作用を単に調べると言うことだけでなく、薬の作用の研究を媒介として脳の機能を追求し、これまで病因が不明で難治とされていた精神神経疾患の診断や治療法の解明にも役立つことが期待されている。

精神薬理学発展史の概観



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向精神薬の効果の臨床評価
検査法による、従来の市販薬剤を洗い直す。
対照薬との比較:プラセボを対照薬にして、一定の効果が確認されている薬と比較する。綿密な計画が必要
二重盲検法
:医師も患者も効用がわからなくして、被検薬と対照薬を使用する。プラセボ効果は医師側の先入観や評価の偏りの影響が大きいため、確実な比較評価は医師もブラインドする必要がある。試験の直接担当者でない第三者がコントロールする。


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ノイローゼに有効な薬−抗不安剤−
神経症の薬物療法は、古くは鎮静・催眠剤が用いられてきた。なかでも、アモバルビタールなどはその少量服用によって、昼間の不安、緊張を解く作用があるため、広く使用されてきた。抗不安剤の開発と共に、棲み分けが出来てきた。
抗不安剤の源は、筋弛緩剤に始まる。1946年にグリセリン・エステルであるメフェジンという薬物に筋弛緩作用のあることが発見されたが、その後間もなくして本剤に精神的な不安や緊張に対しても効果があることが注目される。
1954年にメフェジンの誘導体であるメプロバメートがアメリカで合成される。今日抗不安剤と呼ばれる一群の最初のものといわれる。類似合成物として、エクチルウレア、ヒデロキシジン、ベナクチジンがあるが、現在はヒデロキシジン以外はほとんど使われていない。
1957年アメリカでベンゾジアゼピンが合成され、現在、抗不安剤の主流となっている。1960年に、ベンゾジアゼピンからジアゼパムが合成される。

抗不安剤の種類

薬理作用
メプロバメートもベンゾジアゼピンも視床および大脳辺縁系(海馬、扁桃核など)に対し選択的に働きかけるとされる。これに反して、網様体、新皮質、視床下部、呼吸中枢などにほとんど作用しないことが知られている。
意識及び高次の精神機能(思考など)に影響を及ぼすことなく、選択的に不安、緊張などの情動面の障害を改善する。
不安、緊張、抑鬱、興奮、過労などの情動的な刺激によって引き起こされた不眠を大脳辺縁系に対する抑制作用によって間接的に改善する
大脳辺縁系に含まれる自律神経中枢に作用して、神経症や心身症における身体的愁訴や自律神経症状を改善する。

副作用
共通してみられるのは、眠気、倦怠感、ふらつき、脱力感など。これらの抗不安薬の多くが持っている催眠作用と筋弛緩作用とに由来するものとされている。特に衰弱している人や老人では筋弛緩作用が強く出現するので、歩行障害、起立不能などを起こることがある。



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不眠症に有効な薬
不眠症の種類
入眠障害型
寝付きが悪く、夜中過ぎか早朝になってやっと寝付けるため、朝の起床がつらく、寝不足感が強い。
身体的にも精神的にも特に病的症状がないのが普通で、寝付きに時間がかかる非能率が我慢ならない睡眠不満足型で、いわゆる不眠ノイローゼといわれるもの。このタイプは、精神緊張が長く持続し、リラックスできずに夜に強く、従って朝に弱いわけである。
きわめて有効な薬は、少量の抗不安剤、精神安定作用のある睡眠導入剤である。精神的緊張を緩和する目的がある。
寝付きが悪く、ほとんど眠れないか眠っても浅く、眠れた感じがしない。
強い精神的ショックや強い不安があるため、精神緊張がよるまで持続するもの。脳幹網様賦活系の興奮が修まらないため、睡眠ポリグラフでは、覚醒状態との宇野浅い眠りの段階を行ったり来たりするだけで、中等度睡眠や深睡眠が全く見られないもの。
翌朝は疲労感が強く、食欲なく、緊張が続き、自律神経系は不安定になる。
精神的ショックによる心因反応やヒステリー状態によく起こり、精神分裂病の急性発症時にも見られる。
時には、強力精神安定剤の投与を必要とするケースもある。

睡眠持続障害型
寝付きはよいが夜中や早朝に目が覚める、でもまた一眠りする。
老人などの生理現象として、よく見られる。睡眠途中で覚醒をするため、朝の目覚めが悪い。
寝付きはよいが、夜中または早朝に目が覚め、後は眠れないか浅い睡眠で夢が多い。朝の起床がつらく、寝るときよりもずっと具合が悪い
鬱病に必ず出る睡眠障害。目が覚めてしまうと心配事や不安が頭に浮かび、取り越し苦労が始まる。このときは自律神経系が不安定で動悸も起こりやすく、その後眠れても厭な夢などを見る。

不眠症に効く薬
アルコールなどで眠ることが出来るが、耐性がついてきて効果が軽減してしまうことがある。
精神安定剤
抗不安剤:ベンゾジアゼピン系の薬が代表的。使用量も少量で有効。大量用いても中毒を起こすことがない。薬をやめてもよい状態になってくると漸減方法を採るのがよい。
抗精神病薬:入眠型の「寝付きが悪く、ほとんど眠れないか眠っても浅く、眠れた感じがしない。」等の治療に使われる。主としてフェノチアジン系の薬が適している。
抗うつ剤:睡眠持続型に使用される。抗うつ剤には催眠作用がほとんどないため、催眠薬、または抗不安剤と併用すると睡眠が安定するとされる。
睡眠薬
バルビツール酸系の薬は、入眠作用が強く、催眠作用時間が短いものから、長いものまであり、睡眠薬としては短時間作用のものと中程度時間作用のものがよく用いられている。この薬は全て長期間連用する場合、アルコールに似て習慣性があり、量を間違い多量に服用すると生命に危険を及ぼすことがある。また、服薬を急にやめると、レム睡眠が異常に増加し、睡眠障害を起こすことになりかねない。
ベンゾジアゼピン系の催眠導入剤は、入眠効果はやや弱く、無理に起きていようとすれな眠らないでいられるが、眠ろうとすれば、寝付きもよく、比較的自然に近い睡眠が得られる。レム睡眠の短縮作用もきわめて少なく、習慣性もほとんどない。



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躁鬱病に有効な薬

躁鬱病の薬物療法の歴史
1935年までの日本では、鬱病の治療法として、アヘン定式療法といってアヘンチンキを少量から漸次増量する療法が用いられてきた。ついで、大量の鎮静剤や睡眠薬を組み合わせて患者をほとんど持続的に眠らせる治療法が用いられてきた。電気ショック療法の有効性が1938年に発表されてからは事実上これが唯一の、最も有効な治療法となる。感情調整薬といわれる三環系抗うつ薬が使われるようになるのは最近のことである。1957年R・クーンによってイミプラミンの抗うつ作用が発見、ついでその3年後にアミトリプチリンも同様の効果を持つことが報告される。おなじころ、モノアミン酸化酸素(MAO)阻害剤の一つ、イプロナイアジドの抗うつ作用が発見される。この薬剤は主にアメリカで使われるが、副作用が強いため、徐々に使われなくなり、現在では三環系抗うつ薬が鬱病治療薬の主役になっている。
躁病の治療における最近の大きな進歩はリチウム療法である。1960年代から試験的に使用されていたが、1980年に日本でも健康保険に採用され、一般病院でも使われるようになる。

躁鬱病のアミン仮説
内因性の躁鬱病は、治療をしなくても、自然軽快になる。また、進行して廃人になることもない。しかし、再発することがある。あるいは躁から鬱へ交代して反復する。このことから、この病気の基礎には脳の中の代謝的な変化が関与しているのではと古くから考えれてきた。現在では、躁鬱病は精神疾患の中でも生物的な病気であるとみられる。生物学的というのは、脳を含めた身体のどこかの病気の原因があるということである。その生物学的基盤の中で、注目されているのが、アミン代謝である。
アミンというのは、アンモニアの水素基を置換した化合物の総称である。生体内では、脳内の視床下部中枢の自律神経中枢や、ホルモン分泌の中である間脳下垂体系の機能、及び辺縁系の機能などが、生体アミンと密接な関係を持っていることが知られている
生体アミンのうち、ノルアドレナリン、ドーパミン、セロトニンは、脳内の神経伝達物質の中で最も重要なものです。
躁鬱病のアミン仮説とは、ノルアドレナリンとセロトニンの代謝のいずれか、あるいは両方の機能的異常が、躁鬱病と関係しているというものである。

鬱病の薬物療法
種類:1957年にイミプラミンの抗うつ剤が報告されてから、三環系抗うつ剤が次々と開発される。化学構造の上から、これらの薬剤もアミン類に属し、イミプラミン、アミトリプチリンのようにアンモニアの三つの水素基が炭化水素基で置換された薬物を三級アミンといい、デシプラミンのように二つの水素基が置換されたものを二級アミンという。イミプラミンを服用すると、肝臓で脱メチル代謝を受けて、血液中には元のイミプラミンと共にデシプラミンが出現し、この両方に抗うつ効果があるとされる。アミトリプチリンとノルトリプチイリンも、これと同様の効果ある。
抗うつ薬の作用機序:これら三環系抗うつ剤は、シナプス前部から放出されたアミンの再取り込みを阻害することによって、シナプス間隙のアミン濃度を高め、鬱病患者のアミン活性の機能的低下を代償すると考えられている。
他には、MAO阻害剤(セロトニンもノルアドレナリンも神経終末でMAOによる酸化作用を受けて活性化を失い、代謝、排泄されるがそれを阻害する)アミン前駆物質(アミンを増加させる)などがある。

躁病の薬物療法
リチウム、炭酸脱水素阻害剤、カルパマゼピン、アミン抑制物質



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分裂病に有効な薬
抗精神病薬が最も効果を示すのが、精神運動性興奮、いらいら、不眠、不安などで、幻覚、妄想が軽くなり、話のまとまりのない点などが改善されやすい。
これに対し、意欲がない、自発性に欠ける、閉じこもる、感情的反応が鈍くなるなどの、分裂病の陰性症状と呼ばれているような症状に対しては、薬の効果があまり著明ではない。

急性期の症状に対する鎮静療法
病的な不安や興奮を静め、幻聴や妄想などの異常体験を軽くするために、鎮静作用の強いクロールプロマジン等の抗精神病薬を比較的大量に投与します。この時期は、患者に病識がないため、やむなく、筋肉注射や静脈注射による投与法も使われる。
パーキンソン氏病などの副作用が出る時期ではあるが、やもえないばあいもある。

維持療法
社会復帰のために、社会的リハビリテーションやあまり強くない精神薬の投与を行う。

再発防止療法
眠気など出来るだけ少ない薬を用いて、1日1〜2回の服薬ですむようにする。
分裂病が、生物的な原因が分かっていないため、薬の作用機序については、本当のところ分かっていない。

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